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ヴァン・ヘイレンのデビュー作がジャズを意識してプロデュースされた話

興味深い記事を読んだので、内容をかいつまんで訳します。

プロデューサー テッド・テンプルマンによるヴァン・ヘイレンの述懐です。

自己のバンドハーパーズ・ビザールのドラマー、やがてギター、ヴォーカルとしてヒットを放った後に引退して、ワーナーブラザーズの社内プロデューサー/副社長をしていたテッドは、1977年、34才の時に友人から電話でヴァン・ヘイレンというバンドが2夜連続公演をやるからぜひ観に来るようにと誘われます。

それまでにヴァン・モリソン、リトル・フィート、ドゥービー・ブラザーズ、モントローズと契約してプロデュースしていたテンプルマンは、その時既にかなり大物然としていて、「もうそういう小さいクラブに無名の新人を探しに見に行くようなことは俺のポートフォリオにはなかったんだよね」と偉そうなのですが、目利きな旧友からの誘いだったので、興味が出て地元のクラブ、スターウッドに足を運ぶことにします。もし大したことないバンドだったらこっそり帰れるように二階のバルコニーの暗がりに陣取り、開演を待ちました。そしてヴァン・ヘイレンを見て驚きます。

「目が眩むほど魅せられてしまった。これほどまでにミュージシャンに感動させられたことはなかった。マイルス・デイヴィス、デイヴ・ブルーベック、ディジー・ガレスピーなど多くの並外れたアーティストを見てきたが、エドは私がライヴで見た最高のミュージシャンの一人だった。彼の音の選び方 - 楽器への彼のアプローチの仕方 - は、私にチャーリー・パーカーを思い出させた。実際、ライヴを見ながら、私は二人のベスト中のベストなミュージシャンを思い出していた。パーカーと、ジャズ・ピアニストのアート・テイタムだ。いま3番目の革新的なミュージシャンが目の前にいた。エド・ヴァン・ヘイレン。すぐさま、私は彼をワーナーブラザーズに獲得しようと決めた」

なんでジャズと比較しているのか、それは記事を読み進んだ先のレコーディングの時のアプローチで、なんとなくわかってきます。

この夜のテッドは速攻帰宅するとエンジニアのドン・ランディーに電話をして凄いギタリストがいると熱く語り、翌日、ラス・タイトルマンとモー・オースティンと言う他の重役たちを引き連れてまたスターウッドに行きます。モーはキンクスのプロデューサーでロック好きだったようで、この時のライヴでヴァン・ヘイレンがキンクスのカバー曲"You Really Got Me"を演奏した時にテッドは「しめた!」と思ったそうです。

引用元の記事では、ここからデイヴの歌とパフォーマンスがどれだけ酷いかが続きます(笑) とにかくデイヴの歌がヘタすぎると。ライヴを見ながら、このギタリストとソロ契約するか、当時モントローズで一緒に仕事をしていたヴォーカルのサミー・ヘイガーをスカウトしてすげ替えようかと真剣に考えたことなどが語られます。

テッドの結論は「もし1977年のあの時サミー・ヘイガーを呼んでいたら私はロック史に残る失敗を犯していたことだろう」デイヴのユーモアと知性がロック界に新しいのではないかと思い直して、ファーストアルバムのレコーディングでは、デイヴの「良いところを光らせ、欠点を最小化する」事に集中します。

デイヴ時代の曲のほとんどが途中で一回ブレイクして語りっぽくなるのもこの歌ヘタなのを誤魔化す事に役立っていますね。

面白いのは、後年、デイヴが脱退してサミーがヴァン・ヘイレンに加入することになった時、彼は自分が1977年に構想したサミー入りヴァン・ヘイレンをプロデュースすることよりも、居残りさせてヴォーカル・ブースでちゃんと音程出るまで録音させ続けたデイヴと行動を共にすることを選び「イート・エム・アンド・スマイル」を作った事です。

話を戻して、ファーストアルバムでエディのギターを録音する段になり、先ほどのジャズの例えがまた出てきます。

「エドとの作業は、私のビ・バップ・ジャズの影響を利用するチャンスだった。私はエドのソロはチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのそれと似ていると思っていた。ヴァン・ヘイレンで演奏するエドを聞いていると、私にはジャズのレジェンドたちがピアノやベースと一緒に演奏している光景が浮かんできた。ソロの時はピアノやベースはミックスの音量を下げてサポート役にまわる。ヴァン・ヘイレンという文脈において、私はエドのソロをジャズのそれのように捉えていた。それが彼のパートを大きくフィーチャーした理由だった。私のビ・バップの感覚は、エドのプレイを理解することと、ある意味で他のレコード・プロデューサーにはできないやり方でヴァン・ヘイレンをこのレコードの中で上手く作り上げることに役立った」

ジャズの制作にインスパイアされて、エディのプレイを活かす事に専念したことがわかります。構成にしてもミックスにしても歌メインの中にソロが出てくるのとは大きく印象が違います。

もうひとつ、僕的に「そうだよな」と思ったのが;

「プロモーションは重要だ。酷い曲をヒットさせることはできないが、偉大な曲でも誰も聞いたことがないならヒットするはずがない。私はワーナーブラザーズ内で彼らを優先的に扱ってもらえるようにベストを尽くした。さもなければ、彼らはブレイクスルーに必要な経済的援助を得られないかもしれないと恐れたからだ」

テッドは巨額なプロモーション資金を獲得して、そのお陰でヴァン・ヘイレンは来日もしています。引用元の記事でも「インターナショナルバンドとして成功して、スーパースターになった」とそのことが語られています。

現在はメジャーレーベルの時代ではないとは言いながらも、プロモーションにお金をかけることはやはり大切です! 

ヴァン・ヘイレンのデビュー作を聞いたことがない人は、ぜひこの機会に聞いてみてください。​

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