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翻訳に気を付けるべき言葉――「訪問」編②

当noteを以前から継続的に見てくださっている方はご存知かもしれませんが、以前中国語の「访问」という言葉にフォーカスを当て、訪問する相手国、来訪するゲストの国と中国との友好関係の度合いによって「访问」にもランク付けがあるという解説をしました。

今回はその続編と言うことで、「访问」は「訪問」という意味だけではないということを解説していきたいと思います。

とかく日本人としては、中国語の漢字の語句を見た時、日本語の漢字に当てはめて「その意味」を考えがちです。

しかし私自身はこのような日本語にもあるような漢字の語句を初めて目にした時にまず、「日本語の語句以外の意味があるのかどうか」をしっかり調べる癖をつけています。そうすることで「安易に」日本語の漢字にしてやけどをするのを避けることができます。例えば

「斡旋」→「仲裁(ちゅうさい)」
「补充」→「補足(ほそく)」
「浪费」→「無駄(むだ)」

などは特に注意が必要ですね。「访问」にしても、ほぼ大半の日本人学習者・翻訳者は真っ先に「訪問(ほうもん)」するという意味を思い浮かべたにちがいありません。

しかし「访问」は訪問する以外にもいくつか意味があります。例えばこれでしょう。

马斯克接受BBC访问 称拥有推特相当痛苦

ここの「访问」は「訪問」と言う意味ではなく、「取材」と言う意味です。いわゆる「采访」の「访」に当たるものですね。ですから

マスク氏はBBCの取材を受け、ツイッターを保有することはとても苦しいことだと述べた

と訳さなければならないわけです。

◇◇

「取材」以外の意味もあります。例えば「信访」という語句。これは辞書で調べると「投書・陳情(する)」という訳を見つけることができるでしょう。

しかしこれは実は、「信」(=来信)と「访」(=访问)が組み合わさってできた造語です。

「来信」と「访问」は、それぞれ単独なら、「書簡を寄せる」と「訪問する」と訳さなければなりません。

しかしニュース記事で「信访」になった時は、別の訳に変化します。

「書簡を寄せる」=「投書する」
「訪問する」=「(担当機関)を訪問して陳情する」

となり、「信访」=「投書・陳情(する)」という意味になったというわけです。

つまり「访问(訪問する)」が派生して「陳情する」という意味になったと考えることができるわけです。実際「访问」単体で出てきて「陳情する」と訳すことができる記事も存在します。

さらに「信访」は「信」(=来信)と「访」(=访问)が組み合わさってできた造語であるという概念からさらに派生して、「访」(=陳情)との組み合わせで、さまざまな語句が生成されています。

例を挙げると、、

上访=陳情に訪れる
接访=陳情を受け入れる
缠访=執念深く陳情する(つまり何回も何回も同じ用件で陳情すること)
闹访=陳情の際に大声で騒ぎたてる。

などでしょうか。下2つは「陳情者が陳情担当部署を訪問した時に起こす問題」という文脈で、ニュース記事に取り上げられる語句です。

こうしてみていくと、中国語の漢字にはいろいろなバラエティがあることが分かります。

「访问」以外にもこういうケースの単語はたくさんあると思うので、逐次見ていきたいと思います。



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