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映像脚本【恋してシェイクスピア】

こんにちは。脚本家のササキタツオです。

シェイクスピア好きの私が、その喜劇性に惚れこんで作劇した【オリジナル脚本】になります。
【女子高生の踊るような恋心】と【文学】の融合を目指しました!
皆さんに楽しんでいただけると嬉しいです。映像化目指しています。
よろしくお願いします。

尺の想定:1時間
映像脚本です。


登場人物

 
西野菜々子(16)(17)高校3年生。
吉井壮一郎(34)(35)大学の非常勤講師。
榊原綾(20)大学3年生。英文科。
東山憲武(50)英文科の教授。
水川知美(17)高校3年生。菜々子の親友。
西野典子(37)菜々子の母。
西野巧(37)菜々子の父。洋書店店主。
岡村文恵(55)菜々子の高校の古文の教師。
大学の職員

あらすじ(*結末まで書いてあります)

*時間の無い方は子のあらすじをお読みください。
*結末まで書いてあります。知りたくない方は、飛ばしてください。


洋書専門の古書店の娘・西野菜々子(17)はシェイクスピアの『十二夜』が好き。この本は菜々子の憧れの常連客・吉井壮一郎(30)の忘れ物。

菜々子はそれをずっと返さず持っていた。菜々子は壮一郎に恋の憧れを抱いていた。

高3の春の事。来店したが壮一郎が本を注文する。注文書から彼の《名前》と《大学の研究室名》を知り、菜々子は浮足立つ。  

菜々子は本を届けに大学へ行き、壮一郎に大学生だと嘘をついてゼミに参加する。

壮一郎のゼミで一緒になった榊原綾(20)にも新入生だと嘘をつく。

菜々子はこうして大学に潜入する日々を送る。次第に新入生の《嘘》設定にも磨きがかかっていく。

ゼミで綾と翻訳の論戦になる菜々子。壮一郎が間をとって翻訳を決める。その帰り、綾とお茶をする菜々子は綾も壮一郎が好きだということを知る。
研究室に質問に行く菜々子。感心する壮一郎。菜々子が『十二夜』の本を忘れていったので、壮一郎は学生科へ届ける。そこで壮一郎は菜々子が大学生でないことを知る。

翌日。正体がバレた菜々子は正直に話す。高校に行くよう釘を刺す壮一郎だったが、菜々子は反発し「先生の授業が受けたいんです!」と言って去る。

高校に行くが、結局授業を抜け出した菜々子は制服姿を綾に目撃される。

翌日。高校の職員室に呼び出される菜々子。大学へ潜りこんでいることが高校にバレていた。先生と大学へ謝罪に行くことに。教授らは菜々子の行動を許す。 

菜々子を追いかけてきた壮一郎。菜々子は緊張の糸がほどけて泣く。もう先生には会えない、と……。

後日。綾が古書店に訪ねてくる。菜々子の背中を押す綾。菜々子は決意する。そして大学へ走り、壮一郎に「先生のあとを追いかけます!」と宣言するのであった。
ーーー



《PDF》*本編のPDFになります。

本編 *脚本になります。(原稿用紙55枚)


○洋書店・外観

個人経営の趣深い洋書専門の古書店。

 

○同・店内

古風な店内。所狭しと並ぶ洋書たち。

西野菜々子(16)がレジで店番をしている。

  店内奥には吉井壮一郎(29)。

  本の背表紙を見て、表紙を見て、一礼して本を開く。

  その様子をじっと見つめる菜々子。

菜々子のN「本を開く時、あの人は決まって本に挨拶します。あの人の眼差しは、まるでずっと待っていた恋人を迎えるような、優しさで溢れているのです」

壮一郎が菜々子の方を見る。

  慌てて視線を逸らす菜々子。

レジに本を持ってやってくる壮一郎。

  取り繕うように会釈する菜々子。

壮一郎はレジ脇に古い紙のブックカバーのかかった本を置き、数冊の古書の会計をする。

  菜々子が古書をいれた袋を壮一郎に渡す。

菜々子「ありがとうございます」

壮一郎「ありがとう」

  壮一郎、去る。

  緊張を解く菜々子、深呼吸する。

ふとレジ脇を見ると、本の忘れ物だ。

  菜々子は慌てて本を持って店を出る。

 

○満開の桜並木

  菜々子が辺りを見回す。

  壮一郎の姿は見えない。

  菜々子は手にした本を開く。

  その本の中表紙に「ここに本当の恋がある」と走り書きがある。

  表紙を見るとシェイクスピアの『十二夜』の洋書である。

菜々子「十二夜……? ウィリアム・シェイクスピア……」

  本の匂いを嗅ぐ菜々子、空を見上げて深呼吸する。

 

