Seel編集部員が選ぶ、おすすめ短歌集
こんにちは! Seel編集部です
最新号Vol.34「現代短歌」が発刊されてから2週間ほどたちました。今後も多くの方々に手に取っていただけるよう、随時設置店舗様に設置していく予定です!
さて、今号では本誌の各ページにSeel部員がセレクトした歌を掲示しています。こちらの記事ではそれらの歌から数首を部員の感想つきでご紹介します。
短歌のプロフェッショナルでもなんでもない若者の素朴な感想ですが、よろしければご覧ください。そして、これをきっかけに新しい歌・歌集・歌人の方々に出会っていただければ何よりの幸いです。
たはやすく宇宙よりかえる人のあり夕焼に家見失ふ人あり 潮田清
はるか数百キロ上空から、寸分の狂いもなくこの星に帰ってくる人もいる。なのに自分はいつもの帰り道で、夕焼けに溶け込む自宅を見失いそうになる。この少し不安で、でもはっと息を飲むような、静かに涙腺が緩んでいくような情景と感覚に強く惹かれる。こういう断片的な記憶や感覚こそが我々自身を作り上げているような気がしてならない。少し大げさかもしれないが。(デザイン3年)
このケーキ、ベルリンの壁入ってる?(うんスポンジにすこし)にし?(うん) 笹井宏之
15歳で難病にかかり、以後寝たきりの生活を送る傍ら作家として活動した笹井宏之の第一歌集からの一首です。静謐な世界観と純度の高い叙情を特徴とする歌の中から、作者の小気味よいリズム感が出ている一首を選びました。短歌をかくことであらゆる事象とことばを交わすことができる、とベッドの上で語る作者の、世に残した限られた歌をぜひ一度読んでみてください。(営業2年)
蛇行する川には蛇行の理由あり急げばいいってもんじゃないよ 俵万智
20歳を過ぎてから急に時の流れが速くなり、時間を持て余した学生生活が終わるという焦燥感を抱き始めた中で、ついつい時間のかかる面倒な事を省略しがちになっていた自分に、丁寧に生きることの大切さを再認識させてくれた一首です。(営業3年)
寂しいとウサギは死ぬから助けてと言えるような女は不死身 冬野きりん
深夜にtwitterの裏アカウントで呟かれていそうな歌の雰囲気に惹かれ、「いいね」を押す感覚でこの短歌を選びました。ライオンのような女性の方が意外と繊細だったりすることもありますよね。(デザイン2年)
冬の樹が散らす枝々、もうずっと花火より火だあなたさえ火だ 大森静佳
この『カミーユ』という歌集では「火」に関する歌が多くみられます。激しく、そして刹那的な「火」に象徴されるように、いずれの歌も31文字とは思えないほどに切羽詰まった感覚や重厚感を抱かせます。この歌はそうした歌集の中で、目立った素直さを持った歌だと感じました。素直というより、重厚な世界観の中でリズムよく、フッと心に入ってくる感覚といいましょうか。何より、それでいて切ない。歌集全体が織りなす世界観に一気に引き込まれるような、そんなきっかけを生みうる歌だと思いました。(広報3年)
カーテンのはるか手前のリモコンで東京の空つけるまぶしい 斉藤斎藤
カーテンの向こう側に空があるのに、テレビをつけると天気予報がやっていて空が映っていることってこんなにも違和感があるのか、と思いました。読む人の居場所によってこの歌から感じ取れる心情が違うところがお気に入りです。(営業3年)
白猫と目が合っている路地の裏 時の裏目と思う下町 俵万智
猫と目が合うのは特別なことだと思っています。その瞬間が延々と続くように思えるからです。この短歌を読んだ時、その映像が浮かび上がってきましたし、そんな神秘的な瞬間を下町の中で過ごしたらまさに時間という概念がなくなったように感じられるだろうな、と強く印象に残りました。(広報3年)