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「川のほとり」の情景が驚くほどはっきり見えた〜新潮2月号より


 筒井康隆さんが、亡くなった息子のことを書いた短編が新潮に載っていると、何かで読んだ。一人息子を病気で亡くされたことは知らなかったが、とても読みたくなった。一人息子の母だからか、川のほとりでわたしも亡くなった人に会ったことがあるからなのか。

 夢の話だ。本人もこれが夢だとわかっている。大きな川の手前に息子が立っている。生ている時のように話をすることができる。彼は親である書き手をいまだに心配している。相変わらず優しいその顔つきと言葉がけに、書き手は泣きそうになってしまう。言いたいことはたくさんあるのに、何を伝えたらいいかわからない。夢だからそう長くは話せない。

「夢に出てくる亡き人は、何か伝えたいことがあるのだろうか?」

わたしはそのことが長年気になっていた。亡くなった幼なじみの女の子がたまに出てくる。まだ30歳手前で、乳がんで死んだ。夢では生ている時のように、一緒に遊んだりする。それなのに一度も声を聞いたことがない。声を出してはいけない決まりが、死者にはあるのだろうか。

川のほとりにいたこともあった。この短編をどうしても読みたかったのはそのせいだ。ここに答えがあるかもしれない、何か共通の体験が書いてあるかもしれないと。

 亡くなった人に会いたいという思いは、いつまでも消えることはない。一方で、会いたいけど会えないという状態に少しずつ順応していけることも、生きていることの何よりの証かもしれない。

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