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電子の歌姫は故きを歌い新しきを奏でる『初音ミク Project DIVA MEGA39’s+』

かつてニコニコ動画を中心に一世を風靡し、ボーカロイドという音楽ジャンルを築き上げた音声合成ソフトの代名詞「初音ミク」。その誕生から早くも16年もの歳月が過ぎました。

思い返せば10年以上前から、事あるごとに「初音ミクはオワコン(終わったコンテンツ)だ」と言われ続けていたような記憶があります。
それでも単なる一過性のブームで終わらなかったのは、初音ミクならびにボーカロイドという存在が世界中の人々の心を揺り動かしたと同時に、プロ・アマを問わず誰もが胸の内に秘めた創作への情熱に火をつけたからこそ、こうして誰もが知る一大コンテンツとして定着したように思います。

初音ミクは「オワコン」ではない。全盛期はとうの昔に過ぎているけど、それでもまだまだ廃れちゃいない。
私は俗に「ミク廃」と呼ばれるような熱狂的なファンではありませんが、それでも初音ミクならびにボーカロイドというコンテンツについてそう捉えています

ですが、初音ミク自体は「オワコン」でなくとも、初音ミクに関連したあるプロジェクトは、とっくに「オワコン」を迎えているように思います。
……少なくとも、私という“元”ファン目線では。

その移植は復活の兆しか衰退の証か

『初音ミク Project DIVA』といえば、初音ミクならびにクリプトン製ボーカロイドを題材とした人気リズムゲームシリーズ。3Dキャラクターがかわいく歌い踊るPV(他の音ゲーで言うところのMVやBGAに相当する背景映像)を見せることに重きを置いたゲームデザインになっているため、単なる音ゲーのみならず良質なキャラゲーとして知られています。
そして2022年5月にSteamでサプライズ配信された『初音ミク Project DIVA MEGA39's+(以下「MEGA39's+」または「PC版」もしくは「Steam版」)』はその最新作であり、シリーズ初のPCゲームになります。

……と言えば聞こえがいいでしょうけど、実際は2020年2月に発売されたSwitch用ソフト『初音ミク Project DIVA MEGA39's(以下「MEGA39's」または「Switch版」)』の移植版。

もっと言うとその『MEGA39's』も、2016年にPS4で配信された『初音ミク Project DIVA Future Tone(以下「FT」または「PS4版」)』をSwitch向けに調整したバージョン。

さらに踏み込んで言うとその『FT』も、2010年より稼働のアーケードゲーム『初音ミク Project DIVA Arcade(以下「アーケード版」)のコンシューマー移植版。

つまり完全な新作ゲームでなく、移植の移植のそのまた移植です。

過去の記事でも言及したように、私はミク廃やボカロ厨というより“元”DIVAファン。熱狂的ボカロリスナーの必携ファンアイテムとして買い集め続けたのでなく、純粋なゲーム好きとして楽しみながら本シリーズを追いかけていました。
あえて“元”と強調した理由は簡単。かつての自分が夢中になったゲームシリーズに対し、今日の私は「DIVAは死んだも同然のシリーズ」と愛想を尽かしているからです。

私がDIVAシリーズを死んだ――すなわち「オワコン」だと考えるようになったのは、別に今に始まったことではありません。
過去収録曲のリメイク譜面や作業感の強いやり込ませ要素といったマンネリ化の兆しは過去作(『初音ミク -Project DIVA- F 2nd』『初音ミク -Project DIVA- X』)の頃から見受けられましたし、それに対し当時から「いくら出せば売れる人気シリーズだからってこれはちょっと……」「もうセガも惰性で作ってるんじゃないか?」と呆れた覚えがあります。
心が離れる決定打となったのは、やはりアーケード版のコンシューマー移植。そのときに「ああ、セガはもうDIVAを畳みたくてしょうがないんだな」とシリーズの終焉を悟りましたし、その憶測はスマートフォンアプリ『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』が登場したことで確信へと変わりました。

なので長い沈黙を経て、Switch版やPC版が発表されたときは本当に驚きました。自分の中でとっくの昔に「オワコン」扱いしていたゲームの新作が出るなんて、夢にも思っていませんでしたから。
それこそ発売決定のアナウンスを見た瞬間に「DIVAシリーズ、生きてたのか……」と目が点になりましたし、国内外のボカロファンらがSNS上で歓喜の声を上げている様子を見ては「DIVA民、死に絶えてなかったのか……」と開いた口が塞がらなくなったほどです。

