【テキスト版】日本霊異記【ざっくり古典】

今回の「ざっくり古典」は日本霊異記です。
平安時代初期に成立した、最古の説話集と言われています。
著者は景戒という奈良薬師寺のお坊さん。
正式名称は、日本国現報善悪霊異記っていう長い名前ですが、「日本霊異記」という呼び名で知られています。

前書きに、仏教の因果応報の教えが中国の話ばかりだけど、日本にも不思議な話はたくさんあるからまとめちゃったもんね、と書いてあります。ということで、日本に伝わる不思議な話が116も集められました。

ひとつひとつが短いお話で、後の今昔物語集などの元ネタになったものもたくさんあります。

「電を捉へし縁」
帝の命で雷をつかまえに行った男、落ちてきた雷を輿に乗せて帝の元へ連れて行く。帝の前でピカピカ光るものだから、帝は恐れて雷にたくさんの供え物を捧げて、落ちたところに返した。その後、亡くなった男を称えて「雷を捕らえた男の墓」と帝が碑文をたてたところ、雷が怒って落ちてきて、碑文を書いた柱にひっかかってしまった。それで帝は「生きている時も死んでからも雷を捕らえた男の墓」と碑文を書き換えたという。これが、今も奈良にある「雷の丘」という地名の場所である。

「狐を妻として子をうましめし縁」
ある男が美しい女性と出会い、結婚することになる。やがて子どもも生まれたが、その女性にはひとつ気になることがあった。男の家で飼っている犬が、その女性にはやたら吠えるのだ。ある時、その女性が用事があって納屋に入っている時、犬が女性に噛みつこうとしたので、女性は驚いて正体を現してしまう。女性は狐だったのだ。「正体がわかってしまった以上、一緒には居られません。私は山に帰ります」という女性に、男は「それでも夜には来て一緒に寝て欲しい」と頼み、その願いを聞き入れた女性は「来て寝」るようになったのだった。古い言葉で言うと「来つ寝」。

というような話があったり、不思議な生まれ変わりの話があったり、もちろん基本的には「仏教を広めること」と「因果応報」がテーマなので「お経を唱えていたので助かった」とか「仏像を乱暴に扱ったからこんな目にあった」とかいうお話が多いのですが、それにしても不思議な話がたくさんあるので、読んでいてとても楽しい本です。とはいえ、原本は漢文体なので、気軽に読むにはハードルが高いのですが、講談社学術文庫から現代語訳と解説がついたものが出版されていますので、興味がある方は手軽に読めると思います。

各地に伝えられる不思議な話を聞き取って纏めたのは、奈良薬師寺の僧、景戒という人。奈良時代に仏教の布教や、各地の治水などを次々に行い、聖人と崇められている行基と行動を共にしていたのではないかとも言われています。

娯楽の少なかった昔は、お坊さんの語る不思議な話はたくさんの人の心をつかみました。現代の落語の元となったのもお坊さんの話だという説もあります。そんなお坊さんの不思議話の一番古いものが、この「日本霊異記」にまとめられているのです。

日本霊異記。平安時代前期成立。作者景戒。日本最古の仏教説話集。のちの「今昔物語集」などがまとめられるきっかけとなった。

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