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「小松成美とSDGsを知る、学ぶ」

〜ノンフィクション作家・小松成美がSDGsを取材する理由〜

2015年9月、国連サミットでSDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」が加盟国(193ヶ国)の全会一致で採択されました。持続可能な世界を実現するための17のゴールとそこに紐付く169のターゲット。この国際目標の実現に向けて、2030年を年限に、発展途上国のみならず、先進国も含めたすべての国において、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会づくりに向けて積極的な活動が行われています。
SDGsで重要なのは「持続可能な開発目標」それぞれがゴールを迎える、というところです。ゴール(Goals:ゴールズ)こそが重要で、理念を謳うばかりの活動ではならない、という国連の強い意志を感じます。

私はこれまでに、SDGsとそれに取り組む方たちを数々取材してきました。その中で得た事のひとつが、SDGsの目標とターゲットに向き合い触れることで、自分の考え方や立場が明確になり、誤解していたことや気付けなかった狭い思考も認識できるようになる、ということです。私自身、そうしてSDGsを自分の中に取り込んでいきました。そのきっかけを与えてくれたのが、今から約10年前に、出版社から『虹色のチョーク』(幻冬舎刊)の執筆依頼を受け取材に訪れた企業「日本理化学工業株式会社(以下、日本理化学工業)」との出会いです。まだ、SDGsという言葉もありませんでした。

日本理化学工業は、昭和12年創業のチョーク製造会社で、社員の7割が障がい者です。現在日本のシェアの7割を占めるチョークの製造工程は、全て知的障がい者の方々が担っています。当時の経営者・大山泰弘さんは、「誰にでも働く幸せはある」という信念のもと、障がい者の方でも助力なしに能力を発揮できる働き方や製造工程を自社工場に構築し、障がいのある方々にチョーク作りを任せ、優れた製造者として育て上げながら、企業を成長させていきました。
取材前の私は、知的障がい者の方の就労には、健常者の方のサポートが必要不可欠で、簡単な作業を繰り返しているというイメージがあり、知的障がいのある方々は、手厚い福祉で守られるべきだと思い込んでいました。しかし取材を進めるうちに分かったことは、健常者、障がい者という意識の壁を取り払うことこそが大切だということです。そうすれば、差別や区別もなくなります。重要なのは、自分の障害を意識することなく働ける環境を作ることであり、その場所さえがあれば、彼らは納税者になれるのです。

日本理化学工業の取り組みは、SDGsのいくつもの目標に当てはまるのですが、特に「8.働きがいも経済成長も(すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク【働きがいのある人間らしい仕事】を推進する)」や、「10.人や国の不平等をなくそう(国内および国家間の格差を是正する)」の項目にぴったりです。

取材の中で、この企業が昭和30年代から既に知的障がい者の女性を2人雇用するなど、まだ知的障がい者の正社員雇用など前例のない時代からSDGsを実践してきたことに気付き、それまで、本を読むなどして情報を得ていたSDGsが、教科書の中のものではなく、とても身近な目標であると知りました。同時に、私にとっての大切なテーマになったのです。

『虹色のチョーク』を執筆して以来、私の中の障害とか平等の価値観や概念がすっかり変わりました。豊かな日本に住む私たちにも、過去から刷り込まれた意識があって、ものすごく狭い価値観で考えているのではないかという気がしています。
日本理化学工業のように、人が平等であること、誰もが手を携えて働き暮らすことが当たり前であることを実践している企業の存在を世界に伝えていくことも、作家である私の役目だと思っています。


〜SDGsの実現に必要なのは、テクノロジーと経済活動〜

ボランティアの活動には、限界があります。東日本大震災や熊本地震の時は、ボランティアとして現地に入り、募金もしましたが、自分の生活レベル以上のことができませんし、何より継続が難しい。活動を継続するためには、そこに正しい循環が生まれることが理想です。被災した地域や市民のために参画した企業がきちんとした利益を得られれば、未来に繫がる事業になります。これはSDGsの活動にも言えることです。個人のボランティアでは限界があることも、会社ならば資本もあるし、収益を得るために長期的なスキームで取り組むことができる。頓挫せず目標を最後まで達成させるためにも、事業として取り組むことに意味があるのです。ボランティア=単発的、続かない、のギャップを様々なテクノロジーが埋められるとしたら、企業にとってもSDGsは好機となります。

私は、テクノロジーがSDGsを実現するための重要な要素だと常々思っており、17の目標に付帯する169のターゲットを丁寧に読んでいくと、科学技術が世界へ公平に行き届けば、解決のゴールを迎えられるのにと思う項目がいくつもあります。
例えば、「4.質の高い教育をみんなに(すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する)」の6番目に<2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする。>というものがあります。あらゆる国の人々が、自分のタブレットを持ち、インターネットという地球規模のネットワークを駆使してオンライン教育が受けられれば、飛躍的なスピードで目標に近づくことができます。
また、「6.安全な水とトイレを世界中に(すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)の1番目には<2030年までに、全ての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する。>があり、世界をリードする日本の浄水技術が、大きく貢献するに違いありません。
日本のような生活環境、インフラを持ち得た国は、もちろんそれを提供する国になるべきです。日本のテクノロジーで助けられる人や命が多くあることを、取材を通じて実感しています。


〜身近な問題から、一人ひとりがSDGsを考える重要性〜

以前の私は、人類の理想を語ることに気恥ずかしさや小さな罪悪感がありました。自分の力は小さく、そこに尽力できるはずもないと、下を向く自分がいたからです。しかし、SDGsのターゲットを繰り返し読んでいると、「ささやかでも自分にもできることがある」と考えられるようになりました。さらに、それを小さな行動に移すことで、思いを共にする人たちと出会うことができました。すべては心から始まるものだと、改めて実感しています。

