空洞

ある土でできた空洞があった。
空洞は思った。『なぜ私はこの空洞を維持し続けなければならないのだろう。こんな空っぽの、何もないものを維持し続けているから私は虚しく、苦しいのだ』
空洞は身体を震わせて、周りの土を崩し始めた。その時、空洞はとても愉快な気持ちだった。
空洞は周りの土を徹底的に崩して、空洞を土で満たして、なくしてしまった。『これでよし』空洞はただの土になった。
暫くすると、土は健康上の不調を感じ始めた。やけに息が詰まるとか、肩が凝るとか
、頭痛がするとか、そう言った不調だ。そこで土は思った。『空洞を壊さなければよかった。今まで自分を土だと思っていたが、きっとあの空洞こそが私の本質だったんだ』
土は急いで空洞を作り直した。完全な状態に戻るまで一年かかった。やっとの事で戻った空洞は再び考えた。
『しかし、空洞が我が本質ならば、それを満たすものはなんだろうか?私は空洞を土で満たしてみたが、むしろ悪くなった。元に戻ったが、やはりあの虚しい苦しさは変わらない』
そこで空洞は外に目を向けてみた。空に浮かぶ太陽を見上げれば、視界を遮る鳥を見た。
地に茂る野草を見れば、その葉に付く虫を見た。
『いったいなんなんだろう、なんなんだろう』
何年もして、空洞は気付いた。『この地にあるもの、天にあるもので、目に見えるものは我が空洞を満たす事ができない。そこで、私は風を入れて見る事にしよう。それは目には見えないが、確かに存在するからだ』
そうしてみると、それで空洞が満たされることはなかったが、いつも空洞を支配していた虚しさが消えた。
『風は凄いなあ。あの厄介な虚しさが消えてなくなったぞ。残るは、この胸の苦しさだ。どうすればいいのだろう、どうすればいいのだろう』空洞は考え続けたが、とうとうわからなかった。しかし、わかったことはあった。空洞は風を入れて、この空洞に意味があることがわかった。しかし、その意味を発揮する場が、現状ないということだ。これが苦しみを生んでいるのではないか、と空洞は睨んだ。
『風邪を入れて虚しさが消えたということは、私は、生の意味を見出せたということだ。生の意味を見出せた今、それを発揮するべく生き続けることこそが私の使命なのだ。そうすれば、いつかこの空洞をうまく使ってくれるものが現れるに違いない』
そう思って、空洞は長い間ずっと何かを待ち続けた。待っている間、風が暴れて、空洞の形も少しずつ変わっていき、大きな山になった。
ある時人間がやってきて、空洞の中に入った。いくつかの人間が入ってきて、立派な洞窟となった空洞の中を調べるのだった。彼ら人間が調べ終わると、その中の一人がこう言った。
「素晴らしい。ここは金銀宝石の山だ。金、銀、ルビー、サファイア、エメラルド、それぞれの原石。こんな山は見た事がない」
それを聞いて、ようやく空洞は満たされたのだった。

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