マガジンのカバー画像

佐分利史子の写字室

10
カリグラファ佐分利史子の作品を発表する小部屋。
運営しているクリエイター

記事一覧

スクリプトリウムvol.3|佐分利史子《3》|青色のリンドウとウイリアム・ロセッティの言葉

Text|佐分利史子  今の季節どこのお花屋さんに寄っても目に留まり、美しく見えたリンドウ。ただただ素直に描いて、好きなカリグラフィを添え、何のひねりもなくまっすぐな一枚にしたいなと思いました。  花びらの渦巻き、渦巻きの向き、時間を追って膨らみ綻んでくる蕾の形、大きな葉と小さな葉、花の周りにたくさんある小さな葉の付き方、一枚一枚の葉の模様、お花と葉のかたまり具合、葉と茎の繋がり、茎の太さ、一本の茎に階層のように「花と葉のかたまり」がついていること・・・植物の形には不

スクリプトリウムvol.3|佐分利史子《1》|丘へ

Text維月 楓  ヴァージニア・ウルフが1928年に書き上げた『オーランドー』。男性から女性へと変身し何百年の時を生きぬいた主人公の物語は、ウルフの先見性に驚かされる魅力に満ちた小説です。  今回の企画展では、オーランドーの少年時代がカリグラフィ作品となりました。果敢で早熟ながら少し不器用な少年が、「孤独」という人生の宿命を初めて味わった姿が瑞々しく描かれた一場面です。  まず目を引くのは、うねるような文字の流れと色の移り変わりでしょう。「ぼくはひとりきりだ」と呟

スクリプトリウムvol.3|佐分利史子《2》|GOLDEN GLORIES

Text|佐分利史子  キンポウゲ、マリーゴールド、デイジー、スイセン、ハリエニシダ、キバナノクリンザクラ・・・黄色の草花がたくさん登場するクリスティーナ・ロセッティの詩「GOLDEN GLORIES」を描きました。  書体は Compressed English Minuscules、イギリス版の圧縮された小文字、の名の通り詰めて書くことで美しさがあらわれる字だと思います。  書いていて楽しい書体で、繰り返し登場する ”golden” の連なりや p、e などのま

佐分利史子《2》|Good-night, Mister Sherlock Holmes.

Text|Fumiko Saburi  「ボヘミアの醜聞」が冒頭だけでは不完全燃焼感が大きかったので、2点目も同じ「ボヘミアの醜聞」より、クライマックスシーンの置き手紙・最後の部分を選びました。  一国の王と名探偵を相手にこの言葉を言えるのはかっこいいですね。  「私は彼より素晴らしい男性と愛し愛されることとなりました。」  置き土産も素敵です。  この聡明なアイリーン・アドラーさんの言葉を書く書体は、迷わずイタリック体のキリッとしたアレンジです。  個人的にイギリス

佐分利史子《1》|ボヘミアの醜聞 page1

TextKaede Itsuki  緑が燃え立つ季節、シャーロック・ホームズシリーズの中でも特別な一作「ボヘミアの醜聞」をお届けいたします。ホームズを打ち負かした唯一の女性アイリーン・アドラーが活躍する本短編の冒頭が、原文の美しさを写し取ったカリグラフィ作品となりました。  ホームズ氏にとって特別な「あの女性(ひと)」が登場する素敵なお話の冒頭です。これから何が起こるのかなあと思いながら読み進む感覚を、一枚の紙に乗せるにはどうしよう。
   色々書いてみて、書体はロー

佐分利史子|死の虹〜Ⅲ.菫色

TextFumiko Saburi  題材にする文章作品は基本的に全文を描きたい考えですが、今回の「死の虹」は3節に分かれてかなりの文字量があるため、いちばん強く心を惹かれる 3.菫色 を選んで、その全文を描くことにしました。  書きたいなあと思いつつ、華やかになりづらい気がしてなかなか作品にできなかった、カロリンジャンと呼ばれる書体(私なりに少しアレンジ)。  訥々と文字を並べることでできる模様のような美しさを大切に、大文字も小文字となじむ小さめのサイズで、全体的に

佐分利史子|愛情の森

TextKIRI to RIBBON  スクリプトリウムには、モーヴ街3番地の図書館《モーヴ・アブサン・ブック・クラブ》に通じる秘密の扉があるとの噂——  英米仏文学を研究する二人の司書が選ぶモーヴ的、アブサン的一篇をカリグラフィ作品に仕上げることが写字室での主な活動ゆえ、アドベントの頃も夜な夜な扉が開かれていたに違いありません。  モーヴ街図書館司書・嶋田青磁さまが聖夜に向けて選んだのは、アブサン色の夜の中を歩く二人の青年のひそやかなソネット。歩くふたりの息遣いや鼓

佐分利史子|ライラックの海のうえ[1368]

TextKIRI to RIBBON  英仏文学を題材としたカリグラフィ作品を発表する7番地・スクリプトリウム内。本イベント《モーヴ街のクリスマス》では2点の新作をお届け致します。  最初にご紹介するのは、アメリカの詩人エミリー・ディキンソン「ライラックの海の上[1368]」。モーヴ街図書館司書・維月 楓さまによるエミリーの息遣いに寄り添う翻訳と共にどうぞお楽しみ下さい。 *  印象的な初行「ライラックの海の上」が最初の大文字「O」に写され、聖夜を迎えようとする今

佐分利史子・カリグラフィ作品|サアディの薔薇

 フランスの詩人マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの詩「サアディの薔薇」のカリグラフィ作品を新訳と共に馨しくお届け致します。 Les roses de Saâdi| Marceline Desbordes-Valmore サアディの薔薇 マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール|詩 嶋田青磁|訳 J'ai voulu ce matin te rapporter des roses ; Mais j'en avais tant pris dans mes ceintures

佐分利史子・カリグラフィ作品|気高きは、小さきもの、[55]

 ここはカリグラファ佐分利史子の写字室。主に英米文学とフランス文学を題材にして制作したカリグラフィ作品を展示する小部屋です。  モーヴ街3番地の図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」とも連携し、ふたりの司書が題材となる文学作品の新訳と解説などを担当。文字で遺されてきた過去の文学に敬愛を込めて、カリグラフィと新訳で新しい息吹きを注いだ一篇をどうぞゆっくりご高覧下さい。 佐分利史子 Fumiko Saburi | カリグラファ →HP 伝統的なカリグラフィ文字を基調とした作