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映画音楽家としての自分を振り返る(5/25)

Luca GUADAGNINO(ルカ・グァダニーノ)の新作『Challengers(チャレンジャーズ)』を観てきた。私もおそらく多くの人と同様に『Call Me By Your Name(君の名前で僕を呼んで)』でグァダニーノ監督の存在を知ったクチだ。その翌年は、界隈のレジェンド ダリオ・アルジェント大先生(大好き)のリメイク版『SUSPIRIA(サスペリア)』も上映されていて、あの時期に一気に話題になった映画人。

グァダニーノ監督は基本的には脚本にはノータッチ?のようで(ネットで調べた)少し意外だなという印象。かなりこだわり強くて自分で何でもやりたいタイプの人かと思っていた。

これまでゼンデイヤが演技をしているところを観たことがなかったため、何故か社交界で有名な謎のキッズセレブという印象を勝手に持っていたが、ちゃんと俳優だった。
プロデューサーに名前が並んでいるだけあって、彼女にピッタリ!という感じの配役。兎にも角にもテニスのスコートが似合いすぎていたし、スコートから覗く御御足もテニス選手にしては少しスラっとしすぎているかもしれないけれど、作品の世界観を作るのに大いに貢献していたように思う。母親感は、それにしたって皆無でしたが....(笑)

それにしてもグァダニーノ監督は本当に音楽が好きなのだなぁとしみじみ。
今回はTrent Reznor&Atticus Rossという、安定感も人気も抜群の二人が音楽を担当しているけれど、もうそれが嬉しくって堪らない!と言わんばかりにミュージックビデオさながらの作り。テニスバトルシーンの熱の入れようも作り手の凄いパッションを感じた。
しかしこんなにも音楽が大切にされるなんて、作曲家冥利に尽きまくりである。

江島(啓一)君とよく、トレント・レズナーアッティカス・ロスを二人でやりたいという話をしてきたが、改めてこういうタイプの音楽もやってみたいなぁと思って夢だけは変わらずデカく持って帰った。

いつかの日記で少し触れた気がするが、こちらで映画音楽作曲家に特化したエージェントと契約を交わした際にエージェントが、私の作ったサウンドトラックの中でもアニメシリーズ「ミギとダリ」の音楽、それから『ARC アーク』のエンドタイトル(メインテーマ)、WOWOWドラマ「椅子」のなかの「雨が降っている」を特に良いと言ってくれたことが意外だったので、自分の中で「他人が評価している自分の音楽とはなんなのか」を、おそらく生まれて初めて考える数週間を過ごしている。

正直なところ、他人がどう評価しようが自分が誇れるものを作っているかどうかにしか興味がなかった。
これって、自分の生き方のちょっと勿体無いところ(と同時に、良いところでもあるのだが)かも知れないなという風に思い、これは人としての成長のヒントでもあるかも!と、楽しみながら自分(および自分の音楽)と向き合っている。
子供のような気持ちにもなり、世界が大きく見えて、この感覚は結構気に入っている。

今のところは日本の仕事しかないので、フランスではこれからどのように売り出して行くかをエージェントと話し合ったり、最近知り合ったミュージシャンにアドバイスを貰ったりしているのだが、ひとつハッとしたことがあって、日本にいるエージェントに早速電話をした。

今年は、音楽を作る予定の映画が今のところ2本、目下検討中のものが2本ある。
後者の2本は受ける/受けないにも関わってくるところなので、何でも先手ですぐ連絡し、あらゆる面で発見やアイデアの芽が見落とされないように留意する。

私はこれまで当て書きにこだわってきた。自分の強みは役者の呼吸や芝居のテンポ、映像の編集リズムを本能的に嗅ぎ分けて、そこに侵食していける力。そしてその時のスピードだと自負してきた。

でも、こうやって改めて自分の音楽を他人に評価してもらうことになって気づいたのが「これは特に素晴らしい!と言われたトラックは全て当て書きしていない作品(もしくはトラック)」なのだ。

ある意味当然の話で、私がこれまで音楽を作ってきた映画の殆どはフランスで観ることができない。要するに、当て書きがどれほど優れているかはジャッジできない。
でも、それにしたって、当て書きではなくイマジネーションで一曲の音楽を書いていく方が、音楽的には豊かな展開を持つのは作曲家なのだから当たり前である。

当て書きしてしまうと、本当は音楽的に面白い要素を入れたくても、色んなアイデアが浮かんできても、奇天烈な展開を思いついても、あくまで映像ファースト、映像に合わせていくしかない。映像からはみ出すような「自己表現の場」は存在しない。ちょっとした事故みたいな偶然の産物は産まれ得ない。

当て書きの経験を積んできた今、当てて書かないというやり方を試してみるのはひとつ面白い試みかもしれない。選曲を誰がするのかという重要課題はあるものの、何となく一回り大きくなれる予感がする。

日々、打ちひしがれたり(すぐ打ちひしがれ、すぐ立ち直るタイプ)、落ち込んだり、日本でラクした方が良かった気がする... と思ってクヨクヨしたり。「情緒だいじょぶそ?」と自分に話しかけたりしているが、こんな事でもなきゃ一生当て書きしてたかも知れないと思ったら、そっちの方が怖いな!ぬるい寒気に襲われた。

映画館でもらった刺激のまま、夜は自宅にて「忍びの家」というNetflixのドラマシリーズを見始めた。
10代の頃のように、好奇心のスイッチをひとつずつ付け直す。

『Challengers』のサントラもいいけど、「忍びの家」のテーマ曲もイケてんな。こういうの、好き!

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