○洋書店・店内

  戻って来る菜々子。

  壮一郎がレジの前にいる。

  菜々子は『十二夜』を思わず後ろに隠す。

壮一郎「あの。本を忘れていませんでしたか?」

菜々子「い、いえ!」

壮一郎「そうですか……」

  壮一郎、去る。

  菜々子、緊張を解く。深呼吸。

  後ろ手に持った『十二夜』の本。

 

○菜々子の家・菜々子の部屋(夜)

  『十二夜』の中表紙の走り書きの言葉を書き写す菜々子。ノートに「ここに本当の恋がある」と書いて満足にほほ笑む。

菜々子「本当の、恋……」

 

○洋書店・店内

  壮一郎の忘れ物の洋書の『十二夜』を、壮一郎の真似をして、本に挨拶してから読み始める菜々子。

  ページをめくっていく……。

菜々子のN「それから。私はこの本を何度も何度も読みました。返すチャンスは何度もあったはずなのに。私はあの人にこの本を返しませんでした」

 

○水色の空

  水色の空に桜の花びらが舞う。

菜々子のN「そうして一年が過ぎました」

 

〇メインタイトル

「恋してシェイクスピア」

 

○洋書店・外観

 

○同・店内

  普段着の菜々子(17)は熱心に『十二夜』の洋書(壮一郎の忘れ物)を片手にノートに翻訳を書いている。

  水川知美(17)が大きなあくびをする。

知美「また『十二夜』?」

菜々子「ただいま翻訳中!」

知美「そんなに面白いか? シェイクスピアだ、っていってもロミジュリとかじゃない、全然メジャーじゃない作品じゃん」

菜々子「面白いよ! (早口で)ヒロインのヴァイオラが切ないじゃん。男装して正体を隠して恋しい伯爵のために、彼のキューピットになろうとするけど、未亡人から恋されちゃうんだよ! わかってないなー」

知美「バカバカしい。コメディかよ」

菜々子「それだけじゃない! 未亡人の召使のマルヴォーリオの恋に踊る虚しさも対比として描かれていて、いやー。実に奥深い物語だよねー。うん(一人で納得する)」

知美「マルヴォーリオって、黄色い靴下だっけ? あの変態間抜けキャラ?」

菜々子「ご主人様が自分を好きだと勘違いする召使。黄色い靴下が恋に狂う人間の象徴ですな」

知美「菜々子……研究者にでもなるの?」

菜々子「恋とは可笑しいほど切ないものなの」

知美「なにその名言」

菜々子、洋書の中表紙を見る。

「ここに本当の恋がある」の走り書き。

知美「菜々子はその本が好きなのか。その本の持ち主が好きなのか」

菜々子「この本だよ。『十二夜』が好きなの」

   菜々子、本にブックカバーをかける。

知美「すっかり自分のモノにして」

菜々子「うるさい」

知美「(呆れて)私ら受験生なんだから、恋にうつつぬかすのもいいけど、勉強もな!」

菜々子「はい、翻訳、できました!」

知美「どれどれ」

  知美が菜々子のノートを見る。

  そこへ来店する壮一郎、まっすぐレジにやってきて、注文の控えの紙を出す。

壮一郎「注文した本、届いたと連絡があったので」

菜々子「あ。は、はい!」

  菜々子、慌てて『十二夜』を隠す。

  知美がにんまり微笑んでいる。

  知美をにらむ菜々子。

知美は店の奥に逃げる。

壮一郎「あの……」

菜々子「し、失礼しました!」

  菜々子、注文書の洋書をレジ下から出す。

菜々子「こちらになります。(英語で)『シェイクスピアの喜劇とロマンスにおけるヒロイン像』ですね。ご確認をお願いします」

  本を確認する壮一郎。

壮一郎「確かに」

菜々子「いま袋にいれますね」

  壮一郎は菜々子の翻訳ノートに目がいく。

壮一郎「《音楽が愛を育むものならば、続けておくれ、そして、私をいっぱいに満たしておくれ》。これは……『十二夜』の冒頭かな?」

菜々子「あ。はい! そうです!」

壮一郎「なるほど。なかなかいいね!」

菜々子「(恥ずかしい)ど、どうも……!」

壮一郎「(英語の暗唱)ミュージック、イズ、ザ・フード・オブ・ラブ……」

菜々子「……」

壮一郎「シェイクスピアの言葉は歌で音楽だ。それを意識して訳すといい。特に『十二夜』は全体が音楽みたいな物語だから」

菜々子「あ。はい! ありがとうございます!」

  壮一郎、カバンから紙を取り出す。

壮一郎「これ。次の注文です。よろしくお願いします」

菜々子「かしこまりました!」

  注文書を見る菜々子。

  吉井壮一郎の名前と国立大学の英文科・東山研究室とある。

壮一郎「よろしくお願いします」

  壮一郎、去る。

  菜々子、深呼吸。

  知美が笑っている。

知美「なにあのオタク」

菜々子、注文書を見つめる。

  【吉井壮一郎】の名前。

 

