初めて献血に行った話

 人生で初めて献血に行ってみた。

 理由は、特にこれといったものは無い。帰り道、進行方向にちょうど献血の看板が置いてあって、それを見てふと思った。

「そういえば、前に献血行ってみようかと思ったんだった」
「でもその時はやることあったし、また今度ってことにしたんだよな」

 そうしたら、なんとなく足が向いたのだ。

 献血に協力してくれという声はあちこちで聞いてきたが、実際に協力するのはこれが初めて。正直おっかなびっくりであった。

 まず、献血の場所は外で、専用のバスとテントが置いてあった。

 テントの中で身長体重とか血液型とか、どれぐらい血を提供するかとか、献血後は気分悪くなったり失神したりすることがありますよ、とか。ともあれ説明と血圧の測定があった。

 その時は偶然一番乗りだったので、待ち時間も無くサクサクと事は運んだ。何か問題があったかと聞かれれば、結構血を抜くから、献血前に飲んでおけと言われたドリンクを一気飲みすることになったぐらいだろうか?

 医師の説明を受け、ペットボトル一本を飲み干して、バスに入るとまず血液型の検査があった。

 右と左、どっちの腕から献血用の血を抜くか決めてから、逆の手指の先を少し傷つけて、そこから少し血を取る。取った血を血液凝固の薬剤に落として、血液型を確かめて、いよいよ本番。

 バスの中は割と手狭で、血は右腕から抜くことになった。献血用の針は中々太くて緊張したものだが、痛いのは刺し始めと針を抜くときだけ。そんな声を出すほどの痛みでもない。

 後はご想像の通り、血を抜いた。私はどうやら、飲み物代をケチッていた影響で水分量が少ないらしく、規定量を提供するのに少々時間がかかった。

 血を抜く間、担当となったスタッフと話しをした。

 曰く、献血に来る人は初めての人が多いとのこと。本当のところはたくさん来てほしいようだが、献血と言うと漠然とした不安があるのかあまり人が来ないということ。かといって、あれこれと説明するのもどうなのかと思っていることなど。

 今回私自身、初めて知ったのだが、献血に行く前にはやはり水分を多めに補給しておくのが良いとのこと。血とは水分だし、それを多く抜く以上当たり前なのであるが、それを説明したらしたで遠慮する人が増えそうだ……と考えた。

 献血に行こうと思い立って来た人に、献血前にちゃんと説明をする今の方式が、なんだかんだベストなんじゃないかとそう思う。もしかしたら、来た人がリピーターになってくれて、次はしっかり水分補給してから行こうという風になるかもしれないし。実際私がそうだ。

 と、そんなこんな話している間に、(ジュースやチョコなどをもらったり、血流促進のために毛布や懐炉などで腕を温めたりしつつ)献血は終わった。

 終わった後は、バスから降りて、外に設置された休憩スペースでのんびりした。ジュースやお菓子があって、私はニンジャスレイヤーを読みながら30分ほどおやつタイムを楽しんだわけだ。

 こうしてnoteにだらだらとつづったのは、初めての献血がなかなか興味深い体験だったからに他ならないこと。そして、いつぞや見たある文章を思い出したからだ。

「人間は明確な見返りがもらえるという保証が無いと、贈り物を渋る傾向にある。献血などその最たるもの」
 そんな感じの内容だった。

 今回私が献血に行ったのは、別段見返りが欲しいからではない。なんとなく、天気がいいから散歩に行こう程度のノリだった。(献血後にお菓子やジュースをもらえるのは悪い気分ではなかったが……)

 そういう背景も含めて、ふと思い至った。何事も、花を育てるのに似ているのでは、と。

 鉢を買って、土を敷き詰め、種を撒いて水をやる。虫のケアをしてやったり、日に当ててやったり。ガーデニングは意外と難しい趣味だ。しかも、元気に育ってくれる保証もない。芽が出ないことだってある。けれど、水をやる。毎日毎日、枯れないように気を遣いながら。

 そうして病気も虫も跳ね除けて、元気に咲いた花に対して、何を要求することがあるだろう? 花は咲いてくれた。それだけでいい。

 献血も同じだと私は思う。金銭が発生するわけではないし、提供した血液がどこに行くかもわからない。もしかしたら、凄まじい極悪人に注がれて、そいつがとんでもない犯罪をしでかすかもしれない。そもそも、血に問題があって何にもならずに捨てられるかもしれない。

 だが、別段構うことは無いと私は思う。私は顔も名前も知らない誰かのために血を提供する。誰に輸血されるのか、それは私の血を受け取った医師が決めることだし、そこに私が口を出す余地は無い。

 なので、私は、ただ祈ることにした。どうか私の血が善人を生かし、また別の誰かに恵みを与えてくれることを。

 私の血は、見知らぬ花に注いだ水であり、同時にタンポポの種なのだ。

生活費です(切実)