ただ、私という“元”ファンは、彼らほどの熱量を以てこのニュースを歓迎するまでに至りませんでした。

期待はずれの10周年祝い

さて、自作エディットPV『w❇︎ll』の投稿を最後に本シリーズから離れていた私にとって、この『MEGA39's+』はおよそ4年ぶりのDIVAとなります。
もちろんSwitch版からの新要素に触れるのも今回が初。なので本題に入る前に、まずは本作の移植元であるSwitch版の話から始めようと思います。

Switch版こと『MEGA39's』は、SEGA feat. HATSUNE MIKU Projectの10周年記念作と銘打って発売されたタイトルでありながら、完全な新作ゲームでなくアーケード版をベースにした移植作であることは前述の通り。しかし単なるベタ移植でなく、プラットフォームに合わせた最適化が行われた上で、下記の新要素が追加されています。

  • 新規収録曲

  • 新モジュール

  • ミックスモード(Joy-Con専用操作モード)

  • タッチモード(タッチスクリーン専用操作モード)

  • 全編トゥーンシェード化

  • Tシャツエディットモード

そのうちSwitchのハードギミックを活用した操作モードについてはPC版未収録となるため割愛。シェーディングについてはPC版限定要素と共に次項で取り上げるので、本項ではそれ以外の追加要素について簡単に触れていきます。

新曲の中でもステージ演出が随一の『テオ』

DIVAの魅力はPVにありき。そう考えていた私にとって、Switch版新規収録曲の3DPVはどれも大満足のクオリティです。
ハイクオリティなキャラクターモデルが繰り広げるダンスとパフォーマンスは言うまでもなく素晴らしく、それらを美しく魅せるためのカメラワークやステージ演出も圧巻の出来。PV目当てでアーケード版をプレイしていた“元”撮影勢の血が騒ぎ、シャッターチャンスの模索に一時停止ボタンとF12キーを連打する指がなかなか止まりませんでした。

ただし、私という“元”ファンを唸らせた新曲はたった5曲だけ。……というか、新規収録曲のうち3DPVが用意されたのが14曲中5曲しかありません。
残る9曲はモジュール変更に対応していない固定ムービーで、そのうちの8曲は本家MVの流用という、なんとも開発チームの懐事情にやさしい仕様になっています。

本シリーズのCGモデルを使用しているにも関わらずモジュール変更不可の『ロキ』

ましてや『ロキ』に至っては、本シリーズのキャラクターモデルを使用しているにも関わらず、モジュール変更が反映されないプリレンダムービー。他のムービーと比べても明らかに画質が低いという誰得仕様で、開発チームのやる気があるのかないのかさっぱりわかりません。

唯一の新作モジュール「Catch the Wave」

新作モジュールもメインテーマ曲をイメージした1着のみ。ビビッドな色合いがかわいいダンス衣装ということで、他のPVでも映えそうな使い勝手のいいモジュールなのは好印象。しかし、10周年記念という謳い文句の割に追加コスチュームがたった1着だけというのは、いくらなんでも寂しすぎやしないでしょうか。

NyanてダサいFlappyなGoatのTシャツを着せられたミクさん

完全な新要素として搭載されたTシャツエディットモードも、従来のエディットモードに比べると取って付けたような薄い機能であり、個人的には完全な蛇足。最初こそは自分の描いたクソダサTシャツを文句を言わずに着てくれるボーカロイドたちのプロ意識の高さに感激したものの、笑いと感動のピークはたった3~4曲踊らせただけで過ぎ去り、残念ながらそれ以上の楽しみを見出すことはできませんでした。

Tシャツだけがずらりと並ぶカスタマイズ画面

それどころかモジュール収録数がシリーズ最多という本作のカスタマイズ画面において、Tシャツだけで38着(無地1枚+ユーザー公募作32枚+Tシャツエディット用5枚)も並んでいるのを見ると、正直なところ邪魔としか言いようがありません。ただでさえソート機能が貧弱だというのに、こうも大量の類似アイテムでかさ増しされてしまっては、余計なフラストレーションが溜まる一方です。