○菜々子の家・菜々子の部屋(夜)

『十二夜』を読む菜々子。

菜々子「(英語の暗唱)ミュージック、イズ、ザ・フード・オブ・ラブ……」

 

○高校・教室・内

  岡村文恵先生(55)の古文の授業。

  ノートに渦巻きを書いている菜々子。

文恵「受験生のあなたたちにとって今大事なのは勉強です。他のことにうつつを抜かさないように。いいですね! では授業を」

  菜々子、口元をおさえてあくびをする。

 

○洋書店・内

  学生服の菜々子と西野典子(37)と西野巧(37)。

菜々子「(面倒で)えー。私が配達行くの?」

典子「学校、水曜は授業終わるの早いでしょ?帰りでいいから、ね! お願い!」

菜々子「私、受験生なんですけど」

巧「届け先は大学なんだ。見て来るのもいい勉強になるんじゃないか」

菜々子「え……? どこの大学!?」

  注文書を見て、ドキリとする菜々子。

  吉井壮一郎の名前がある。

菜々子「(嬉しくて)届ければいいんでしょ!」

  去る、菜々子。

  不思議そうな巧と典子。

 

○桜の並木道(日替わり)

  普段着の菜々子が両手に本が入った紙袋を抱えて歩いて行く。

 

○大学・外観

  伝統のある大学。

立派な門をくぐる菜々子。

 

○同・建物・外観

  見上げる菜々子。

 

○同・内・廊下

  長い廊下を歩く菜々子。

菜々子「英文科……英文科……」

 

○同・内・東山研究室・前

  菜々子、呼吸整え、ノックする。

 

○同・内・東山研究室・内

  本や論文で散らかっている部屋。

  入る菜々子。

東山憲武(50)が出迎える。

菜々子「本をお届けに参りました」

東山「ああ。わざわざありがとう。ちょっと論文の準備で手が離せなくてね」

菜々子「いえ」

 

○同・学食・内

  菜々子、ラーメンを食べている。

  壮一郎がカレーを持って席を探している。

菜々子が壮一郎に気づく。

菜々子「あっ!」

  声が出てしまって、恥ずかしい菜々子。

  菜々子に気づいて壮一郎がやってくる。

壮一郎「君……」

菜々子「はい」

壮一郎「確か。洋書店で『十二夜』の翻訳をしていた……」

菜々子「は、はい! 西野菜々子です!」

壮一郎「うちの学生だったのか」

菜々子「は、はい! となり! 空いてます!」

壮一郎「では。失礼して」

壮一郎、菜々子の隣に座る。

菜々子も座り、緊張!

壮一郎「あの翻訳よかったよ。新入生?」

菜々子「そ、そうです! 新入生です!」

 

○同・構内・道

  菜々子と壮一郎、並んで歩く。

壮一郎「西野さん、もしよかったら僕のゼミ。受講してみない?」

菜々子「え!?」

壮一郎「シェイクスピア翻訳論」

菜々子「受けます! 受講します!」

 

○同・校舎・教室・内

榊原綾(20)が辞書を広げて予習している。

壮一郎が入ってくる。

綾「先生! おはようございます」

壮一郎「榊原さん。おはよう」

  菜々子が顔を出す。

  綾と目が合う。

  会釈しあう菜々子と綾。

壮一郎「授業始めます」

  席に着く菜々子。

綾が菜々子の隣の席にやってくる。

綾「この授業、新しく受ける?」

菜々子「今考えているところで……」

綾「新入生?」

菜々子「あ。はい。そ、そうです!」

綾「じゃあ、いろいろ教えてあげる」

菜々子「あ、ありがとうございます!」

 

○カフェ・内

綾とお茶をする菜々子。

菜々子「吉井先生の授業って、人気ないんですか?」

綾「先生、厳しいことで有名だから。シェイクスピアの翻訳も全種類比較して、授業に臨むのとか当たり前だし。課題も多いから。でも授業は熱いよ」

菜々子「ですよね! 吉井先生って、どんな先生なんですか?」

綾「手が抜けない真面目な人。優しいけど、変わってるかな。いつも研究書読みながら構内歩いているから人にぶつかりそうで危なっかしいし。学食はずっとカレーだし。いつも考えごとしてるよね」

菜々子「綾さん。詳しいですね」

綾「そんなことないよ! でもなんかほっとけないんだよね、吉井先生」

菜々子「そうなんですね……」

綾「今日の授業、とろうよ。『シェイクスピア翻訳論』。先輩が卒業しちゃって、私だけになったから寂しかったんだよね」

菜々子「でも、私、ついていけるでしょうか」

綾「勉強する気があれば大丈夫。菜々子ちゃん真面目そうだし」

菜々子「……(照れくさい)」

 

