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ビスケット飛ばしと台風クラブ(7/11)

本日からジャパンエキスポでバイト業務!

ということで、バイト大好きセビーこと世武裕子の楽しい四日間が始まる予定であったが「どうやら世武さんのスタッフパスが間に合っていない」という報せを受け、早速出鼻を挫かれることとなった。これが安定のフレンチスタイル。しかし無問題なのである。

私は作曲家としてデビューしてからも数年間は会社員であった。以前にも触れたが(触れていなかったらごめん、ならば今触れるが会社員だった)「会社員」と言ってもフランスの会社だったので、日本社会の常識を弁えているかと問われるとおそらく答えは「ノン!」
堂々と恥ずかしげもなくノンって.... と思われそうだが、内心少しばかり恥ずかしい気持ちも持っているので多めに見てほしい。

で、私以外の同僚や上司はフランス人という環境だったため、こんな小さなハプニングは日常茶飯事。からして、別に、「世武さんのパスが出ていないなんて失礼をすみません!」「せっかくスケジュールを押さえてもらっていたのに申し訳ない!」みたいなご心配は本当に無用、私のために気を揉む方がマイナスである。これも想定内、ここはフランス。

じゃあ今日は何しよっかな〜という、それだけの話である。

雨も止んだので公園で本を読んでから、相米慎二監督の『台風クラブ』がMK2 Beaubourgでやっていたのでそれを観ることにした。こういう時に「じゃあ、巻きで仕事をしよう!」となっていたのが日本での自分。でも今の私はそうではないのだ!すっかりグータラ人間なのだ!!パリは人間をグータラにさせる。

公園でボーッとしていたら、右頬にビスケットのカケラが飛んできた。よく見たらまだ小さな女の子がビスケットを投げている。
おそらく彼女のおばあちゃんだと思われる人が「すみません、鳥にビスケットあげようと思ったら思ったよりカケラが大きくて、上手く投げられなかったみたい。ほんとごめんなさいね」と言うではないか。
なんだなんだ、萌えエピソードがお天道様の見ている時間に大通りをお通りではないか!

「むしろここまで飛ばせるなんてなかなかの腕前だね!次はきっと成功するね」と女の子に伝えながら、私の右頬に突撃したビスケットを小さく割って鳥に与えた。なるべく鳩より小鳥を希望して高めに投げると、あらゆる鳩を差し置いて誰よりも高く小鳥が飛ぶ。上手に小さなビスケットのカケラを加えて行った。
あまりに見事で、私も、おばあさんも、そして女の子は「わぁ〜!」と興奮していた。

自分のビスケットが(私を介してではあるが)小鳥に届いたことを嬉しそうに確認した女の子は、私がしたのと同じように、今度は高さを意識して、自分の残りのビスケットを投げる。今度は上手に小鳥に届いて「わぁ!」とまた両手をあげてはしゃいでいた。小さい子は覚えが良い。

私には子供がいないが、誰の生んだ子だとか関係なく、彼ら彼女らがなるべく楽しい人生が良いなと常に願うのはこういう体験があるからだ。

『台風クラブ』は完全に狂った映画だった。私はノスタルジー主義というわけでもないが、この頃の日本映画の破天荒さ、奇天烈さは眩しく映る。
はっきり言って、自分の人生にあまりにも交わることのない心情や文化が並んでいるし、たまに今の社会では(よくない意味で、いわゆるコンプライアンス的に)ありえない描写もあったりする。よく分からない話なのだが、なんか凄いことだけは分かる。
ある意味で、同じ映画館にいたフランス人にしたって異様な日本の若者たちの姿だったろう。フランスで日本映画を観るのって、なんか良いんだ。自分が「当たり前」から排除されていることも「当たり前」のひとつ、っていう懐。

ハマ(・オカモト)くんに誘ってもらった録音に、いまみちともたか氏がいらっしゃった事があった。私は日本のロックシーンを全く知らずに「この人はすごい人らしい」という軽やかな噂と演奏を共にした時の楽しさに当時は留まっていたが、『台風クラブ』の挿入歌のバービー・ボーイズの文字にハマ君を思い出し、いまみち氏のことも思い出し、今更ながら”本当に知り合った”気持ちになった。

音楽家同士の「知り合う」タイミングは、必ずしもセイハローした時ではなかったりする。これは、音楽家である醍醐味のひとつである。

いいだろ、音楽家って!うふふ。

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