宅録・・・その飽くなき自己満足のために

 はじめに断っておかなければならないのは、筆者はどちらかといえば宅録否定派である。もちろん自宅に録音ブースがあって、防音も吸音も完璧なのであればそれは問題ないのだけど、ほとんどの宅録環境が「居間」だと思うので、だったらちゃんとスタジオで録ろうよ、というスタンスだ。

 それでも宅録をしなければならない場面は多くあると思うので、ひとまず宅録は最終手段という点をご理解いただきつつ、本稿を読み進めていただきたい。


マイクの選択

 宅録で最も重要と思われていながら、実はそうでもないのがマイクである。なぜなら、録音ブース外でつかうマイクはそもそもマイク本来の能力は発揮できないので、「何を使っても一概に音が汚い」という結果になる。
 たとえば、普段録音している場所で耳を澄ませてみてほしい。すると、実にいろんな音が聞こえてくるはずである。この、「今聞こえている音」は当然マイクにも届いているのでこの音すべてが録音されてしまう。「いや録音した音を聞いてもそんなに聞こえない」と思っている人は、人間の耳の特性を理解していない。つまり、人間の耳には

・小さな音は大きな音にかき消される(ように聞こえる)
・小さな音の後に大きな音がくるときは、小さな音が聞こえない(ことにされる)

という特性があるので、自分の声に集中しているときほど、小さく入ったその他の音が聞こえなくなる。しかしながら、マイクのダイアフラムに届いた音波はすべて記録されるのが「録音」である。余談だがこの「聞こえないことになる」を音声処理に実装したものを「心理演算」と呼ぶが、これを大々的に投入して「驚異の音声圧縮率!」を謳ったコーデックATRAC3(MDの音声記録方式)は、「音が悪い!」と最悪の評価を受けていた。閑話休題。

 というわけで、マイクは正直なんでもいい。ただ、それだと埒が明かないので選ぶとしたら次に上げるマイクは割と宅録に向いていると言える。

・SHURE SM57
 ご存知楽器用マイク。しかし、専用のウインドスクリーンをかぶせることでボーカル用途にも利用可能。楽器用なだけあって、高域の伸びがSM58よりも良い。反面吹かれにめっぽう弱いので、ウインドスクリーンの他にポップガードもあったほうがいいだろう。
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・AudioTechnica AE6100
 今期(2020年4月)放映中のアニメ「波よ聞いてくれ」でスタジオ内に設置されているマイクと同じもの(と思われる)。実際にFM放送局でも利用実績があるもので、音に変な味付けがないマイク。ハイパーカーディオイド特性で、若干ONめで使うとGOOD。
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・Sennheiser E945
 大きな音で入力されると中域(人間の声のあたり)がぐっと前に出て聞こえてくる印象がある不思議なマイク。もちろんナレーション用途であれば低域~高域まで非常に素直に反応する。ただ、マイクのスイートスポットがやや狭いので、録音のときに動くくせのある人にはおすすめできない。
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 コンデンサマイクがない、という意見も聞こえてくるものの、そもそも宅録でコンデンサマイクとか使っちゃダメ


オーディオインターフェース

 マイクからの音をパソコンに入力するためには「オーディオインターフェース」が必要。宅録界ではたまにブームみたいなのが来て、一時期はみーんなRolandのTriCaptureを使っていたことがあった。有り体にいうなら「あんなのよく使うなあ・・・」という印象であった。可能であればASIOに対応したものを選ぶべきだけど、ASIOはべつに「音を良くするためのドライバ」ではなく「遅延を一定にするためのドライバ」なので、必須ではない。まあ、遅延が一定なほうが結果として音は良くなるので、そこはお財布と相談。

 また、たまに「コンプ」とかついているものを見かけるものの。あれは絶対に使っちゃダメ。「おまけ」は所詮「おまけ」なので、マイクコンプを使いたいならちゃんとマイクコンプを買うべき。また入力数が1本でも、宅録なら十分なので、無理して2chとか8ch入力は買わなくても大丈夫。

・MOTU M2
 スタジオ用オーディオインターフェースの雄「MOTU」が投入して来た小型IF。正面にレベルメーターが搭載されていて、使い勝手もバツグン。スタジオの操作性を宅録でも楽しめる実用性重視のインターフェース。
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/269730/

・FOCUSRITE Scarlett Solo、2i2
 こちらもスタジオでは定番だったFOCUSRITEの個人向けプロダクト。Ableton Live LiteとProTools Firstが同梱されていて、開梱したらすぐにDAW環境が整うのもおすすめポイント。2020年5月30日現在、在庫切れ多数。
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・ESI U22XT
 実は筆者が最も長く使っているメーカーはESIだったりする。一時期日本から撤退していたが、最近また戻ってきた。ESIのオリジナルドライバDirect Wireがちょっとややこしいかもしれないが、慣れるとこれほど便利なドライバはなく(ASIOやWDM等、複数のオーディオドライバ間でのI/Oを一元管理できる)、ちょっと他のインターフェースは使えなくなる。有り体に言えば変態
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なお「どれも高い!」とお嘆きの方は、とりあえずBehringerのUM2 U-PHORIAでも使っておくと良いとおもうよ。5千円台なわりにそこそこ使えるから。いやこの価格でこれなら十分だとおもう、ウチにもあるし使ってるしね。