○桜並木(夜)

  夜桜の中を歩く菜々子、空を見上げる。

  月が出ている。

菜々子のN「こうして水曜日が私にとって特別な時間になったのです」

 

○洋書店・外観(夜)

 

○同・菜々子の部屋(夜)

  机の上には山のように英語関係の辞書や参考書が積まれている。

  『十二夜』を読む菜々子。

ハンガーにかかった制服を見る。

菜々子「……」

 

○同・外観(日替わり)

  制服姿の菜々子が出てくる。

菜々子「行ってきます」

 

○駅・女子トイレ・外観

  制服姿の菜々子が入っていく。

   × × ×

  私服の菜々子が出てくる。

 

○大学・外観

  門をくぐる菜々子。

 

○同・学食・内

菜々子は学食でカレーを受け取り、席を探す。窓際の席で壮一郎がカレーを食べている。

菜々子「先生!」

壮一郎「あ。西野さん」

菜々子「一緒に食べてもいいですか? 今お昼なんです」

   × × ×

壮一郎と並んでカレーを食べる菜々子。

壮一郎「授業はどう?」

菜々子「はい。楽しいです!」

壮一郎「それはよかった」

 

○桜の並木道

スキップする菜々子。

 

○洋書店・店内(夕)

知美がノートを菜々子に渡す。

知美「昨日、授業サボった分のノート」

菜々子「感謝感激!」

知美「菜々子が大学生のフリなんてね」

菜々子「意外とバレないよ。私って目立たないしさ」

知美「目立ってるよ」

菜々子「え?」

知美「受験生なのに、休んでるの一人だけだよ? 菜々子がいじめられてるんじゃないかって先生、心配してたし」

菜々子「えーっ……」

知美「サボると大変だよ」

菜々子「面倒」

知美「いやいやいや」

菜々子「もう大学生でいいじゃんね。勉強しないわけじゃないんだし」

知美「私らまだ女子高生じゃん!?」

菜々子「女子高なんてつまんない!」

知美「続かないよ、こんなの」

壮一郎が来店する。

菜々子「あ」

  制服姿だった菜々子は慌ててジャージの上着を羽織る。

菜々子「先生!」

壮一郎「あ。西野さん」

  壮一郎に会釈する知美。

菜々子「近所の後輩に! 勉強教えてたんです!」

壮一郎、微笑んで、店内を見て回る。

知美「うわ。本当に大学生」

菜々子「お願い!」

知美「退散しますよ。先生とごゆっくり」

  知美、ウインクして去る。

  壮一郎は店の奥で本を手にして、いつものように本に挨拶してから読み始める。

  菜々子、横目でその様子を見る。

 

○菜々子の家・菜々子の部屋(夜)

  ジャージの上着を脱ぎ棄ててベッドに倒れる菜々子。

菜々子「カッコわる……最悪……」

 

○大学・外観(日替わり)

 

○大学・教室

大学の授業。実際にシェイクスピアのセリフを声に出して演じる菜々子と綾。

菜々子「『おまえも恋をしたら、その甘い苦しみのうちに、俺を思い出せ、真の恋人はこの俺のように、恋しい人の面影を思ってばかりいて、ほかのことは一切上の空になってしまうものなのだ。この曲は気に入ったか?』」

綾「『恋の王座とも言うべきこの胸に響きます』」(『十二夜』・河合訳 P52)

壮一郎「はい、そこまで。河合訳で読んでもらったけど。シェイクスピアの台詞は実際に息をするような言葉で捉えることが大事だということがよく分かったと思う。翻訳は生きた人間の心から発せられる言葉として言葉を精査していく必要があるんだ」

菜々子、ノートに壮一郎の似顔絵を描いている。

綾が菜々子の方を見る。

 

○カフェ・店内

  菜々子と綾。

綾「吉井先生のこと。ずっと見てるよね」

菜々子「別に……」

綾「落書き。そっくりだったよ」

菜々子、恥ずかしくてうつむく。

綾「菜々子ちゃん、わかりやすい」

菜々子「(恥ずかしい)……」

 

○洋書店・外観(夜)

 

○同・菜々子の部屋(夜)

  壁にかかった学生服を見つめる菜々子。

  ノートを取り出す。

  ノートには壮一郎の似顔絵の落書き。

  落書きにヒゲを書き足す菜々子。

  ちょっとシェイクスピアに似ている。

菜々子、微笑む。

 

○駅・女子トイレ・外観(日替わり)

  制服姿の菜々子が入っていく。

   × × ×

  私服の菜々子が出てくる。

 

○大学・外観

 

