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『ファイナルファンタジーXIIのあるきかた』のススメ


 ゲームの攻略本。
 インターネットで気軽に攻略サイトが見られる時代になるまで、人々は古文書を読んでゲーム攻略の助けとしていた。
 攻略サイトが乱立する今からすれば信じられない話だが、確かにそういう時代があった。

 かく言う私も、幼稚園時代に『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の攻略本で読み書きを覚えたクチである。

 それから十数年、様々な読書体験を経た今でも、攻略本を読んでた頃の『知らない世界に触れる』ワクワクは色褪せていないように思う。

 噂では、作家の宮部みゆきさんがゲームの攻略本の熱烈なコレクターだという話もある。
 ゲームの攻略本には人の心を引き寄せる確かな力があるようだ。

 そんな攻略本の中でも一冊、私の脳内(と本棚)で異様な存在感を放つ一冊がある。

『ファイナルファンタジーXIIのあるきかた』である

 厳密には攻略本ではないのかもしれないが、ゲーム攻略の本であることには違い無いので、攻略本として紹介することにする。

『やりこみ』は基本


 『やりこみ』は、ゲームをエンターテイメントする上でのアルファにしてオメガウェポンである。

 全34章からなるこの本、第1章の内容からして、

『主人公を最初のダンジョンに突入する前にレベル98にして、主人公のレベルを参照してレベルが決まるゲストキャラを全員レベル99にしてその挙動を楽しむ』

 という、100時間級のマラソンを前提にした企画から始まる。
 このマラソン自体の過程や工夫などを交えた克明な記録は、今ならばゲームやりこみ実況を見ているような気分に近い。

 続く第二章では、

『お金を9999万9999ギル(作中で手に入るお金の限度額)まで貯めて、『銭投げ』と『お金から変換したMP』だけで作中最強の敵ヤズマット(HP5011万2425)を倒す』

 
という、100時間級の(以下略)。

 Youtubeやニコニコ動画に親しみがある人は、まるでゲームやり込み動画のサムネイルを見たような気持ちにならないだろうか。

 ゲームを極限まで楽しむ。
 私たち一般ゲーマーのほとんどは、ゲームへの究極的没入に憧れながらも時間的制約などにより叶えられないことがほとんどだ。
 ゲームやり込み系の実況やプレイ動画が人気を博しているのは、そんな欲求を仮初めながらも満たしてくれるからだろう。

『全自動ボス撃破術』
『召喚獣早期入手で無双』
『連続攻撃の仕様を悪用してラスボスに奥義を使わせずに倒す』

 等々、この本には攻略データ以上に『ゲームの楽しみ方を提示する』という価値が詰まっている。 

ファイナルファンタジーXIIという最高の題材


 ファイナルファンタジーXIIはFFシリーズの中では結構下の扱いを受けることが多い(この前NHKか何かでやっていた『FF人気投票』でもあまりパッとしなかった)。
 主人公のヴァンに主人公としての風格が無いことを始めとし(私はそのことを肯定的に捉えているが)、王道ファンタジーFFとしては異端な要素もまあまあある。
 だが、今振り返っても数々の創意工夫に満ちたゲームだったように思う。

・フィールド上を敵が闊歩し、近づいたら画面遷移なしに戦闘が始まる『シームレスバトル』の導入
・味方キャラクターのAIを自分で設定し、自動で戦闘を行わせることもできる『ガンビット』

などの画期的システムを始めとして、

・政治的駆け引きを中心とした渋いストーリー運び(途中で脚本が変わったらしく後半が大味なのはご愛嬌)
・その辺を歩いていたらレベルに数十の開きがあるバケモノがうろついているなど、臨場感と没入感に溢れたフィールド
・様々なテキストからうかがい知れる、生活感と幻想にあふれた世界観