とはいえ、こうして新要素に対する不満を書き連ねていったものの、ゲーム自体は決してつまらないわけではありません。
DLCを購入せずとも100曲以上遊べるのでボリュームは満点。フレームレートもほぼ60fpsで安定。元が横一列4ボタン式のアーケードゲームなのでパッドで遊ぶには苦しい場面もあるけど、それでもHARDまでなら無理なく遊べるような難易度。おまけにキャラクターの着せ替えも可能で、収録モジュール数はシリーズ最多の400着以上。おそらく本作で初めてDIVAシリーズに触れる新規ユーザーからすれば、十二分に楽しめること間違いないでしょう。

が、シリーズ経験者としては期待外れもいいところ。アーケード版の移植作という点を考慮しても、シリーズ10周年記念を祝うには分不相応な出来のように思います。
3DPV付きの新曲5曲と新モジュール1着を除けば、急ごしらえで実装したような申し訳程度の追加要素ばかり。にも関わらず、10,000円超の豪華特典版はちゃっかり用意し、PS4版のDLCも強気な価格設定で配信。言うなれば、新規ユーザーと盲目的信者以外を切り捨てた誰得エディション。そこにはかつて「セガの本気」とまで言われた開発チームの熱量は感じられず、あからさまな商業主義臭ばかりが鼻につきます。

『DJMAX RESPECT V』
良質な楽曲とBGAのクオリティに定評のある人気音ゲーシリーズ

これが他の音ゲーであれば、グラフィックやムービーのクオリティにこうも目くじらを立てることはなかったでしょう。
音ゲーにとって最も重要なのは「楽曲の良さ」と「譜面の楽しさ」であって、「ビジュアルの美しさ」は二の次。プレイヤーが求めているのはかわいいキャラクターや美しいムービーでなく、魅力的な音楽と夢中になれるゲームシステムです。もちろん中にはグラフィック面に力を入れているタイトルもありますが、BGAやスキンといった要素が存在しないゲームも珍しくありませんし、それでいて評判の良い作品もたくさんあります。

判定の位置が一定でないという独特のシステムから映像が印象に残りやすい作りになっている

しかし、音ゲーであると同時にキャラゲーでもあるDIVAシリーズに関しては話が別です。
本シリーズ最大の特徴といえば、ハイクオリティかつバラエティ豊富な3Dキャラクターがアイドルさながら歌い踊る豪華な背景映像。そのためクリア達成率やハイスコア更新を目的とした音ゲーマー以外にも、PV鑑賞やモジュール収集を目当てにキャラゲーとして楽しむプレイヤーも大勢いました。
かく言う私もそうしたキャラゲー寄りで楽しむ“元”撮影勢の一人だったので、新曲の約6割が固定ムービーという今作の出来には落胆せざるを得ません。その原因が資金か納期か開発チームのモチベーションかはさておき、少なくともいち消費者の目には、DIVAシリーズというアイデンティティを公式自ら放棄しているように感じてやまないのです。

長い沈黙を経て発売された期待の新作だというのに、蓋を開けてみるとただの焼き増し商法。一瞬だけ息を吹き返したように見えても、実際はほんの少し風に揺らいだだけ。セガは相変わらず倒れたままで、DIVAシリーズも相変わらず死んだまま。
Steam版を何十時間プレイしたところで、私という“元”ファンが抱く「DIVAシリーズはオワコン」という印象が覆ることはありませんでした。

……じゃあ何故その不満だらけのオワコンシリーズ最新作のPC移植版を買ったかって?

2023年のSteamサマーセールで購入しました

サマーセールの魔力ってやつ50%OFF表示につられたからだよ!!

ふたつのビジュアルに心揺さぶられて

そんなガッカリ10周年記念作のPC移植版はというと、Switchならではの操作モードを削除した代わりに、下記の要素が追加されています。

  • ビジュアル表現切替機能

  • 本編収録曲の増加(101曲→178曲)

  • PVフォトモード

  • Steamトレーディングカード

リアル寄りのFuture Tuneモデル(従来のシェーディング)
アニメ調のMEGA39'sモデル(トゥーンシェーディング)

そのうち一際目を引くのが、本作が初出となる新モードこと「ビジュアル表現切替機能」。バックグラウンドで歌い踊る3Dキャラクターのシェーディングを「アーケード版&PS4版基準(Future Tuneモデル)」にするか「Switch版基準(MEGA39'sモデル)」にするか選択できるグラフィックオプションです。