○同・建物・内・教室

菜々子と綾と壮一郎。翻訳論議。

菜々子「『恋人よ どこへゆく。僕の歌聞いてゆく? 歌おう、恋心』。この道化の歌は、河合訳が一番いいと思います……」

壮一郎「それは、なぜかな?」

菜々子「ええと……音楽との相性で翻訳が練られているからです」

綾「でも。私は原文に沿った、松岡訳の方が優れていると思います。『ああ、どこをさまよう、恋人よ? ああ歩みを止めて聞いてくれ。一途な心の恋の歌』どうでしょう?」

菜々子「でも……河合訳の方が、音のバランスがいいと思います」

  綾と菜々子、にらみあう。

壮一郎「なるほどなあ」

菜々子「……」

綾「……」

壮一郎「原文に寄り添うべきだと主張する榊原さんの意見もよくわかる。対する西野さんの、言葉のメロディを大事にしたいと主張するのもよくわかる。シェイクスピア翻訳のここが面白いところだ。何を第一に考えるか。どう日本語に落とし込むか。音か、意味か、リズムか。どの表現が一番本質に迫っているか」

綾「……」

菜々子「……」

壮一郎「こういうのはどうだろう? 『可愛い人よ、どこへいく? ここにとどまり聞いてくれ、一途な恋の訪れを』と訳すのは?」

 

○同・学食

  壮一郎がいないかあたりを見回しながらカレーを食べる菜々子。

 

○同・建物・内・廊下・東山研究室・前

  ドアの前で呼吸を整える菜々子。

 

○同・東山研究室・内

  東山と菜々子。

  ニコニコしながらお茶を出す東山。

  お辞儀をする菜々子。

東山「質問があるなんて。感心感心」

菜々子「吉井先生は……?」

東山「もうすぐ戻ってくるんじゃないかな。お茶、遠慮しないで」

菜々子「いただきます」

東山「最近の学生さんは授業を受けて、それでいいと思っている子が多くてね。自分から学問をするということを知らない。その点、あなたは素晴らしい。期待していますよ」

菜々子「はい! 頑張ります!」

  冷ましながら、お茶を飲む菜々子。

  壮一郎が戻ってくる。

菜々子「先生!」

壮一郎「西野さん……?」

 

○同・建物・外観

  並んで歩いている壮一郎と菜々子。

壮一郎「シェイクスピアはなぜ様々な人の恋心を描き分けられるのか。面白い疑問だ」

菜々子「……」

壮一郎「シェイクスピアは、人に寄り添うことができる人だと僕は考えている。その人の事を真剣に思いやれる。だから、色々な人の心がわかるし、描けるんじゃないかな」

菜々子「なるほど……」

壮一郎「本当の答えはわからない。でも、常に疑問を持って仮説を立てて検証していく。シェイクスピア作品に向き合う時に僕が大事にしていることかな」

菜々子「先生、ありがとうございます!」

  お辞儀して駆け去っていく菜々子。

  その背を見送る壮一郎。

 

○桜の並木道(夜)

  洋書を片手に、夜空を見上げる菜々子。

  黄色く輝く月が出ている。

 

○駅・女子トイレ・外観(日替わり)

  制服姿の菜々子が出てくる。

 

○高校・外観

  やってくる菜々子。

 

○同・教室

  休み時間中である。女子生徒でにぎわう教室に菜々子が入ってくる。

  静かになる教室。菜々子に注目が詰まる。

  菜々子、荷物を置いて教室を出る。

 

○同・屋上

  菜々子、たそがれている。

  知美がやってくる。

知美「今日は『十二夜』ごっこじゃないんだ」

菜々子「なんか切なくて」

知美「授業、出なよ」

菜々子「なんか面倒」

知美「さぼり魔」

菜々子「うるさい」

知美「よくないよ」

菜々子「あぁ、はやく自由になりたい……」

知美「菜々子……」

菜々子「自由に、自分のやりたい勉強をやる! (叫んで)自由になりたい!」

 

○洋書店・外観(夕)

  やってくる菜々子。

 

○同・店内(夕)

  店番している典子。

  やってくる菜々子。

菜々子「ただいま」

典子「菜々子」

菜々子「何?」

典子「学校、休んで何してるの?」

菜々子「休んでなんかないよ」

典子「学校から、連絡あった」

菜々子「……ちょっと駅で具合悪くなって」

典子「正直に言いなさい!」

菜々子「何してようが私の勝手じゃん!」

  奥に入っていく菜々子。

典子「菜々子!? もお」

 

○同・菜々子の部屋・内(夕)

  机に向かって辞書を引いている菜々子。

  『十二夜』の洋書を開く。

  「本当の恋がここにある」の走り書き。

  机にふせる菜々子。

 

○夜空に月が出ている(夜)

 

○大学・外観(日替わり)

 

○同・建物・内・東山研究室・前

  部屋のドアの前に立っている菜々子。

  ノックする。

 

