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文語短歌と口語短歌

文語短歌・口語短歌

文語短歌というのは、文語(古語)を使って作る短歌。口語短歌というのは、現代語で作る短歌。口語短歌が一般的になったのは、1987年に俵万智が「サラダ記念日」という歌集を出してそれがベストセラーになったあたりからだと思います。もちろんそれ以前にも口語短歌というものはあったんだけど、万智さんが口語で日常のことを詠むということを一般的にしてくれたのだと思っています。

で、私も長い間口語で詠んでました。私は基本的に「中学生でも読んで意味がわかる短歌」を作りたいと思ってきたから。短歌を読むために文語の知識がなきゃダメ、なんて、短歌何様だよ、って思ってたんです。

現代を生きるわたくしの思いを詠むのであれば、いつも使っている言葉を使わないとダメでしょ、というのが私の信念でした。師匠から「文語で作ってみたら?」と何度も言われたけど、そういう理由で私は口語で作ります!って頑として聞かなかった。

文語短歌への挑戦

でも、ずっと短歌を作っているうちに、イメージを表す言葉に文語が浮かんでくることが増えてきたんです。「あえかなり」「ゆかし」「いとほし」…こういう文語(古語)は、現代語では一言で表現できないものをふわっと包みとるような単語だと思うのです。それを使って、より正確に自分の内面を表現してみたいなと思うようになったのです。

3か月だけ文語で詠んで、また口語に戻って来よう。3か月も文語で詠めば、「文語で詠んだこともあるけど、あえて口語で詠んでます」って言えるし。そう思って、文語で詠んだ歌を師匠に見てもらいました。ほぼ使いこなせてたとは思うんだけど、忘れられないエピソードがあります。

歌自体は忘れてしまったんだけど、心の中に大きな木が一本立っている、というようなことを詠んだんじゃなかったかな。

「立ちたり」

って詠んだ部分を、師匠が「ここは『立てり』ではいけないの?」と訊くんです。

「立ちたり」…動詞「立つ」連用形+助動詞完了「たり」

「立てり」…動詞「立つ」未然形+助動詞完了「り」

え?変わんないじゃん、って思ったんですよ。そしたら師匠が「心の中に立っているのなら、現実にはまだ立っていないんでしょ?だったら未然形の方がいいと思うの」と。

細かっ!文語って奥深っ!って思いました。3か月ほど文語で詠めばだいたいわかる、と思っていた自分を恥じましたね。文語の海は想像もつかないほど広大でした。

文語発想・口語発想

これも、文語で作りはじめてから実感としてわかりかけている概念ですが、師匠はずっとこういうことも言っておられました。

文語短歌というのは、ただ口語で作った短歌を文語に置き換えただけではない、と。発想そのものが違うのだと。

「口語短歌」で検索するとたくさんの歌が出てきます。ここで例として取り上げようかとおもったけど、どれも素敵で決められない(笑)

つまるところ、「今」の思いを「今」の物や現象で表現しようと思うなら、その発想の原点は口語だし、「今」の思いをきっちり説明するのではなくぼんやりと掌に掬い取ってそのまま表現しようと思うなら、その発想は文語なんだろうと思ったりしています。

実作

10年ぶりぐらいに、すんごく真剣に自分の心の中をのぞきこんで、短歌作りました。(みなさんがサークルに歌を提出してくださるので、見てるだけじゃだめだと思って(笑))

    「再生」
歌ひとつ我が身のうちに残れるや風に吹かれて熾火のひかる
濃い霧を湧きたたせつつみづうみはその静寂を保たんとする
静寂を保たんとして濃い霧をみづからまとふみづうみのあり
みづうみの底にちひさな貝ひとつみづうみからも忘れ去られて
子どもらの姿も見えぬ公園の砂場でちひさな貝をみつける

これは「連作」というもので、作り方はいろいろあるのでしょうけど、私の場合、歌をいくつか詠んで、その中に共通する「なにか」をタイトルにして並べ替えたり捨てたりします。

「再生」っていうのは、最後の一首を詠んで初めて頭に浮かんだ言葉です。最初の一首の「熾火」の段階では、この火は消えてしまうかもしれないと思いながら詠んでいました。ただ「熾火」を見つけることができたのは驚きだったけど。そこから自分の心の中を探っていくと「みづうみ」が広がっていました。霧も深く出ていました。さらに探っていくと「ちひさな貝」が見つかったのです。それは、最初の一首の「熾火」と同じものでした。その時点で「ああ、この一連は『再生』だ」と思ったのです。

おわりに

短歌、めんどくさいけど楽しいですよ。自分の心の奥深くまで手を差し込んで言葉を引っぱり出す作業なんて、日常生活では絶対やってないことだから。

そうやって心の奥深くから引っぱり出してきた言葉は、自分の気づかないところから仲間の言葉を連れて上がってくるので、「え、私の中にこんな気持ちがあったの?」と驚くことがよくあります。それが短歌を作ることの醍醐味なんだと思います。しんどいけど。めんどくさいけど(笑)

思うままにたくさん書きましたが、短歌やってみたいと思われる方はコメント欄にひとことくだされば「招待」送ります📧一緒に楽しみましょう♪


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