この新機能を除けば、目新しい要素は一切ありません。
新曲も新モジュールも何一つ追加されず、PVフォトモードだってSwitch版で削除されたPS4版の機能を復活させただけ。トレーディングカードは……まあ小銭稼ぎに役立つかなー程度の印象ぐらいでしょうか。個人的にはSwitch版同様、完全新規のプレイヤーでない限り「初音ミクの公式ゲームがPCでも遊べる」以外のメリットは無いように思います。

しかし、音ゲー目的でなくキャラゲー目的――それも私のようなフォトモード好きの“元”撮影勢としては「このためだけに買ってよかった」とすら思えるほど大当たりの新機能でした。

DIVAの魅力はPVにありき。その演出と表現力はシリーズを重ねるごと強化され、その度にプレイヤーを驚かせてきました。なので当然、PSP版第1作からある古いPVとVita版以降に追加された比較的新しいPVとではクオリティに雲泥の差があります。
表情の変化、口パクのタイミング、モーションの緩急……さまざまな要因が挙げられる中で、個人的にもっともクオリティの明暗を大きく分けると思うのがライティング(照明)です。

『恋スルVOC@LOID』をFuture Tuneモデルで再生
肌に落ちる影の色が暗くてなんだか不健康そうに見える

というのも、PSP時代から存在する初期の収録曲は光源がほとんど設定されていません。そのためアニメ調モデルのPSP版と比べると、アーケード版では必要以上にキャラクターの血色が悪く見えたり、俗に言う「不気味の谷」を思わせるようなカットが多々存在しました。
一応アーケード版の基盤が切り替わるタイミングでグラフィック全般にも調整が入り、最初期と比べると不気味さや不自然さは多少薄れたのですが……それでも違和感を完全に払拭するまでには至らなかったように思います。

『恋スルVOC@LOID』をMEGA39'sモデルで再生
2Dアニメ風に描写することで粗雑な照明が作り出す薄暗さを無視することに成功している

この長年の問題に対し、本作でようやく解決方法が提示されたことについては本当に嬉しかったです。粗雑な照明が作り出す不自然さをトゥーンレンダリングで強引に無視することで、シリーズを重ねるごとに色あせつつあったPSP時代の曲にも再び輝ける場が与えられたのですから。
さらに3DCG特有のリアルな質感を苦手とする人にも親しみやすいビジュアルとなったことで、既存ファンのみならず新規ユーザーも呼び込みやすくなったのではないでしょうか。

『二次元ドリームフィーバー』をMEGA39'sモデルで再生
薄暗いステージや激しい光の演出に対してキャラクターが不自然に明るい
『二次元ドリームフィーバー』をFuture Tuneモデルで再生
キャラクターが薄暗いステージに馴染んでおり、肌に落ちる光の演出が美しく感じられる

逆にVita版以降に登場した曲は、光源設定はもちろん、演出にも非常に気合いが入っており、中には『二次元ドリームフィーバ―』や『壊セ壊セ』のように光の演出を効果的に活用したPVもいくつか存在します。そういった曲をトゥーンシェードで再生すると、激しい演出に対し2D風のキャラクターが若干浮いてしまうケースも少なくありません。
そのおかげでトゥーンという表現方法も万能でないと知ったと同時に、従来のシェーディングの良さも再確認することができました。

『Catch the Wave』をFuture Tuneモデルで再生
光と影のコントラストがくっきりしており、肌や服の光沢感が強く感じられる
『Catch the Wave』をMEGA39'sモデルで再生
Future Tuneモデルと比べて全体的にのっぺりしており、2Dアニメっぽさが増した

少し意外だったのが、このグラフィック設定が『裏表ラバーズ』や『Catch the Wave』といった強制的にトゥーンシェードが適応される一部楽曲にも反映されること。もちろん通常のPVと比べると微々たる変化ではありますが、コントラストかのっぺり感のどちらを強調するかで映像の印象が変わったことには驚きました。

もともとはアーケード版『裏表ラバーズ』専用演出として用いられた映像技術だった

この「2種類のシェーディングをボタンひとつで簡単に切り替えられる」という追加要素は、リズムゲームの楽しさに直結するわけでありません。
技術自体も別段目新しいわけでなく、アーケード版に『裏表ラバーズ』が追加された当時から「ON/OFFを切り替えるだけで全曲トゥーン化可能」という解析情報があったため、そのスイッチを公に出しただけに過ぎません。

