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両手に覇王を宿す女

「あんたの両手、覇王がいるよ」

魔女は驚き叫び出す

手を返して、見やすいようにひらくと
両手首を掴まれて驚いたように
マジマジと手相を見られた

先生、
覇王とは三国志でしょうか

それとも、
覇王色のことでしょうか(ワンピース)


勇者を目指すわたしにとって
覇王が宿る両手なんて
大変喜ばしいお言葉ですが
いったい何なんでしょうかと

ポカンとするしかなかった


「覇王線って、最強の手相だよ」

わたしより人生経験豊富そうな
魔女のように美しい占い師さんに
真剣なまなざしで告げられた


あまりの言葉に
つい苦笑いになってしまう



わたしは両手に覇王を宿す女
両手のひらに最強の手相を持つ

あやとりで作ったほうきのような
にわとりの足跡のような

中心に真っすぐ伸びる運命線に
2本の線がくっつくようにして
三角の形を作る線

これが覇王線らしい

珍しい手相とは言え、1000人に1人程度だそう
身近な方も持っている手相かもしれない


特に右手の覇王線は
今までの相当な努力が現れたものだと
先生はおっしゃる

まだ、何もわたしの話はしていない

根拠が定かではない「手相」の形から判断され
わたしの生きてきた軌跡をほめてもらえている


根拠がないからこそ
”それは定められていた運命である” と
諭され、納得させられ、許され
慈しみで満たされていく

そんな癒しを求めて
わたしは占い師さんの元を訪れるの



占い師さんは好き

ゲームの仮想世界でも
ときに励まし、ときに進むべき道を照らし
勇者を導く重要な役割を果たすのは
いつも占い師である

四柱推命、手相、タロット、紫微斗数、占星術等
それぞれの分野に強い占い師さんの元を巡り
占いの基本を知ることができた


占い師の先生方から
いただく助言はいつも決まっている

それは


「あなたを支えられる男はこの世にいない」


である


何もまだ喋っていないのに
みなさんの第一声がこれであるから
思わず真実なんじゃないかと
信じ込んでしまいそうになる

両手に覇王を宿す女であっても
たった一人の愛情をこの手中におさめ
独り占めして生きていくことが
叶わぬ夢だとするのならば

覇王なんかなんの意味も持たない

いや、むしろ

覇王がいるせいで
守られる必要がないほどに
わたしは強すぎるのかもしれない


恋愛に依存傾向がありそうだと
見抜いた女性に対しては
このような助言をしてくださるものかしら

兎にも角にも

わたしが人生かけて
追い求めている「幸せ」は
この世にはないということを
しっかり理解して歩きなさいと

口をそろえて何度も諭される

自分の生きてきた道を
思う存分聞いてもらって
笑ったり、泣いたり、驚いたり

近い未来のお導きもいただける

根拠はない、だけれども
”それは定められている運命である”と
未来を語ってくださるのならば

その助言はわたしを動かすための
根拠のない猛烈なパワーとなっていくの


次に訪れるときは
覇王が消えているといいな

そうつぶやいたら
先生は優しく微笑んでくれた


ひとりで生きていく必要はない
ちょっとつまづきそうになった時に
杖のように支えてくれる男性を
あなたなら見つけられるから

そう、みなさん言ってくださる

「そういう」生き方もあるんだって
ちょっと安心したの


「ただし、複数人ね」

「え、複数人? 」

「だって、あんたここ天姚入ってるもの」

「今度は桃ですか? 」


天姚星てんようせいエロスの星ですって


そういえば、
四柱推命で有名な男性の占い師さんにも
同じようなことを言われていた

「そういう」生き方を否定するつもりはないと
はっきりと、瞳を見つめてきた

時間になり、鑑定料をおさめて
お礼を言って席を立つ


雑居ビルが立ち並ぶ間の狭い階段を上がった2階
独特な香りとピリッと圧迫された空気感のある
小さな鑑定室だった


狭い出入り口の扉のガラスには
人影がうっすらと映っている

慌ててスリッパから
ヒールの高いブーツに履き替えようとして
バランスが取れず軽くふらついてしまった

すると
占い師さんがさっと
わたしの腕をつかんでくれた

有り難く支えていただきながら
履き替え終わると視線が交わった

瞳の奥をのぞき込む

支えてくれる男性のうちの一人は
もしかして、あなたなの?


微笑んでお礼を言ってドアを開ける
やはり、次の方が並んで待っていた

軽く会釈をして、古びた鉄階段を
ヒールでカンカン鳴らしながら降りていく



うん、やっぱり

アバターからじゃないと
わたし恋愛できそうにない



覇王の幸せは遠い




「両手に覇王を宿す女」



~END


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恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