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翻訳支援ツールとの向き合い方

思えば、中日・日中に限らず、翻訳の環境はここ最近劇的に変わりました。

2000年代以前のパソコンなどなかった時代は、ワープロというものを使い、分厚い紙の辞書や、時刻表・地図などを含めた膨大な資料を翻訳の職場にそろえ、分からない文字が言葉があればいちいち出してきて引くという作業をしなければなりませんでした。もちろんワープロが登場する以前は翻訳原稿さえも手書きでやっていたわけで、その当時と比べたら、翻訳の効率も上がり、1人あたりが生産できる訳文の量も飛躍的に多くなったと言えます。

その一方で、外国語の翻訳者は今、岐路に立たされています。グーグルの翻訳機能や翻訳レシーバなどの登場により、ちょっとした翻訳文ならだれでも簡単に作れるようになりました。しかも人工知能(AI)の台頭により文芸翻訳など複雑な翻訳文でさえも、可能なのではとされています。

だからこそ私は言いたいことがあります。それは、今の翻訳者に早急に求められているのは、これらの機械翻訳との違いを出すことだということです。

幸い今の自分には、20年間かけてこの中日ニュース翻訳界隈で積んできた「経験」というものがあり、今はその「経験」で違いを作り出せています。

中日・日中の翻訳でいうならば、その違いというのは、辞書には載っていない「同じ漢字でも中国語と日本語で異なるニュアンス」「出ては消えていく新しい言葉、古い言葉に付与される新しいニュアンスに対するいち早いアップデートと対応」、加えてニュース翻訳で言うならば「ニュースの重要性の判断と、そのニュースに対する即応性」などなどでしょうか。

これらの特徴は今の技術では、機械翻訳で作り出すことができないものだと思っていますし、これらの「違い」が相まって、人から「お金を出してまで見たい」翻訳文が作れるのだと私は信じています。

一方で遅かれ早かれ、「お金をだしてまで見たい」翻訳文を作れるAIはこの世に出てくるでしょう。ただその段階にまでAI技術が到達するのはまだ先のことになりそうですし、「今の時点」で我々翻訳者ができることというのは、そのあたりの「違い」を出し、そのために十分な準備をするというだと言えます。

ならば今の翻訳者が来るべきAI時代に向けてすべき「準備」は何か。

私個人で言うならば、自分の中にある「経験値」は、翻訳者が単純に機械翻訳に頼ることを繰り返していては自分の中に蓄積することはできないものです。その点で言うならば、今の翻訳環境というのは「誘惑が多い」とも言えるでしょう。

しかし機械翻訳が出してきた訳文を自分の訳分と比べて「見直し」、「再検証」をし、自分のものにしていくというやり方もあります。私自身はこれこそが、今の翻訳者が機械翻訳と上手に付き合い、利用していく方法だと思っています。

機械翻訳と上手く共存しながら、機械翻訳に負けない智力・体力をつけること。これこそが今の翻訳者に求められていることではないでしょうか。


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