それでも「2種類のシェーディングをボタンひとつで簡単に切り替えられる」というだけでこれほどまでに楽しく感じられたのは、キャラゲーとして楽しむプレイヤーに新たな遊び方を提示してくれたからに尽きます。
PV鑑賞&撮影の醍醐味である「この曲にはどのモジュールが一番似合うか?」「映像内のどのカットが一番かわいく(かっこよく)映るか?」を模索する楽しみに、新たに「このPVはどちらのCG描写の方がより相応しいか?」も加わったおかげで、遊びの幅が一気に広がったように感じられました。

少なくともそのたったひとつの新機能が見せたふたつのビジュアルは、かつてPV目当てでアーケード版を触っていた私という“元”ファンの心を刺激するには十二分すぎました。

MODコミュニティの熱気に押されて

DIVAシリーズはオワコンである。そう口にしつつ何十時間も楽しむことができたのは、かつてアーケード版のPV撮影に熱を上げていたあの楽しさを再確認できたから。
そしてそのきっかけとなったのは、間違いなく前項で挙げたグラフィック表現切替機能の存在が大きいのですが、それだけではこんな気持ち悪い長文感想を書くまでに至らなかったでしょう。

もうひとつ。私が本作をこれほどまでに楽しむことができた背景には、シェーディング切替スイッチ同様にPC版ならではの要素の影響もありました。
バニラで遊んでも十二分に楽しいとはいえ、導入するとグッと遊びの幅が広がる非公式の改造パッチ――すなわち「MOD」の存在です。

公式のコンテンツでないものの話題を大々的に取り扱うことについて賛否があるかもしれませんが、今回ばかりは外野の意見なんて知ったことじゃありません。だって私が本作について語るにあたり、絶対に外せないほど大きな存在となってしまったのですから。

さて、一口に「MOD」と言ってもその種類は多種多様。テクスチャ(グラフィック)を差し替えただけの簡単なものから、別ゲーと言っていいほど手を加えた大規模なプロジェクトまで存在します。もちろん本作も有志によって制作されたMODが多数存在しており、Gamebanana(本作のMODの多くが公開されているMODコミュニティサイト)上では大きく9つのカテゴリーに分類されています。
本項ではそれをさらに大まかに「リズムゲーム系MOD(楽曲・譜面追加等)」「カスタマイズ系MOD(モジュール・アクセサリー追加等)」「システム系MOD(それ以外)」の3つに分けたうえで話を進めていきたいと思います。

『Megpoid the Music# Song Pack』より『キリトリセン』(リズムゲーム)

数あるMODの中でも特に多いのがリズムゲーム系MOD。純粋に音ゲーのボリュームを拡張するのに加え、譜面作りのハウツーもある程度充実していることから、プレイヤーならびにモッダーにとっては比較的取っつきやすい存在となっています。

『Project Hoshikuzu+ Song Pack』より『ぼうけんのしょがきえました!』(リズムゲーム)

ですが、そうしたMODのほとんどは「譜面のみ」のデータで、背景に流れるのは本家MVの転載動画。改造データとして実装するにあたってPVをゼロから作り上げるための情報が不足しているせいか、公式作品のように3Dキャラクターが歌い踊るモジュールチェンジ対応の「PV+譜面」のデータは滅多に見かけません。
そのため本シリーズに「音ゲーとしての楽しさ」よりも「キャラゲーとしての楽しさ」を求めている私の目には、単に曲や譜面を追加するだけのMODはさほど魅力的に映りませんでした。

『Vampire Miku』よりヴァンパイア(モジュール)

そんな私が魅了されたのがカスタマイズ系MOD。デフォルトで400着以上収録されているとはいえ、かわいくてかっこいいモジュールやアクセサリーの選択肢が増える分には大歓迎です。
前述のシェーディング切替と同様、映像に影響を及ぼす要素が増えれば増えるほどPV鑑賞&撮影の幅が広がるので、一時停止とF12キーを押す指がますます止まらなくなります。

『Breaking Bad』よりウォルターとジェシー(モジュール)

多いのはやはり本家MVのオマージュデザインや公式イベントのコンセプトアートといった衣装ですが、他社製ボーカロイドやミク派生キャラクターのモジュールデータもよく見かけます。中にはボカロとまったく接点の無いキャラクターや、ジョークとして作られたはずなのに無駄に出来が良い誰得な3Dモデルなんてのも少なくありません。
いずれにせよ見慣れたはずのPVを新鮮な気持ちで楽しむことができるので、新しいモジュールやカスタマイズアイテムが公開されるたびにダウンロードボタンへつい手が伸びてしまいます。