ソフトウェア

 殆どの宅録派がAudacityで満足している現状は即刻否定されるべきだと常々思っている。たしかに無料だし軽いしマルチトラック編集できるしいちおうVST使えるしと、文句なさそうに見えるものの、VSTの実装方法がやや間違っており、エフェクトを掛ける際、リアルタイムで確認ができない。つまり、パラメータを変更→適用→試聴→やり直しを延々と繰り返さなければならない。EQのプリセットは便利(電話の音とか一発でかかるし)だけど、やっぱりAudaはAudaだったりする。

 また、録音・再生の精度の問題もあり、そもそもASIOに対応していないAudacityは、とくに歌ものなどの他のトラックと同期しなければならない録音や再生に非常に向いていない。やはるここはキチンとしたDAWを使うべきである。

・AVID ProTools
 泣く子も黙るProTools。国内の「ほぼすべての」録音スタジオで導入されているといっても過言ではない。ただし、高機能な反面自由度が高すぎてProTools初心者は「何から始めればいいかわからない」状態に陥りやすく、敷居が高く感じられる一面もある。最初の敷居さえ乗り越えてしまえばなんてことはない、ただの高機能なDAWだったりする。ただ、およそ7万円と価格もそれなり。あとProTools|Firstとは別物。
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・Steinberg Cubase Elements
 ProToolsと並んで双璧をなすのがCubase。多くのオーディオインターフェースにバンドルされているので、最初に触ったDAWがCubaseという人も多いと思う。オーディオ「編集」は多分Cubaseの方がProToolsより楽だけど、録音そのものはProToolsに分がある感じ。音楽制作者向けの部分が強い。そしてElementsはその「基本部分」だけを抜き出した初級者向け製品。
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・PreSonus Studio One
 PreSonusが販売しているDAWで、Cubaseにかなり似ている。おまけに無料版もある。どうしてもお金をかけたくないとか、Audacityを使い続ける理由が「無料だから」なのであれば、まずはStudio Oneに乗り換えるのもあり。残念ながらVSTプラグインは無料版では使えないものの、必要なプラグインは概ね揃っているので、お手軽に導入できる。1ライセンスで5台のPCにインストールできるのもポイント。サイトですぐ購入または無料版をDLできるのもポイント。
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モニター環境

 ヘッドホンやスピーカー等、録音された音を確認する正確な音が再生できる環境が重要。たぶんマイクよりも重要。ちなみにヘッドホンで確認するよりも、スピーカーで音を出して確認するほうがより「リスナの環境にちかい」レベルでのチェックができる。もちろん「リスナもヘッドホンで聞くでしょ」というのはあるのだけど、そもそもヘッドホンで聞いてしまうと「音が聞こえすぎてしまう問題」があるので、ノイズ処理など以外で、雰囲気を確認する場合はスピーカーを推奨する。

・SONY MDR-CD900ST
 定番のスタジオモニターヘッドホン。はっきり言えば「音がいい」わけではない。正確な音を聞くためのモニターなので、長時間こいつの音を聞いていると非常に疲れる。それだけ周波数特性も解像度も申し分ない、いってみれば「遊びの部分が殆どない」ヘッドホン。ただし、プロの現場はほとんどこれでモニターされるので、これで音を合わせれば「間違い」は起こりにくい。
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・ASHIDAVOX ST-12
 ボーカル域にピークがくる声用のヘッドホン。結構締め付けがきつい上に、このヘッドホンすると外の音がほとんど聞こえなくなるので、まさに「チェック用」のモニターヘッドホン。間違ってもこれで音楽を聞こうとか考えたらダメ。あくまで「声の録音・再生用」に特化した製品。声を扱う「だけ」であれば、このヘッドホンで間違いなし。
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・YAMAHA HS5
 スタジオモニター(スピーカー)の定番。もちろん再生される音も非常に精細で癖のない表現が持ち味。45Wと音量も家庭利用であればかなり大きな音が出せる。同じくYAMAHAのMSP3も、小型なわりに「ちゃんとした音」が出るのでおすすめ。
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・FOSTEX 0.4c
 FOSTEXのやや小さいスタジオモニター。大きさの割に低域もしっかり出るので、デスクサイドスピーカーには最適。低域がやや強調されている印象があり、リスニング用スピーカーに近いかも。
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その他

 ここまでで一応録音できる環境は揃ったことになるが、もうひと手間かけてより録り音を改善していくなら、次のようなものもあるといい。

・リフレクションフィルター
 マイクの周りをぐるっと囲んで音の反響をなくすための衝立。ボーカルマイク等の長いマイクで使えるものは数が少ないものの、あるとないとでは格段に録り音が変わる。使ってみるとどれだけ周りの音を拾っていたかが割と実感できる。

・ノイズ処理ソフト
 Adobe AuditionとかiZotope RX等のノイズ除去機能を持つソフトがあると、ある程度の雑音が消去できる。ただし、これらのソフトを使うと当たり前だが録音された自分の声も変わってしまうので、本来こういったソフトは使わなくてもいいレベルでの録音が要求される。というかノイズ除去ありきの録音は考えを改めるべし


 いかがでしたか?(笑)
 
 ここに書いたのはほんの一例であって、もちろん読者なりに「この環境がいい」というものもあるだろう。それを突き詰めていくのも宅録道の楽しみ方ではある。ただ、できれば録音は無響室・防音室で実施していただきたい。安いマイクでもはっとさせる音が録れるはずである。

 本編はここまで。もしよろしければおひねりをお願いしますm(__)m

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