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オラクル・ナイト/ポール・オースター

ポール・オースター『オラクル・ナイト』を再読した。
冒頭の病み上がりの描写がすばらしい。いつも思うけど、オースターはなんでもないことを魅力的に書くのが本当に上手い。するすると引き込まれていって気がつくとえらいこっちゃみたいなことになっている。今回もみんななにかしらよくないことに巻き込まれていくんだけど、それはお互いに隠していることやあえて言わないことの報いを受けているようでもあるのかなと思った。だんだん善いことと悪いことの境目がよくわからなくなってくるというか、起きたことをジャッジすることなくストーリーが進んでいくところが好き。

俺はすべてのものの終わりを見たんだよ、稲妻男さん。
地獄の底に降りていって、終わりを見たんだ。そういう旅から帰ってきたらね、あとどれだけ生き続けようと、自分の一部はずっと死んだままなんだよ。

ポール・オースター (2003)『オラクル・ナイト』 柴田元幸訳、新潮文庫、126p.

「思いは現実なんだ」とジョンは言った。
「言葉は現実なんだ。人間に属すもの全てが現実であって、私たちは時に物事が起きる前からそれがわかっていたりする。かならずしもその自覚はなくてもね。人は現在に生きているが、未来はあらゆる瞬間、人のなかにあるんだ。書くというのも実はそういうことかもしれないよ。過去の出来事を記録するのではなく、未来に物事を起こらせることなのかもしれない」

ポール・オースター (2003)『オラクル・ナイト』 柴田元幸訳、新潮文庫、300p.

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