ラセツトムクロ(頭)×初音ミクスイムウェアST(体)をバニラで再生
それぞれ肌の色が違うモジュールを組み合わせると通常はこうなるので違和感が半端ない
上記の組み合わせを『Synchronizing Skin Color』を使用した状態で再生
ヘッド側の肌の色がボディ側に統合されて違和感が無くなった

そして個人的に一番感動したのは、『Synchronizing Skin Color』というMODのおかげで「頭部挿げ替え機能」がきちんと「髪型カスタマイズ」として正しく機能した瞬間を目の当たりにしたこと。通常では肌の色が異なるモジュール同士を組み合わせると上の画像のようになってしまうため、本機能の初出となったPS4版プレイ当時は「チェンジしたいのはヘッドじゃなくてヘアの方だけだよ!?」と随分落胆したのですが、PC版でこれを解決する手段があると知ったときはもう大喜び。まさしく当時の私が求めていた機能そのものだったので、何処に住んでいるかも知り得ないこのMOD制作者様にはもう足を向けて寝られません。

『3D PV Dimming』を使用して3DPVの明度を調整した状態

この2種類と比べると、システム系MODは音ゲー部分やキャラゲー要素に直接関与するものでないため、若干の華やかさに欠けるかもしれません。ですが、使い勝手の悪い仕様の改修やより快適にプレイするための機能の追加といったものが多く、その便利さからなかなか手放せなくなっています。
例を挙げると、FPS制限の解除にUIデザインの変更、歌詞の外国語訳やライティング&リップシンクの調整などなど。もちろんオートプレイや一瞬でレベルカンストといった典型的なチートも存在します。全体的に見ると、快適なプレイを求める音ゲーマー向けのMODよりも、PV鑑賞&撮影を重視するプレイヤー向けのMODの方が多い印象です。

前述の「多すぎるTシャツ問題」も『Remove T-Shirts』でスッキリ

個人的に重宝しているのが、『Remove T-Shirts』のような特定のモジュールやアイテムを非表示にするタイプのMOD。ソート機能が形骸化(購入済みor未購入でしか絞り込み検索できない)している本作のカスタマイズ画面において、使用頻度の低い所持品の一部を非表示にするだけでも、モジュール探しのストレスが幾分か軽減できるので、私の様にPVを中心に楽しみたいプレイヤーにとっては本当にありがたい存在だとしみじみ感じています。

『Disable Watermarks』『Project Diva X Song Pack』『Synchronizing Skin Color』『Eye Change Color Accessories』を使用した状態で撮影したスクリーンショット

そうやって多くのMODに触れていく最中に感じたのは、モッダーたちの並々ならぬ情熱。私の中でとっくに死んだと思っていたはずのコンテンツが、今日でも世界中の人々に支持されているという愛の証です。

3Dキャラクターを動かして動画を作りたいならMMD(MikuMikuDance)でいい。DIVAっぽいシステムの音ゲーをプレイしたければPPD(Project Project Dxxx)でいい。作るにも遊ぶにも優れたソフトはごまんとあるのだから、わざわざDIVAというゲームシリーズに固執すべき理由なんて何もない。なのに何故彼らはこんな面倒なことをしてまでMODを作ろうとするのだろう。
技術者でもなんでもない、ただMODを利用するだけの図々しいユーザーにも関わらず、もはや本シリーズをオワコンと見なしている“元”ファンの私は少し前まで割と本気でそう思っていました。

しかし、今なおMODを作り続けるモッダーという“現行”ファンが愛しているのは、「DIVA風のリズムゲームシステム」でなく「DIVAシリーズ“そのもの”」です。好きだからこそ「もっとこうだったらいいのに」という願望を、情熱の赴くまま形にしただけに過ぎません。
コミュニティサイトにアップされた数々のリズムゲーム系MOD(PPDからの移植譜面)やフォーラムのトピック(過去作のエディットデータやMMDの3Dモデルを『MEGA39's+』用にインポートできないかという質問)を見ると、まるで「エミュレーターでなくオリジナルで遊べることに意義がある」と物語っているように感じられます。

