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新型コロナウイルス感染症の高齢患者の約半数は低栄養状態

2019年12月ごろから少しずつ話題になり始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。

皆さんもうおなじみかと思うので新型コロナウイルス感染症(以下コロナと略)についての出来事などは省略しますね。ショッキングなニュースもありました・・・

さて、管理栄養士目線からすれば、コロナの患者の栄養状態はいかがなものか、気になるところです。

そこで今回は、コロナの高齢患者における低栄養の頻度と低栄養に関連する因子を調査した論文を簡単に紹介します!

【Title】
Prevalence of malnutrition and analysis of related factors in elderly patients with COVID-19 in Wuhan, China

【Journal】
European Journal of Clinical Nutrition (2020) 74:871–875
DOI:https://doi.org/10.1038/s41430-020-0642-3
Published online: 22 April 2020


■背景、目的

コロナは中国のWuhanで発生し、中国国内や世界中に急速に広まった。臨床現場において、コロナの高齢患者には低栄養のリスクがある、または低栄養を合併している症例が多く見られる。

そこで、コロナの高齢患者の栄養状態を評価するために、横断研究を行った。


■対象者と方法

①対象者
2020年1〜2月にWuhan Tongji Hospitalにコロナの治療のために入院した患者。65歳未満の患者213名、データが欠損している患者15名、重篤な肝障害がある患者4名、重篤な腎障害がある患者17名を除外し、最終的な対象者は182名。

②患者の基本情報
年齢、性別、併存疾患の有無(高血圧、糖尿病、脳血管疾患、心血管疾患、慢性肺疾患)、入院時のアルブミン(Alb)・ヘモグロビン(Hb)・リンパ球数(LC)を調査した。

③身体的項目
身長、体重、BMI、上腕周囲長(AC)、上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF)、下腿周囲長(CC)を評価した。

④栄養評価
対面によるインタビュー形式でMini Nutritional Assessment (MNA)の質問を行い、MNAのスコア(30点満点で点数が高いほど栄養状態は問題なし)によって下記のように栄養状態を評価した。
  17点未満 :低栄養
  17〜23.5点:低栄養のリスクあり(At risk)
  24〜30点. :栄養状態良好
「低栄養群」「At risk群」「良好群」の3つの群の間で、②や③の項目を比較した。
※MNAは高齢者の栄養評価に特化した18項目からなる質問票。本研究では、乳製品の摂取に関する質問は豆乳やピーナッツミルクの摂取についての質問に入れ替えられた(中国の食文化に合わせるため)。MNAの質問票は下記URLから。
https://www.mna-elderly.com/forms/MNA_japanese.pdf


■結果

182名のうち、65名が男性、117名が女性。平均年齢は68.5±8.8歳。

MNAの平均スコアは22.9±2.8点。全体の52.7%(96名)が低栄養群、27.5%(50名)がAt  risk群、19.8%(36名)が良好群だった。

3群間で有意な差があったのは、糖尿病の有無、BMI、CC、Alb、Hb、LCだった。
細かい数値は、低栄養群→At  risk群→良好群の順に、
 糖尿病の併存率:35.4% → 22.0% → 16.7%
 BMI:21.1±3.6 → 23.3±3.4 → 25.6±3.0
 CC(cm):28.7±5.7 → 31.2±4.8 → 33.4±5.6
 Alb(g/L):25.7±5.3 → 30.1±6.4 → 38.5±4.2
 Hb(g/L):98.4±13.4 → 111.5±15.2 → 126.4±12.3
 LC(×10^9/L):0.9±0.38 → 1.2±0.43 → 1.7±0.52

年齢、性別、糖尿病以外の併存症、その他の項目は3群の間で有意な差はなかった。

単変量解析で低栄養(MNAスコア<17点)に関連していた因子(p<0.10)をステップワイズ法で投入した多変量ロジスティック回帰分析では、糖尿病の併存(OR 2.12; 95% CI 1.92–3.21)、低CC(OR 2.42; 95% CI 2.29–3.5)、低Alb(OR 2.98; 95% CI 2.43–5.19)が低栄養に独立して関連していた。


■考察

12の国と地域において高齢者の低栄養の割合を調べた先行研究によると、全体の約23%が低栄養であり、リハビリ施設では50.5%、入院患者では38.7%と低栄養の割合が高かった。この先行研究の結果と比較しても、コロナ高齢患者の低栄養の割合はより高かった。その理由は主に以下の4つが考えられる。

①コロナに感染することで急性炎症反応が起こりタンパク質が消費される

②糖尿病患者では三大栄養素の代謝障害が起こっており、低栄養の原因となる(本研究の対象者=コロナ患者では糖尿病併存率が高かった)

③コロナにより消化器症状が出現し低栄養が悪化する(脱水、中等度の腹痛、吐き気、嘔吐、食欲不振などが観察されている)

④食欲不振が不安症にも関連する


■結論

コロナの高齢患者では低栄養の割合が高かった。糖尿病併存患者、低CCの患者、低Albの患者には特に栄養サポートを強化する必要がある。


■個人的な感想

この論文以外でコロナ患者の栄養状態について調査した論文があるかどうかは調べられていないのですが、コロナが世界中に広まり始めてからすでに半年は経っていることを考えると、他にもこういう論文はありそうです。

どんな研究にせよ「低栄養を何で定義するか」が重要だと考えています。単に血液検査の値で定義するのか、この研究のように妥当性のある質問票で定義するのか、食事摂取量が少ないことを低栄養と定義するのか・・・。それはその研究の目的や対象者などによって変化します。

この研究では対象者を高齢者に絞っており、比較的簡便かつ安価な方法としてMNAが用いられたと考えられます。MNA-SFではなくMNAの方を用いたことで、ある程度の精度で網羅的に栄養評価をできると思うので妥当な定義だと思います(MNA-SFだと本当にスクリーニングって感じなので)。

MNAで低栄養だとAlbやHbも低値となり、きれいな結果となりました。MNAという、ある意味客観的データによる評価が少ない(BMI、AC、CCはMNAに含まれています)方法で低栄養を定義しても、血液データ(客観的データ)と相関したというのは理にかなっており、かつMNAの妥当性を高める結果にもなったのではと思います。

低栄養→コロナかコロナ→低栄養か、みたいな議論が起こりそうですが、本研究は横断研究なので因果関係は分かりません。ただ個人的には、低栄養→コロナなのではと思います。理由はMNAの特性です。

MNAの質問項目を見れば分かるのですが、これまでの食事内容や食事状況を聞く項目が多いです。

MNAが低値

普段の食事内容がpoorな可能性が高い

普段から栄養状態があまり良くなかった可能性がある

という論理です。あくまでも持論ですが…笑

もちろんこの研究だけでは限定的なことしか言えませんし因果関係は分かりませんが、普段から食事内容に気を使って栄養状態を良くしておくことは、高齢者にとって重要ですね。コロナに関わらずですが…

あと中年(40~50代)の方は、糖尿病にならないように普段の食事や間食、運動習慣に気を付けましょう。


繰り返しになりますが、あくまでも個人的な意見・感想なので「ふ~ん、そう思う人もいるだ」くらいに留めてください。また、論文の内容の詳細は、原文をご覧ください。

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