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2人の時間、広がる世界~にいち『現実もたまには嘘をつく』を読んで~

 こんな青春、送りたかった・・・

 にいちさんのマンガを読むたび、そう思います。「pixiv」というウェブサイトで公開されている『現実(リアル)もたまには嘘をつく』もその1つです(にいち - pixiv)。
 ネットゲームを通じて知り合った寺﨑薫と逢坂七海がリアルで会ったことをきっかけに、ともに時間を過ごすようになります。
 いくつかの出来事を経て、2人の関係はゲーム友だちから特別な(あまり深い意味はありませんが)ものになっていきます。
 ただ、どちらもいささか不器用なのか素直になれない時もあります。このマンガを読んで、ラブコメでしばしば使われる「むずキュン」や「じれキュン」の意味をようやく理解できたような気がします。

 七海には友人関係に悩んで、不登校になってしまった過去があります。「世界に自分ひとりなんじゃないか」(本編105話より)という不安に駆られていたとき、ネット上で出会ったのが薫です。引きこもっている間も七海が心を保っていられたのは、彼との時間があったからだと思います。
 その後、七海は薫の通う高校に編入することになります。外の世界に向けて一歩を踏み出す姿にこちらも励まされました。

 七海の復学を後押しした件も含めてここぞと言う場面でイケメンぶりを発揮する薫くんですが、彼もまた幼少期に母親を亡くすという辛い経験をしていました。本人はあまり表に出していないようですが、母との思い出を話す時の表情はどこか寂しそうです。
 父親が仕事で海外に出張中のため、毎日1人で食事をとる薫に何かしてあげたいと思った七海は、料理を教えてほしいと母に頼みます(本編92話より)。友だちのために行動を起こす彼女の成長を感じられるエピソードの1つでもあります。

 本作のストーリーは、2人の関係を軸に進行していきますが、その友人や家族にも焦点が当てられています。中でも七海のお母さん、祥子さんが登場する回は印象深いものが多いです。
 七海が再び学校に通うことになったとき、次のような言葉を贈ります。

「Life is like a cup of tea. It's all in how you make it.」(人生は一杯の紅茶のようなもの。つまり、あなたがどう淹れるか次第。)
どんな風に生きたとしても思い通りにならないことはあるものよ
だからまずは自分が本当にしたいことを一つ決めてそれを叶えるために他のことをどうするか考えるの

本編68話より

 編入先での新たな学校生活に期待と不安を抱く娘の背中をそっと押すような台詞にグッときました。
 それから、七海は薫だけでなくクラスメイトとも交流を深めていきます。

寧々ちゃん:学級委員長兼新聞部員。おっとりとした言動だが、時にハッとさせられるような台詞をいう。
むいちゃん:茶道部員。関西弁を話す。
りっちゃん:料理研究会所属。ギャルっぽい見た目だが、乙女な一面もある。

本編を元に作成


 どの子も転校生の彼女を温かく迎えます。七海は本当にいい友だちに恵まれてよかったと胸をなで下ろしました。同時に学校が七海にとって「楽に息をできる場所」(本編69話における祥子さんの台詞)になりつつあることを再確認しました。

 学校行事など様々なイベントを経て、七海と薫の関係がこの先、どう変化していくのか。今後も見守っていくつもりです。


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「現実もたまには嘘をつく2」 にいち[コミックエッセイ(その他)] - KADOKAWA



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