○同・建物・内・東山研究室・内

  姿勢を正して椅子に座っている菜々子。

  壮一郎が書棚から本を抜き出していく。

壮一郎「あとは、確かこの辺……」

菜々子「先生?」

壮一郎「もうちょっと。あっ。これこれ!」

  たくさんの本を菜々子の前に置く壮一郎。

壮一郎「この辺なんか、読んでみるとシェイクスピアの人物描写がよくわかるようになると思うな」

菜々子「ありがとうございます」

壮一郎「それにしても西野さんは本当に熱心だね。研究者に向いているかもしれない」

菜々子「本当ですか!?」

壮一郎「将来の夢とかどうなの?」

菜々子「将来の……夢。ですか? まだわかりません。でも、研究者素敵だなって思います」

壮一郎「本気で目指す気があるなら、留学したらいいよ」

菜々子「留学ですか?」

壮一郎「僕は向こうの大学に数年行って。価値観がだいぶ変わった。本場のシェイクスピアもたくさん味わった。絶対、プラスになると思うな」

菜々子「先生! 私好きです!」

壮一郎「え?」

菜々子「あっ。シェイクスピアです!」

壮一郎「ああ」

菜々子「留学も憧れます。先生はどうして学問の道に進まれたんですか?」

壮一郎「僕?」

  壮一郎は、出してきた本の一冊、『シェイクスピア愛の言葉』から言葉を引く。

壮一郎「『十二夜』にこんな言葉がある。《誰にも言わず、誰にも相談せず、誰にも見せびらかさず、ひそやかに喜び、悩み、落ち込む。静かに耐え続け、悲しくほほ笑む。それが本当の恋じゃない?》かなり意訳だけど、よくとらえていて、僕は好きなんだ」

菜々子「……」

壮一郎「高校のときに。ある先生に出会ったんだ。その先生はシェイクスピアを僕に教えてくれた」

菜々子「それって……」

壮一郎「今思えば、苦い初恋だったのかもしれない……」

菜々子「……」

壮一郎「とにかく。僕はシェイクスピアの変幻自在の言葉とドラマにすっかり魅了されてしまったんだ」

菜々子「私もここに本当の恋があると思います!」

壮一郎「えっ……?」

菜々子「十二夜です。ただ甘いだけじゃなくて、苦いところもあるっていうか、恋の喜びと悲しみが一緒になっている、このお芝居が大好きなんです! 大好きです!」

  菜々子、荷物をそのままに、部屋を出ていく。

壮一郎「……」

 

○同・建物・廊下

走り出てくる菜々子。

 

○同・建物・内・東山研究室。・内

壮一郎は菜々子の忘れ物を拾う。

ブックカバーがかけられた本が一冊だ。

 

○同・学生課

学生科へ届ける壮一郎。

職員が応対する。

職員「落とし物ですか?」

壮一郎「この本を西野菜々子さんに」

職員「ちょっと待ってください。今調べます」

ブックカバーの本を開く壮一郎、例の『十二夜』の洋書である。

「ここに本当の恋がある」の走り書き。

壮一郎「あっ……」

職員「先生。そのような名前の生徒はうちには在籍しておりませんが……」

壮一郎「え、そうですか。僕、ちょっと間違えたみたいです。失礼します」

  壮一郎、去る。

不思議そうな職員。

 

○桜の並木道(夕)

  歩いて行く菜々子。

 

○洋書店・外観(夕)

 

○同・店内(夕)

  知美と菜々子。

菜々子「最悪」

知美「何が?」

菜々子「本」

知美「本って。例のあの本?」

菜々子「先生のとこに忘れた」

知美「は?」

菜々子「絶対バレたよ……もう先生に合わせる顔ない……」

知美「でも。行くんでしょ?」

  静かにうなずく菜々子。

知美「止まれないのが恋、かあ」

 

○大学・外観(日替わり)

 

○同・建物・内・東山研究室・内

向かい合う壮一郎と菜々子。

壮一郎が、例の『十二夜』を菜々子に見せる。

壮一郎「君はうちの学生じゃない」

菜々子「……」

壮一郎「学生課で調べてもらった。西野菜々子という名の学生は本学には存在しない」

菜々子「……」

壮一郎「それにこの本は……僕の本、だよね?」

菜々子「……」

壮一郎「君は……」

菜々子「……」

壮一郎「……」

菜々子「その本は返そうと思ってて……」

壮一郎、菜々子を見る。

菜々子「私……本当は……高校生で。授業サボって……先生の授業、受けてたんです」

壮一郎「なんでそんなこと……」

菜々子「好きだから!」

壮一郎「……」

菜々子「大好きな、憧れのシェイクスピアの……先生の授業、どうしてもうけたかったんです!」

壮一郎「君も、この本に恋をしたんだね……」

菜々子「好きで好きでたまらないんです! 私、高校では優等生キャラで周りに壁作って、自分を殺してて……。それが苦しくて。でも、この本に出会って、救われたんです!」

壮一郎、腕を組んで考え込む。

壮一郎「本に救われるか……」

菜々子「……」

壮一郎「僕にとってもこの本は特別なんだ。高校生の時、人付き合いが苦手だった僕はいつも孤独だった。そんな時、先生がシェイクスピアのこの本を教えてくれたんだ。シェイクスピアの世界には色々な人間が描かれていて、それに触れることで、人間不信だった僕は希望を持つことができた。だから君の言うことは少しわかる気がする」