世界に脅威をもたらした新型コロナウイルス感染拡大は、様々な問題を浮き彫りにしました。中でも私が衝撃を受けたのは、この飽食の日本にあって、飢えに苦しむ子どもたちが多数いたことです。コロナ禍に各地の社会活動として報道された「子ども食堂」。満足な食事をとれないという状況が、ここまで広くあったことを正しく理解していませんでした。子どもでも、大人でも、どのような生活環境にあっても、差異なく十分な食事を取れる社会でなければならない。SDGsの1番目と2番目にあげられている「1.貧困をなくそう(あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ)」「2.飢餓をゼロ(飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する)」からは、自分のこととして目を背けてはならないと考えました。
日本では、膨大な量の食べ物がスーパーやレストラン、家庭からも捨てられています。このフードロスの構図をどうすれば改善できるのか、スーパーマーケット業界や外食産業の方々は叡智を結集して取り組んでいます。そうした取材も、新型コロナウイルス感染という機会があって開始しました。

学校でもSDGsの教育に取り組むところが増えてきています。しかしまだSDGsの理解として、プラスチックごみの削減とか、二酸化炭素の排出量を減らそうとか、環境汚染、地球温暖化などの話で帰結している部分があります。その理解は正しいけれど、身近なところにまだ多くの問題があることを次世代を生きていく人たちに伝え、ひとりひとりの意識をもっとSDGsに向けていくことも大切だと思います。

SDGsは全て人間が生み出した問題で、すべては繫がっています。脱炭素社会は、気候変動を抑えるためにだけ目指すのではなく、地球本来の姿への回帰の一歩でしょう。ジェンダー(歴史的、文化的、社会的に形成された男女の性差)の平等は、成熟した社会だからこそ実現できる価値観であり、機が熟したと感じられます。大仰に目的・目標を掲げるだけでなく、自分にできることは何なのかと、静かに向き合うことが大切なのではないでしょうか。
誰もが、ニュースを見たり、新聞や本を読んだりして、世界ではこんな悲惨なことが起きているのだと考え、子どもや女性や高齢者、医療従事者のためにできることはないかと思いを巡らせるはずです。心に留め置かれたもの、関心を持てるものからテーマを探し、行動に移す。そのためには、他者に尽力できるコミュニティ・システムを作っていくことも大切です。


〜最後に〜

SDGsは2030年を年限としてゴールが示されていますが、到底全ての目標をクリアできるとは思えませんし、そこで終わらせていい問題ではありません。大切なことは、世界の企業や人々が100年後の未来を思い、自分たちに何ができるのかを考え、SDGsの目標やターゲット達成に向けた行動を当たり前のこととして継続していくことではないでしょうか。

私自身は作家なので、そこにある事象だけでなく、その背後にある“ストーリー”を伝えていきたいと思っています。私自身も本を読んで様々なことを学びました。人が、最も人に心を寄せられる瞬間は、胸を打つストーリーに触れた時だと思うのです。人々が織り成すストーリーを伝えることで、読者となる市民の方たちのSDGsに対する理解も深まるでしょう。
日本に住んでいると、平和な日々が当たり前のように思いがちですが、世界の各地には未だに紛争地帯があって、民族の対立やジェノサイド(種族、民族の集団殺戮)が起きている現実もある。自分の人生を懸命に歩みながら、そうした事を忘れることなく、どうしたら平和な社会を築けるだろう、安心して暮らせる環境をみんなが共有する方法はないのだろうかと、イマジネーションを広げて欲しい。それには、自分が知らないことを学ぶことが大切です。学校だけでは学べないことがあるのならば、それを本や講演にして届けたい。不可能という語彙に怯まない、想像力を持つ若い世代の手助けを、作家の使命としてこれからも行っていきたいと思います。

■小松成美プロフィール

小松 成美(こまつ なるみ)/(株)SDGs technology アドバイザー

神奈川県横浜市生まれ。広告代理店、放送局勤務などを経たのち、作家に転身。
生涯を賭けて情熱を注ぐ「使命ある仕事」と信じ、1990年より本格的な執筆活動を開始する。
主な作品に、『アストリット・キルヒヘア ビートルズが愛した女』『中田語録』『中田英寿 鼓動』『中田英寿 誇り』『イチロー・オン・イチロー』『和を継ぐものたち』『トップアスリート』『勘三郎、荒ぶる』『YOSHIKI/佳樹』『横綱白鵬 試練の山を越えてはるかなる頂へ』『全身女優 森光子』『仁左衛門恋し』『熱狂宣言』『五郎丸日記』『それってキセキ GReeeeNの物語』『虹色のチョーク』『M 愛すべき人がいて』などがある。
現在、執筆活動をはじめ、テレビ番組でのコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。近年は、SDGsを多様な角度から見つめ、その取材に心血を注いでいる。

~お知らせ~

NOTEサークルにて『小松成美とSDGsを知る・学ぶ』プランを開設致しました。

小松成美さんと一緒に知って、学んで意見を交換し交流できる場を構築し、みんなのずっとハッピーを考えていきましょう!

・企業にお勤めの方でどのようにSDGsを推進すれば良いか悩む方
・SDGs事業推進のススメ方に悩む起業家
・SDGs関連商材を取り扱っている企業様
などなど、SDGsに関心のある方のご参加お待ちしております!!


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