北海道最古の湯?知内温泉ユートピア和楽園でデラックスな岩風呂に入る。
木古内駅から知内温泉へ
ずいぶん前の話になるが、昨年9月下旬のある日。私は北海道の木古内駅前からバスに乗り、知内町の温泉地に降り立っていた。なんだか辺鄙なところで降ろされてしまったなぁ…というのが、バスを降りた私から漏れ出た第一声だった。右を見ても左を見ても、何もない。温泉地という風情すらない。知内温泉の古ぼけた案内板が頭の上にあり、それがわずかにこの場所に温泉があるということを知らしめてくれていた。
そして、そこが今回の旅で私が目指す場所だった。
温泉旅館「ユートピア和楽園」。
ユートピアであることを惜しげもなく出してくる温泉旅館。いつかは訪れてみたいと熱望していた温泉が、もう目の前にあるのだった。自然と私の胸も高鳴ってワクワクドキドキ…というほどでもないが、まあ、期待はふくらんでいた。
「もう目の前にあるのだった」とは言ったものの、そんなに「目の前」でもなかった。降り立ったバス停は「湯の里温泉入口」という場所だったが、入り口というほど入り口でもない距離感であるのはバス停あるあるなので気にはしないが、それにしても、周囲を森に囲まれて、人の気配がないのはやはり寂しい。そもそも、私のようにバスと徒歩で訪れようなんていう人間は、めったにいないのかもしれない。
八百年の歴史のデラックス岩風呂
周囲の風景を写真に撮りながら、ちんたらちんたらと歩くこと約20分。ついに「ユートピア和楽園」に到着した。
「八百年の歴史を誇る デラックス岩風呂」
まず目に飛び込んできたのはこの看板だ。
デラックス感のかけらもない看板ではあるが、デラックスな岩風呂を備えていることを惜しげもなくアピールしてくる。これは否が応でも期待が高まる。期待しないほうが無理っていうもんだぜ。
そう、この知内温泉は開湯から約800年の古湯でもあり、どんな歴史を辿ってきたかというと…と書き記そうと思ったが面倒くさいので、和楽園の公式ページを見ていただきたい。
http://01392onsen.com/history.php
ユートピア和楽園の部屋(旧館)
ユートピア和楽園には新館と旧館があって、私が宿泊したのは旧館の2食付きの「ビジネスプラン」だった。予約時は1泊6,900円というリーズナブルな価格設定(※2022年11月時の情報)だったが、ここ最近の物価上昇で現在は宿泊費も上がってしまったようだ。
新館はその名の通り新しくきれいな部屋であるが、旧館は旧館というだけあって、かなり年季の入った建物だった。言ってみれば、湯治宿の風情である。とはいえ、部屋はきちんと掃除されているし、温泉を巡っていればこうした古い宿も少なからずあるので、私としてはまったく問題がないレベルだ。
壁を見れば、黒い染みのようなものが浮き出している。これが人の形をしていたら怨念か何かと動揺するところであったが、そんなことはなかったので、抽象的な水墨画なんだろうと思ってじっと見つめていれば、まあ、そう見えてこないこともない。
アメニティ類は、最低限のものは揃っているので問題がない。今回は2泊したが、きちんと交換もしていただけた。
ユートピア和楽園の湯
和楽園には「上の湯」「下の湯」と混浴の露天風呂がある。
とにかくビジュアルがすごい。下の写真1枚では伝わりにくくて申し訳ないのだが、湯の花が壁伝いにかたまって石化した様子は、ちょっとグロテスクな趣きがある。そうかと思って床を見れば、これまた石化した湯の花が足裏を刺激してくるのである。そう、こいつは何かに似ている、何かの写真で見た気がする…と思ったら、山口県にある秋芳洞という鍾乳洞の「百枚皿」に似ているのである。
長い年月をかけて石化した湯の花が形作る、奇妙なビジュアルの岩風呂。
まさにこれを「八百年の歴史を誇る デラックス岩風呂」と呼ばずして、何と呼べばいいのだろう。私の思い描いていた「デラックス」な感じから、はるか斜め上をいく「デラックス」なのだった。
「上の湯」「下の湯」ともに、温度は高めで、けっこう熱い。長い時間は浸かっていられない。
ふたつのお湯で泉質も異なっていて、「上の湯」は明礬(みょうばん)という聞き慣れない成分も含んでいる。「下の湯」は鉄分多めで、湯の色も赤茶で舐めてみると鉄分臭が強い。
露天風呂は洗い場はなく、混浴とはなっているものの、誰かしらが入浴しているとき(入り口にスリッパが脱いで置いてある)はこちらも入りにくく、逆に、自分が入っているときは誰かが入ってくることもなかった。
ユートピア和楽園の料理
食事については、最安の「ビジネスプラン」を選択していたので期待はしていなかったのだが、想定していた以上のものが目の前に並べられて、もしかして宿の人はプランを間違えているのではないか、セコ旅をしているのにチェックアウト時に高額な請求が来るのではないか、という心配が一瞬だけ頭をもたげたものの、それはただの杞憂だった。
食事は、この宿がとくにこだわっている部分なのではないかな、と想像された。味も見た目も丁寧な仕事であることを感じられた。
知内温泉「ユートピア和楽園」への最寄りのバス停「湯の里温泉入口」へは、木古内駅からバスで約30分。
泉質も食事も、なかなか満足度の高い時間を過ごすことができた。
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