菜々子「先生……」

壮一郎「でも。西野さんはもっと広い視野で世界を見た方がいい。そのためにも今しかできないことを高校でやる方がいいと思うんだ」

菜々子「もう来るなってことですか?」

壮一郎「……」

菜々子「先生!」

壮一郎「……」

菜々子「私、諦めたくないです! 先生の授業受けたいんです! もっと知りたいんです! 十二夜も、シェイクスピアの心も。もっと知りたいんです!」

壮一郎「……でも。本分をおろそかにするのは本末転倒じゃないかな?」

菜々子「……私、やめませんから!」

  菜々子、出ていく。

壮一郎「……」

壮一郎、『十二夜』の洋書に目を落とす。

 

○同・建物・外観

  菜々子が走って出てくる。

 

○同・外観

  走って門を出る菜々子、息を切らし、振り返って大学を見つめる。

 

○洋書店・外観(夜)

 

○同・店内(夜)

  店番している典子と巧。

  帰って来る菜々子。

典子「菜々子。今までどこで何してたの!?」

菜々子「……別に」

典子「学校、また無断欠席したでしょ!」

菜々子「そんなこと、どうでもいいし!」

巧「菜々子。そういう態度はよくないぞ」

典子「大事な時期なのに何やってるのよ。推薦とるなら、内申落とせないんだからね。わかってるの?」

菜々子「うるさいなあ」

典子「うるさいって何よ」

巧「菜々子……」

菜々子「知らない。どうでもいい」

典子「どうしちゃったのよ……」

菜々子「推薦なんていらないよ! 受験する! 私、行きたい大学があるの!」

典子「どこよ? どこなの? 言いなさい!」

菜々子「……」

典子「え? なに? 言えないの?」

菜々子「勉強したいことがあるから……!」

典子「何よ。言ってごらんなさい?」

菜々子「……」

巧「菜々子は何がやりたんだ?」

菜々子「……」

巧「言えないことなのか?」

菜々子「……シェイクスピア」

典子「シェイクスピアって……熱心に色々読んでるのは知ってるけど。それだけじゃ」

巧「菜々子。それは本当に勉強したいことなのか……?」

菜々子、うなずく。

巧「……そうか」

典子「でも。あなた。推薦で行ける大学に行った方が……」

巧「うーん」

菜々子「私、自分に妥協なんてしたくない!」

  菜々子、奥へ去る。

  顔を見合わせる巧と典子。

 

○同・菜々子の部屋(夜)

  部屋の壁にかけられた学生服をみる菜々子。

菜々子「……」

 

○高校・屋上(朝)

菜々子が空を眺めている。

やってくる知美。

知美「菜々子さん久しぶりの登場ですね」

菜々子「……喧嘩した」

知美「え?」

菜々子「親と」

知美「少し頭冷やしなよ」

菜々子「私、受験することにした」

知美「え?」

菜々子「反対されたけど。決めたから」

知美「そこまでしてあの先生に近づきたいの?」

菜々子「……」

知美「菜々子……」

菜々子「私、もう決めたから……」

 

○高校・教室

  文恵の古文の授業。

  その他の生徒たちと一緒に授業を受けている菜々子。

  ノートを開くと、壮一郎の似顔絵の落書きのページである。

  思わず席を立つ菜々子。

文恵「西野さん?」

菜々子「先生! 私、早退します!」

 

○道

  走る菜々子。

 

○大学・外観

 息を切らしてやってくる菜々子。

 制服のままでは大学の門をくぐれない。

菜々子、立ち尽くす。

綾の声「西野さん……?」

  菜々子、振り返る。

  綾がいた。

菜々子、反対へ走って逃げる。

 

○道

  走る菜々子、息を切らして立ち止まる。

菜々子「何やってるんだろう……」

 

○大学・建物・教室・内

壮一郎のゼミである。綾と壮一郎。

板書している壮一郎。

綾はシャーペンの芯を長く伸ばして、それを折る。

綾「……」

 

○同・廊下(夕)

  綾のスマホには菜々子の学校のHPの画面が映し出されている。

電話をかける綾。

 

