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和洋雪中庵

 鹿威しが鳴ると急に冬が来た。雪を被った紅葉の色は、紅梅より濃かった。

 草ぶきの小屋の中で少年は視線を外に向けた。呆気にとられて開いた口から、ほうっと白い息が出たあと、鼻の奥がツン。かじかむ手。

 噴水に落ちた椿は、薄氷の上では揺蕩うことが出来ずに静止している。

「噴水の中央に立つエルフの少女像にコートをかけてやったら、笠地蔵みたく恩返しをしてくれる?」

 少年はそんなことを考えたが、着ていたのは綿入れ。可愛い彼女のお眼鏡に叶いそうではない。

 いよいよ季節を替えねば身が切れると少年は思った。鹿威しを探して、もうひと鳴りして貰おう。エルフの見つめる先を辿って行かん。

 雪を着た枯れ木たちを抜けると、鹿威しはあった。竹の筒に注がれる水は、一滴ずつ。少年はさっきの薄氷を溶かして持ってこようと思ったが、近くに鶯がいた。

 濡れっぽい黒髪から見える少年の耳は、とっくに赤い。いっそ夏が来い。

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