そんな風に考えが改まった瞬間、見ず知らずのモッダーたちの姿が、かつて本シリーズのエディットモードに熱を上げていた自分と重なったように感じました。
労力に対して見返りが圧倒的に少ない行為というのはわかりきっている。それでも純粋に「このゲームが好き」というだけで、情熱に身を委ねたままその愛情を形にしようとする、どうしようもなく愚かなゲームファン。そこに違いがあるとしたら、その手段が公式のゲームモードか非公式の改造パッチかというだけです。

顔も名前も国籍もSNSアカウントすら知らない、ただ同じゲームシリーズが好きというだけの彼らに一方的に親近感を覚えると同時に、その情熱が伝播したのか。コミュニティサイトを眺めていると、私も「過去に手掛けたエディットデータを移植できないか?」なんて少しだけ考えてしまいます。

……まあその熱が続いたのは、データインポートに関する質問スレを目にするまでのわずかな時間だけだったんですけどね。

シリーズ最高傑作だが物足りない永久保存版

こうして色々と書き連ねていくと、かつてPS4版が「アーケード版の永久保存版」という位置付けで発表されたことを思い出します。

では、その移植の移植作であるSteam版はどうかと問われれば、間違いなく「真の永久保存版」――いえ、「DIVAシリーズの集大成にして最高傑作」と呼んでも過言ではないでしょう。

前述の通り、公式収録曲とモジュール数はシリーズ最多。ビジュアル表現切替機能というコンシューマー版には無い限定要素もあり。正規での遊び方でないとはいえMODでの拡張も可能で、MODコミュニティもなかなか活気付いている。
かつてDIVAシリーズが展開されていたPSPやVitaが既に10年以上も前の旧世代機という点を考慮すると、現在入手可能な初音ミク出演ゲームの中でも最もボリューミーかつカスタマイズ性の高い作品で、ボカロ曲にさほど興味の無いライトユーザーから重度のミク廃までも満足させる一作だと思います。

ですが、いくら本作が「シリーズ最高傑作の永久保存版」であっても「非の打ちどころの無い完全無欠の名作」ではありません。
それは私がシリーズ最新作へ勝手に期待と落胆した厄介な“元”ファンだからというより、普通にプレイしていて多少の不便や小さな不満を感じる場面に度々遭遇したためでした。

ストアページ上のユーザーレビューでネガティブな意見に注目すると、よく指摘されているのが「音ズレ・判定ズレ」の多さ
たしかに音ゲーガチ勢でない私も「BGMを無視してノーツだけに注目した方が楽かも」と感じた場面は何度かありましたが、それがゲームの仕様だったのか自分が下手すぎるだけなのか判断がつかないので確かなことは言えません。ですが何人ものプレイヤーが口を揃えて同じ不満をレビューに書き記すということは、やはり音ゲーにとって致命的な問題点でしょう。

ただ、私自身はこの問題をさほど重要視していなかったりします。
一応タイミング調整設定もありますし、サンプリングレートを下げるなどの解決策もあるようですし、少なくともセガへの定期通信が原因のカクつきはMODで回避可能ですし……まあ撮影勢にとってはPVが本編みたいとこあるし。

Future TuneモデルでPV再生後、楽曲セレクトに戻ったときの画面
ビジュアル表現がオプション画面で設定した規定のモード(MEGA39's)に勝手に戻っている

そんな私が思う本作最大の問題点はというと、どちらのシェーディングで再生していようと楽曲セレクトに戻るとデフォルトで設定したグラフィックモードに強制的に戻されることでしょうか。使用モジュール同様、シェーディング設定だって曲ごとに保存できてもいいはずです。
これが音ゲー目当てのプレイヤーであればさほど気にならないのでしょうけど、私の場合「(PSP時代の)古い曲はMEGA39's」「(Vita版以降の)新しい曲はFuture Tune」と収録時期によって再生モデルを使い分けることが多いので、選曲の度に右上のグラフィックモードを確認する必要があるのが若干面倒に感じてしまいます。

『裏表ラバーズ』のモジュール設定画面
左側を見ると初音ミク系統以外のモジュールが選択できないようになっている

グラフィック系の不満をもう一つ上げると、複数人が登場するPVのモジュール設定。ほとんどの曲はボーカルもゲストもそれぞれ別のキャラクターを選択できるのですが、ごく一部にメインボーカルと同じキャラクター系統のモジュール以外は選択できない曲があるというのはどうも納得がいきません。

Vita版『初音ミク -Project DIVA- F 2nd』より『裏表ラバーズ』
ミク(愛し隊1号)&ルカ(愛したい2号)と別々のキャラクターを躍らせることが可能

だって前々世代の携帯機ですらできてたことが、今日のゲーミングPCでできなくなるっておかしくない!?

