第16話 「わたしが本当にしたいことは、なんて聞かないで」【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】
いつものように日の出とともに目を覚ました。この駅は山の中にあるという感じだ。駅を出ると道は木に囲まれている。
さっそくヒッチハイクだ。青森から南下する日本海側にかけての主要道路は国道7号線になる。
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蟹田へ。フェリーの仕事をされている方にのせてもらった。普段は通らない道を通ったという。それも今年初めて通るとか。おれはラッキーだな。
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蟹田から青森へ。東京に11年務め、脱サラしたという。
なんと、ヒッチハイクで北海道をまわったことがあり、昔は旭川駅は24時間オープンしていて野宿する人が多かったと教えてくれた。
「この辺はやませ(東風)がふくと寒くなるんだよ。太平洋の寒流からふいてくる。」
(なるほど。そういうことか。うかうかしてると寒くなっちゃうよね。)
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青森から弘前へ。弘前出身でタクシーの運転手を8年された方。実家に帰るところだという。豆知識をいろいろ教えてくれた。
・7号線は福井まで通っている。
・弘前は桜が日本一。
・五所川原は何もない。
・深浦と岩崎の景色がよい。
・リンゴは9月末から10月に収穫。青森は日本一。
・世界一のリンゴはうまくない。でかいけど。うまいのは「富士」だ。
・岩木山は頂上まで車で行ける。
・青森からタクシーで仙台とか、神奈川まで行った人がいる。
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弘前から能代へ。北海道出身で現在能代在住。仕事場へ向かう途中だとか。
「可能性に挑戦したくて、30歳の時に独立して鉄工所をつくったんだよ。」
「20歳のときは、自転車で1か月北海道をまわった。」
「65歳を過ぎたらそば屋をやるつもりでね。いまそばを作る機会を開発しているんだよ。」
いろいろなことに挑戦しつづける人なんだな。自分で機械作れるなんてすごくないか?
「35年前に旅をしたときは、7号線は砂利道だったよ。」
国道がまだ砂利道だった時代か。おそらく東北の日本海側だから整備が遅れたのもあるだろう。
(その当時に旅をするということは今よりも数倍大変だったんだろうな。逆に人はよかったんだろうけど。)
ありがたいことに日景温泉という温泉に入れさせてくださった。この旅5度目の温泉である。
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大館出身の女性。秋田に里帰り中で、秋田まで送ってくれる。
・秋田は飲酒運転日本一。取り締まりが多い。
・秋田随一の繁華街は川反(かわばた)。
「東京って歩くの遅いよね。」
遅すぎてイライラするという。
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あっこさんは、ジープに乗る女性。青森の三沢出身。本荘までいくところ。(本荘市は現在存在せず、由利本荘市となっています。)
「ボディボードに行く途中なの。」
と、茶髪でパーマで、ノースリーブで、レゲエウーマンだ。いかにも海好きな風貌で、かっこいい。
(26、27歳の女の人か。なんとなく意識しちゃうな。文化的な感じの人だし、話がしやすそう。なんとなく向こうもこっちにいろいろ話したそうな雰囲気がある。)
「ババベラって知ってる?」
「なんすかそれ。」
「こっちではババベラって有名だよ。ばばあが、アイス売ってるからババベラ。ベラがアイスの棒ね。道端でばばあがしょっちゅうアイス売ってるんだよ。アハハハハ!」
(おもれーなこの人。)
あっこさんはカメラの仕事をしている。
「広告とか雑誌用に写真とってるけど、それはあくまでも仕事。プライベートでは人を白黒でとってるんだよね。」
「仕事では何でも撮るよ。7年やってる。あ、新宿のポートタワーに写真が出たこともあるね。」
話していると三沢出身というのは実は正確には違うそうだ。
「本当は佐渡で生まれたのよ。新潟、三陸、そして三沢と点々としてきたの。父親が転勤族で。」
車は海沿いを南へ走るから、あっこさんの向こう側には日本海が背景になり、太陽は低くなり、空はそろそろ色づいてくるころだった。
しゃべりながら運転しているあっこさんを横から見ていると、どことなくさみしさというものが漂っているように感じる。
あっこさんはもっと自分の中に解放させたいものがあるように感じた。
仕事と割り切ってやっている写真は、本当はもっと自由に自分が撮りたいものをとって、もっといろいろなところを動き回りたいんだろうなとぼくは勝手に感じていた。
まだまだ生かし切れていない自分自身があって、あっこさんも自分でそれはわかっているような気がする。
象潟の道の駅で車は止まった。
「もっと話聞きたいな。」
「いいんですか?ボディボードは?」
「大丈夫。まだ日は落ちないから。どうせ今日は波よくない感じだから。」
車をとめて、ぼくはババベラではないアイスを道の駅で買ってもらい、二人で駐車場の端っこに腰かけた。
象潟の道の駅は海沿いにあり、駐車場の縁(へり)の向こうは海だからそこからの眺めは最高だ。
そこに腰かけ、ぼくらはオレンジ色になってきた空を遠く見ながらしばらくおしゃべりした。
「日本海ってほとんど見たことないけど、やっぱり太平洋側とは違うんですね。こっちの人は夕日を海に沈むものとして見るんですね。だからちょっと暗い、荒々しいイメージなのかな。」
「なるほどね。そうだよね。」
(なんだろう。めっちゃロマンチックだなあ。うれしいなあ。恋愛感情とかそういうんじゃなくて、気の合う人と会えたなって感じ。)
成り行きに乗じて無理やり女性をものにしようとか、ぼくはそういうことができる人じゃないし、そんなことをしたらそれは自分の心に嘘をついて、ただかっこつけようとしているということも分かる。
ただ、心は少しそわそわした。
「またこっち来ることあったら教えてね。」
日はやがて落ち、ぼくは象潟の道の駅で野宿をした。
(今日はいい思い出になったなあ。ギターはあるのに歌はそういえば聴いてもらってなかった。そんなタイミングもなかったけど、彼女は聴きたいと思ったのかな。)
つづく