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紫の上のこと(スキマゲンジ途上)

紫の上は、源氏の君が女三の宮と正式な結婚をしたことで、傷つき、病に伏した(早死にした)っていう説がほとんどで、私もそう思ってたんだけど、きっちり原文を読んでなかったので、今回あらすじ動画(スキマゲンジ)を作るにあたって、かなり丁寧に読み中。

まだ、今のところでは、光源氏に失望してとか、自分が捨てられるのではないかというような記述は出て来てない気がする。

それよりも、女房たちがあらぬ詮索をしたり、変に気を遣ってくることがイヤだ、と書いてある。

女三の宮との3日めの夜のことも、嫉妬で眠れなかったのではなくて、夜更かしをすると女房たちがいらぬ詮索をするから、と書いてあるし、早く床に就いたからなかなか眠れないし、眠れないから須磨時代のことを思い出してしまう、とある。

源氏の君が翌朝早くに戻ってみると一人で泣いていたらしい、というあたりも「すこし濡れたる御単衣の袖」だから、少しなのよね。

もっと後の方に決定的な言葉がでてくるのかもしれないけど、今の時点(「若菜上」)までで私が思うところをメモしておこうと思う。

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まず、源氏の君が皇女を狙ってたという記述もない。「なにがしの朝臣」という者が「源氏の君の宿願ですから」って言ってたらしいよ、と乳母が言っていたという話。

藤壺女御ゆかりの人だから惹かれた説も、「あの藤壺女御の血縁の姫なのでうつくしいのでしょうね」って、これは今までの源氏の行動パターンから外れてもない。うつくしいものは見てみたい、というのは、この時代のこの階級の男たちに共通だったようだし。

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もともと体の弱かった朱雀院が、病気がちになったので出家を考えるというところから話は始まる。出家するというのは、いつ死んでもいいように準備をするということ。

体調が悪いから早く出家したいのだけど、女三の宮の行く末が気になる。母親は早くに亡くしてるし。いつまでも子どもっぽいし。(これも、朱雀院の性格を考えたら、よく似てると思うし、女房たちにも厳しく言えなかったんだろうなとも思う。なんせ、朱雀院は、祖父の元右大臣、母親の元大后の言いなりの人生だったんだもの。どのくらい柔らかい性格かというと、自分の婚約者だった朧月夜を源氏に寝取られても「源氏と付き合う方が似合ってるよ」と思うぐらい。やさしくやさしく娘を育てたら、娘も「おおらかに」育つと思う。)

で、女三の宮のことを誰かに託したいといろいろ相談するんだけど、朱雀院の思いは「後見人になってくれて、頼りない娘だから一人前に育ててくれるような人いないかなあ」なのね。もうこの条件だけで源氏の君しか視野に入ってない。

で、出家して体調が思わしくなくて、見舞いに来た源氏の君にそういう話をするわけですよ。源氏の君は「それなら、やはりきちんと結婚という形をとって、相手の男が責任をもって後見してくれるようにしなきゃいけませんよね。そういう人をさがさなきゃ」って言うわけですよ。ほぼ一般論。

「夕霧?夕霧はマジメすぎるしまだ若いし」というのも、かなり客観的な評価で、息子の縁談を自分の方に向けようとしてるわけでもない(そういう解釈をしてるものも読んだことがあるけど)。

朱雀院の泣きつき攻撃。「探せって言ったって、もうほんとに体調悪くて、たぶんすぐ死ぬレベルで体調悪くて。出家して修行もしたかったけど、しんどくて、それすらできないし。せめて念仏唱えて死を待ちたいんだけど、あの子のことが気がかりで集中できないし」

この話の前段で、源氏の君が「私が先に出家したいと思っておりましたのに、院が出家されてしまって、恥じ入るばかりです」って言ってるくだりがあるのね。

朱雀院の「念仏にも集中できない」って言葉の裏に、「出家してないんだから、娘の面倒みてよ。むしろ、娘の面倒を見るために出家しなかったんじゃないの?」的な何かを感じてしまうんですよ、源氏の君は。

それで結局、「私も老い先短いけど、後見人としてやらしてもらいますわ」って言っちゃう流れになる、と。しかも、ついさっき、「やはりきちんと結婚という形をとって、相手の男が責任をもって後見してくれるようにしなきゃいけませんよ」って正論を言っちゃったもんだから、結婚しなきゃいけないことになってしまった。公式には独身だしね。

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紫の上とは、今でいう「事実婚」だったわけですよ。

事実婚って、本人たちは全然軽く見てはないじゃないですか。別に他人に承認してもらう手続きなんて取る必要はない。婚姻は両者の合意のみによって成立する!って思ってるはずなんです。私もそうだったし。

でも、なんやかんやと制度を利用しようと思うと、その「他人の承認」みたいなものが必要なんですよね。現代でさえ。まして平安時代。

でもね、ずーっと、20年以上も一緒に暮らしてきて、今さら「婚姻!?」って感じじゃないですか。そのまま死ぬまで一緒だからいいよ、そんなの、って。

そこにシュッと入って来られてしまった。「やはりきちんと結婚という形をとって」って言った言葉を逆手に取られてしまった。だから、派手派手の輿入れを、紫の上が暮らしている六条の院でやらなきゃいけなくなった。

ワイドショーネタですよ。みんなで勝手に紫の上の心情を取り沙汰する。「紫の上はつらいでしょうねぇ」「嫉妬にくるっておられるかもしれませんね」「こうやって身分の高い姫と結婚しようと思って、今まできちんとした手続きを踏まなかったのかもしれませんね」「紫の上はかわいそうですね」って、どのチャンネルでもリポーターやコメンテーターがぴーちくぱーちく言ってるわけですよ。

紫の上としてはやってられません。例えば週一でビール飲んでたのに、ビール買いに行ったら「紫の上がビールを買っています!やけ酒なのでしょうか!」って言われるわけよ、鼻歌でも歌ってたら「気を紛らわせるために歌を歌っています!なんてかわいそうな!」って言われるわけですよ。

夜更かしもできず、早く床についたら眠れない。眠れないけど、寝返り打ったら「やっぱり眠れないんだわ。かわいそうに」って言われると思うと寝返りひとつ打てない。

そりゃ病気にもなりますわ。

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というのが、現時点までで私が読み取った「真相」だけど、さあこれからどうなっていくのかなあ。

おっと時間だ。でかけてきます^^


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