『Catch the Wave』のモジュール設定画面
6人まで設定できるがメインボーカル系統以外のモジュールは使用できない

せっかく『Catch the Wave』で「この場面はリンちゃんでー、その次はルカさんでー……」って各パートの最適解を考えてたのに……撮影の度にいちいち戻ってキャラ変えるのめんどいんだが!?

全5種類の画像がランダムで表示される本作のローディング画面

そして最も落胆したのがローディング画面。過去作ではピアプロユーザーによる100枚以上ものファンアートがランダムで表示されていたのですが、今作では各キャラクターの簡素なピンナップ画像が表示されるだけ。SEGA×ピアプロコラボを始めとしたユーザー公募型企画の多い本シリーズは「ファンと共に作り上げていくコンテンツ」感が強かったので、それが無いとなると少しだけ寂しさを感じてしまいます。

スクリーンショットフォルダと連動したPS4版のローディング画面

それ以上に悲しかったのは、PS4版にはあったロード中壁紙設定(自分が撮影したスクリーンショットをローディング画面で表示する機能)が存在しなかったこと。個人的にはゲームのプレイモチベーションに直結するほど気に入っていた機能だったので、本作でそれが無いと知ったときは本当に残念で残念で……

MikuMikuModelを使用してテクスチャを差し替えた後のローディング画面がこれ

あの神機能が無いのがどうにも我慢ならなくて、ローディング中に自分のスクリーンショットが表示されるよう一枚一枚全部手動で差し替えたぐらい残念だよ!!!!

……と、ある程度はMODで解決できるとはいえ、痒いところに手が届かないような小さな不満が気になって仕方ありません。
これが「その曲のHARD譜面をクリアしないとEXTREME以上の高難易度譜面で遊べない」というような前作譲りの欠点であればまだ受け入れられるのですが、前作ではできていたことが今作でできなくなっていることについては理解に苦しみます。

おまけに、最後に本作のアップデートが配信されたのが2023年の5月。それもSteam Deck向けの微調整だけだったので、今後の改善に期待……というのは無理があります。
一縷の望みを託すとしたら公式よりモッダー。私としては一縷の望みに掛けて、今後も足しげく新着MOD一覧ページをチェックしていきたいところです。


現在のプレイ時間は60時間超。実績も累計プレイ時間のものを除いてほぼ解除済み。現在もPV鑑賞&撮影目的でちょくちょく起動します。
久々にプレイしたDIVAはそれほどまでに楽しかったのですが、どれだけプレイしたところで「DIVAシリーズはオワコン」「とっくの昔に死んだゲームシリーズ」の印象が覆るまでには至りませんでした。

好意的に解釈すれば、SEGA feat. HATSUNE MIKU Projectの新企画が控えており、その宣伝や資金集めの目的でSwitchやPCへ移植したのでしょう。その利益が近い将来、本シリーズを愛するファンに還元されるのであれば文句はありません。
しかし、一通りプレイした私の目には残念ながら「よくあるリマスター商法」「過去IPの栄光にすがっただけの小銭稼ぎ」のようにしか映りませんでした。追加楽曲も無ければアップデートにも消極的で、シリーズ復活の兆しどころか衰退の証を見せつけられたかのようです。

ですが、災いだらけのパンドラの箱にほんのわずかな希望が残っていたように、故きゲームシリーズを温ねたことで得られたのは絶望の未来予想図だけではありませんでした。

とっくに死んだと思ったシリーズを、メーカーが未だに覚えていたこと。
その死んだはずのシリーズを、今なお愛し続けるファンが大勢いたこと。

ここまで書いては消してを繰り返し、その結果15,000字近くにまで膨れ上がって怪文書化してしまった感想文ですが、端的にまとめると「このゲームをプレイしてよかった」というだけの話。ゲームを通じてその2つを知ることができただけでも感無量です。
そう考えるあたり、ここまで何度も“元”と強調し続けた私も、結局のところ死んだゲームシリーズを愛する愚かなファンの一人に違いありません。

懐かしくも新しく、新しくも懐かしい。長年シリーズを追いかけ続けた私にとって、本作はそんな温かな気持ちに包まれる温故知新の作品でした。


こんな記事に投げ銭するぐらいならレンガかフラフープを買った方が有意義だぞ。