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くるはらきみの画室

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自然の中で暮らしながら絵画や人形を制作するくるはらきみの小部屋。油彩を中心にちいさな祈りを込めた作品を発表します。
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#植物

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|ヒルデガルト—祈りの薬草園《1》

 湿気を含んだ土の香りが舞い上がり、草花と混じり合う夏の小径。しばらく歩いてゆくと、雲間から覗く光に照らされた門が、威厳をたたえながらも、温かい面持ちで迎えてくれる。  ヒルデガルトが修道院へと向かった小径、あるいは、ユッタとちいさな庵で暮らしながら日々歩いた小径には、どんな草花が咲き、樹木の葉が揺れ、風が香りを運んできたのだろうか——  遠き異国、遥けき中世に生きたヒルデガルトへ、繋がる糸を手繰り寄せながら編んだ祈りの薬草園の風景を、小箱に託して。  くるはらきみ様と霧

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 3

本記事はオンライン展覧会 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 3の配信記録です。*明日7/7最終日です Text霧とリボン  暑さが和らぎ、身体も少し楽になりましたが、猛暑や台風の心配はまだ続いています。皆様、引き続き、どうぞくれぐれもお気をつけてお過ごし下さいませ。  涼しい場所からお楽しみ頂ける本オンライン展覧会、くるはらきみ個展会期後半がスタートしました。DAY 3の本日、ご高覧下さいました皆様に深くお礼申し上げます。  今日のヒルデガルトの苑には、ひとき

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|かぐわしき草原の奇跡 

 植物学の祖ともいわれるヒルデガルトは、修道院の庭でどのように植物と対峙していたのでしょうか。今回は、自然の息吹を感じる土地で季節の花を愛でる、くるはらきみさまの暖かい眼差しを感じる3作をご紹介いたします。  集まった信者たちに炎の舌が降り、異国の言葉を話し始めたと伝えられるペンテコステ(聖霊降臨)。本作品では、炎に代わり色とりどりの花が降り注ぎます。  復活祭から50日、全ての生命を持ったものが目覚める季節。香気に満ちた大気のうねりを感じる淡い緑色のグラデーションが、天と

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|緑煌めくヒルデガルトの春

 緑豊かなラインラントの貴族の家に生まれたヒルデガルトは、8歳で修道院に預けられた。本共同企画展のメインヴィジュアル「少女ヒルデガルト~小さな羽の旅立ち」でくるはらきみが切り取ったのは、幼いながらも将来への一歩を踏み出す決意に満ちた少女の得も言われぬ表情だった。  ヒルデガルトが成長して立派な修道女となり、ドイツの厳しい冬を乗り越え、植物園での植物たちとの感動の場面を描いた「春の再会」。たおやかな立ち姿の彼女が手を差し伸べる相手は、明るい緑色のフェンネルの精。ヒルデガルトは

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|DAY 1

本記事はオンライン開催 くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》DAY 1の配信記録です。 Text霧とリボン  連日の猛暑から、暑さが和らいだ今日。緑の匂いを運んで窓を抜ける風の心地よさが身体の芯まで染み入りました。皆様、お変わりなくお過ごしでしょうか。  前期グループ展にて灯された美しい光を受け継ぐように、後期くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》が開幕しました。初日の本日、ヒルデガルトが棲まう菫色の聖所を逍遥して下さいました皆様に御礼申し上げます。  本展でも引き続き

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|植物に寄り添って

 植物に造詣の深いヒルデガルトに敬意を表すように、くるはらきみは様々な植物を用いてヒルデガルトの姿を描き出した。  少女ヒルデガルトは、先輩修道女のユッタに尊敬のまなざしを向けている。その瞳には、隠し切れない音楽への強い好奇心も浮かんでいるようだ。二人の姿は、修道服とあいまって、まわりに立ち並ぶ背の高いオダマキたちに溶け込んでいる。  上を見上げるヒルデガルトと、彼女をユッタと同じ目線で見下ろすオダマキのコントラストも微笑ましい。オダマキはオダマキで、彼女たちを見守っている

スクリプトリウムvol.3|くるはらきみ|心地よく秘密めいた庭

Text高柳カヨ子  修道院と植物の関係は深い。  修道院自体が庭から始まったと言われるほど、植物とは切っても切れない関係が存在する。そこは祈りの場であると同時に、自給自足のための食料を生産する菜園や薬品を製造する薬草園でもあったのだ。修道士は優秀な庭師でもあり、注意深く植物の声を聞きながら脈々とその知識を伝えてきた。  そしてその修道院の庭には薬草やハーブだけでなく、美しい花々も見事に咲き揃っていたことだろう。  緑多き長野の地で創作を続けるくるはらきみの作品には、