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【映画感想】『仮面ライダーBLACK 恐怖! 悪魔峠の怪人館』

 前作では鬼ヶ島に向かっていた光太郎だが、今回の舞台は夕張である。本編で唐突に夕張遠征をしていたのはなぜだろうと思っていたが、こういうからくりがあったのか。
 夕張をゴルゴムの本拠地とし、ゆくゆくは世界の中心にせんと目論むシャドームーン達。そのために巨大な戦闘ロボを作らせようとするも、白羽の矢を立てられた牧野博士は、ロボの完成直前になって、やっとの思いで脱出することに成功する。クライシスは四国を空母にしようともくろんでいたが、本州から地続きでない大きな島にはなにか侵略者の心を掻き立てる不思議な力があるのかもしれない。旧幕軍ではないが、確かに北海道のあのサイズ感は独立国にはちょうどよさそう。
 何とか東京の自宅へ帰り着いた牧野博士だが、そこにいるはずの妻と娘はすでにビシュムの手に落ちている。博士を連れ戻そうとするツノザメ怪人と一戦交えたことをきっかけに、光太郎もロードセクターを駆り一路夕張へ向かう。不慣れな道を長距離走るには、確かにバトルホッパーよりも屋根付きのロードセクターの方が何かと便利そう。スーパーコンピュータが搭載されているのでカーナビいらずでもある。
 さて、のどかな一本道をひたすらに走って夕張の市街地へたどり着いた光太郎だが、人々はみな家に閉じこもり、道には犬ころ一匹がてとてと走っているのみである。野良犬にしては毛並みがふさふさしていて、愛玩用の小型犬といった風貌。すわ子熊かとも思ったが(夕張なので)、一時停止してよくよく見るとやっぱり犬であった。ペットも飼いきれないほど市民は困窮しているのだろうか。
 領民を守るため、為政者は苦渋の決断をせねばならないときもある。だが、時の夕張市長はゴルゴムに従うふりをして、ひそかに反撃の機会をうかがっていた。市長らの情報により光太郎はゴルゴムの拠点へ向かう。悪魔峠の怪人館というおどろおどろしいネーミングはゴルゴムが住み着いてからつけられたのだろうと推測すると、もしかしたら結構長いスパンでシャドームーン達は夕張侵略を進めていたのかもしれない。たしかに牧野博士一人であのロボを作り上げようとすれば、なかなかの時間がかかりそうだ。
 館に到着し、ツノザメ怪人との戦闘を開始するブラックだが、そこへシャドームーンが割って入った。シャドームーンはベルトの力を用いて亡霊世界を操り、亡霊怪人たちにブラックを襲わせる。挿入歌のせいであまりシリアスに見えないが、実際は多勢に無勢、なかなかの修羅場である。困った時の愛機頼り、ロードセクターの力で辛くも脱出したブラックだが、身代わりのようにロードセクターが亡霊世界へ置き去りとなってしまう。
 愛用のサタンサーベルを手に意気軒高、果敢にブラックへ打ちかかるシャドームーン。絶体絶命のピンチだが、そこで光太郎は打開策をひらめく。シャドームーンのベルトが亡霊世界を操れるのなら、ブラックのベルトにはまったキングストーンもまた、同じわざを行うことが出来るのではないか。起死回生のキングストーンフラッシュがシャドームーンをよろめかせ、亡霊世界への道筋をこじ開ける。ブラックが力強くロードセクターを呼ぶと、有能なバイクは現実世界への生還を果たす。ここで流れてくるOPが最高にかっこよくてテンション爆上げ。
「シャドームーンのベルトにできるのだから自分のベルトにも出来るはず」というブラックの発想は、彼らの改造経緯を外から見ている我々にとっては「なるほど確かに」と膝を打つところである。だが、これをひらめいてしまったことはもしかして、光太郎にとってはのちのち結構キツいのではなかろうかと心配になる。ブラックとシャドームーン、光太郎と信彦は、どちらも逆の立ち位置になる可能性を持っていた。二人に施された改造手術はほぼ同じものであり、埋め込まれたベルトの性能もまた等しい。シャドームーンの中の「自分もああなっていたかもしれない」という可能性をまざまざと見せつけられ、また同じキングストーンを持つ者同士、自分と信彦の運命がたがえてしまった日の事をいやがおうにも思い出してしまうのではなかろうか。
 ツノザメ怪人を死闘の末に打ち倒し、夕張には再び平和と笑顔が戻ってくる。牧野博士とその家族も無事だ。遊園地で楽しく遊ぶ人々に背を向けるように、仮面ライダーブラックはひとりバイクで走って行く。じきに結婚式にお呼ばれすることになるので、またすぐに夕張へ舞い戻ってくることにはなろうが、今の光太郎にはしばしの休息が必要だ。理解者である杏子や克美は遠く東京の地にいる。北海道の大地をひとり行くライダーの姿は、まるで最終回後の彼の姿を予見するかのように凛々しく、しかしほんの少しだけ物悲しい。

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