 など、一つのゲームとして高い完成度を誇っていたように思う。

 思い出補正も混ざっている可能性があるが、何度もリメイクされていることからもそのカルト的人気はうかがい知ることが出来よう。

 特に、世界観周りの作り込みが半端ではなかったように思う。
 雨季と乾季で様変わりする地域や、読み物としても面白いモンスター図鑑。人々の生活を多角的に覗き見ることが出来るイベントの数々。
 
 魅力的なゲーム世界を構築できていたからこそ、後述する『作品愛』も発生し得るのだ。

深すぎる作り込みと深すぎる掘り下げ


 さて、この本の本領は後半部分に当たる『トラベラーズダイアリー -旅の章-』と『クロスオーバーイヴァリース -文化の章-』にあると、私は勝手に思っている。
 これらはゲーム内容というよりは、ゲーム世界そのものについて掘り下げる項だ。

 例えば28章『アーシェ王女の突撃天気予報』では、ヒロイン『アーシェ』の服の靡き方から各フィールドの風向きを測定し、ワールドマップ全体における気圧配置を推定、それをもとに各エリアの気候について考察している。

……変態である。

 考察する方も変態だが、考察できるように作っている方も変態に違いない。

 他にも、『作品世界の技術レベルに即した地上交易ルートの推定』『各町のNPCの人種統計調査』『作中には登場しない他国との交易についての情報まとめ』『各地の『橋』に注目した風土についての特集』など、マニアックで愛に溢れた記事が目白押しとなっている。

 これらが開発チームの開示した『資料集』ではなく、ゲームをプレイする側の『攻略結果』として示されたことに、私は意味を感じる。

 突然手前味噌な話をするが、私は創作をする時に世界観をじっくり作り込むタイプだった(今はその反動でキャラから作り込むスタイルに鞍替えしてるが、世界観についてはこだわりがち)。
 振り返ってみると、それはこの本にあるような『世界を作り込む』⇔『世界を考察する』という高度なやり取り、作品にこめた意図の『キャッチボール』を目の当たりにして憧れを持っていたからなのだろう。

 『創作をするからには受け取り手側にここまで『攻略し甲斐がある』と思って貰える世界を作りたい』
 そう思わせてくれる作品愛こそ、私がこの本に魅力を感じる最大の理由なのだろう。


 ……と、あまり長く語り過ぎてもいけないので、この辺にしておこう。
 以上の話を聞いて興味を持ってくれた方がいるならば、是非ともこの本だけでも読んでみて欲しい。もちろんゲーム本編もやって欲しいが、ハマるとマラソンしなくても100時間は融けてしまうので、覚悟した方が良い。

 また、どうやら『あるきかた』シリーズはFFだとXIIでしか出ていないようだが、ドラクエなど他シリーズでは何冊か出ているらしい。

 中にはあのドラクエの異端児『VII』や思い出の『V』についてもあるようなので、今度買ってみようと思う。

余談:ゲームの本、本のゲーム


 さて、『ファイナルファンタジーXIIのあるきかた』とは一ミリも関係ない話なのだが、せっかくゲームの本の話をしたので自作の宣伝をしておく。
 私も同人でゲームの本を作っている。
 ゲームの本……というか、本のゲームだ。

 ゲームブック。1980年代に一大ブームを巻き起こし(生まれてないので当時のことは知らない)、かの名作アクションRPG『DARKSOULS』にも影響を与えた※という謎の一大ジャンルである。
(※『DARKSOULS DESIGN WORKS』開発者インタビューを参照)

 簡単に言えば本を媒体とした一人用RPGのようなもので、分岐する物語を読み進めながら探索や戦闘、物語を楽しむことが出来る。

 第一作『冒険のドラクロイツ』と第二作『夢幻のマダラメイア』はサイコロを使って戦闘を進めるオーソドックスなRPG、第三作『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』は選択肢だけでメモもサイコロも要らないシンプル設計となっている。

 基本的にどの本からでも遊べるように作ってあるので、『あるきかた』のついでにリモートショッピングしてもらえれば幸いである。
(なお、『夢幻のマダラメイア』だけはメロブさんに在庫が無くなってしまったので、イエローサブマリンさんで買ってほしい)


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