【テキスト】スキマゲンジ第34回「若菜上」その3

前回のあらすじ。
女三の宮が六条の邸にやってきました。紫の上は内心を隠し、何気ないようにふるまっています。女三の宮は驚くほど幼い人でした。

スキマゲンジ第34回「若菜上」その3

新しい妻の所には3日続けて通わなくてはなりません。源氏の君は「どうして引き受けてしまったのだろう。無責任に情にほだされてしまった失態でこんなことになってしまった」と情けなく思っています。紫の上に「今夜だけは無理もないと許してください。宮をおろそかに扱うと院がどう思われるか」と苦しそうに告げます。紫の上は少し微笑んで、今さら言っても仕方がない、という様子で、源氏の君を宮のもとに送り出すのでした。

長年おそれていたのに、朝顔の君と何事もなかったのでもう大丈夫だと気を許していた今、こんなことが起きてしまったのです。源氏の君とは正式な結婚をしていないのですから、これからのことも不安に思う紫の上ですが、女房たちの不安そうな様子に、あえて何事もないように振舞っています。

女房たちはことあるごとに、気を使ったり慰めたりするので、むしろそのことを面倒に思うのでした。夜更かしをしようと思っても、それがまた女房たちに気を遣わせることになるので、早めに寝ることになります。早めに床に就くと、寂しく夜を過ごすことになるので、おのずと源氏の君が須磨にいた頃のことを思い出してしまいます。

「あの時、私も源氏の君も、離れていることに堪えられず死んでしまっていたら、つまらない人生だったわ」と気を取り直すのでした。

すぐには眠れず、でも近くにいる女房たちに起きていると知られないようにしようと身じろぎもできないので、それはつらそうです。

源氏の君は、紫の上が夢に現れたので、夜明けの薄暗い時にいそいで紫の上の部屋に戻ります。宮は幼く見送りもしないので乳母たちが近くにいて見送ります。雪がうっすら残っている寒い朝です。源氏の君が紫の上のそばに行くと、紫の上は涙で濡れた着物の袖を隠すようにして、甘えてくるものの油断はしていない様子がとても風情があります。源氏の君は、その様子を見ても女三の宮と比べてしまうのでした。

翌日は「今朝の雪で気分がすぐれないので気楽な所で休みます」と宮に文を送りますが、乳母から「そのように申し上げました」と言葉で返事があるだけです。源氏の君は、院が心配してもいけないので何とか取り繕わなければとは思っていますし、紫の上も、自分が引き留めていると思われるとイヤだと思っています。

昼になって、源氏の君は宮の所に行きます。宮はとてもかわいらしく幼くて、何も考えていない様子で、衣に埋もれているようにも見えます。人見知りをしない幼児のように、源氏の君に懐いている宮を見て「院はどうしてここまでおっとりとお育てになったんだろう」と残念に思いますが、何でも言われるままに従って、返事なども思ったことをすぐ口にする幼い宮を見捨てることはできないと思うのでした。

院からは源氏の君に宮のことを心配している文が届きます。紫の上にも同じような文が届けられます。院は、紫の上からの返事を見て、こんなに優れた女性の近くにあんな幼い娘を送り込んだことを心苦しく思うのでした。

院が出家して山に入るので、そばにいた女御や更衣たちもそれぞれ実家に戻ります。朧月夜も二条の邸に戻ることになりました。それを聞いて源氏の君が訪ねて行きます。最初は逢うことを断っていた朧月夜ですが、昔のことを思い出すにつれ、恋心が再燃してしまうのでした。

次回スキマゲンジ第34回「若葉上」その4は、明石の姫君や秋好中宮の現在と、女三の宮をめぐる大事件の始まりが語られます。

猫は魔物。お楽しみに。


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