○歩道橋の上(夜)

  制服姿の菜々子、車の流れを見下ろしている……。

 

○高校・外観

 

○同・職員室

  菜々子が文恵先生の前に立たされている。

文恵「西野さん。無断欠席して大学生のフリだなんて前代未聞です。何をやっているんですか!」

菜々子「……」

文恵「もう全部わかっているんですよ。高校の勉強を何だと思っているんですか」

菜々子「……」

文恵「西野さん。答えなさい!」

菜々子「……」

 

○大学・外観

文恵に連れられて菜々子がやってくる。

 

○同・会議室・内

  文恵と並んで座る菜々子。

  壮一郎と東山が入って来る。

壮一郎「わざわざご連絡いただきまして」

文恵「この度は私共の監督不行き届きで大変な迷惑をおかけいたしました。本学を代表して謝罪いたします!」

  頭を下げる文恵。

壮一郎「い、いや、やめてください……」

文恵「よくありません。由緒正しき、わが校の規則に反することですので!」

  頭を下げる先生。

  菜々子もしぶしぶと頭を下げる。

壮一郎「どうか、頭をあげてください。まずは座って話をしましょう」

席に着いた菜々子と先生、壮一郎と東山。

壮一郎「西野さんが、無断で学校を休み、本学の授業を勝手に受けていたことは確かに問題かもしれませんが……」

文恵「厳重に注意して聞かせますので、どうか穏便に」

菜々子「……」

東山「私には何が問題なのかよくわからない」

文恵「え……?」

壮一郎「教授……」

東山「大学は本来開かれた場であり、誰にでも学ぶ自由はある。そうじゃありませんか? 先生のおっしゃることもよくわかります。受験のための勉強。それも大事です。でも私たち研究者はもっと心で学ぶことを大事にしているんですよ」

文恵「おっしゃることはわかりますが……」

東山「確かに、西野さんがしたことは常識からしたら、間違っていたのかもしれない。でも私は彼女を責める気にはなれない」

  菜々子、東山を見る。

東山「教育機関として、この子の可能性を見てあげることはとても大事なことではないでしょうか。この子の熱意を伸ばしてあげるのが本来の学校という場の役割でしょう。大目に見てあげてはどうでしょう?」

文恵「……」

東山「西野さん。学ぶ熱意を大切にね」

  頭を下げる菜々子。

 

○大学・外観

  文恵と菜々子。

文恵「先方が寛大だったからよかったんです。もう二度とこのようなことをしてはなりませんよ」

菜々子「……」

文恵「わかっていますか?」

菜々子「はい……」

文恵「帰りますよ」

壮一郎の声「ちょっと待ってください!」

  壮一郎が走ってやってくる。

壮一郎「西野さんと少しお話させていただけませんか?」

菜々子、壮一郎を見る。

菜々子を見る文恵。

文恵「私は学校に報告に戻ります。西野さん、明日からちゃんと登校してくるように」

菜々子「はい……」

文恵「(壮一郎に)では。私はここで」

  文恵、去る。

  壮一郎と菜々子。

壮一郎「西野さん」

菜々子「ごめんなさい……」

壮一郎「……」

菜々子「迷惑かけて、ごめんなさい!」

頭を下げる菜々子。

壮一郎「いや。いいんだ。それより、大丈夫?」

菜々子「……」

壮一郎「君が、今回の事で、シェイクスピアが嫌いにならないか心配で……」

菜々子「えっ……?」

壮一郎「いや。その。君は、素晴らしい情熱を持っている」

菜々子「……」

壮一郎「だから、勉強をこれからも続けて欲しいんだ」

菜々子「私……。私、先生のことが好きです!」

壮一郎「……」

菜々子と壮一郎、見つめ合う。

壮一郎「……」

うつむく菜々子。

壮一郎「……」

菜々子「私のこと、忘れてください!」

走り去る菜々子。

 

○桜の並木道(夕)

  やってくる菜々子、天を仰ぐ。

菜々子「……」

 

○洋書店・外観(夜)

 

○同・居間(夜)

菜々子と典子が夕飯を食べている。

典子「菜々子」

菜々子「何?」

典子「お父さんとよく話しして。本当に受験したいなら。お母さん応援するから」

菜々子「……」

典子「本当にやりたいことがあるんだったら我慢したらダメ。人生、一度きりだから」

菜々子「……」

典子「冷めないうちに食べちゃいましょう」

菜々子「……明日からちゃんと行く。心配かけてごめんなさい……」

典子「お母さんも憧れたことあった」

菜々子「大学?」

典子「お父さんと出会わなかったら。行ってた。あ、これ、お父さんには内緒ね」

菜々子「へえ……」

典子「だから、菜々子には大学行って欲しいな。だってやりたいことがあるなんて素敵じゃない。目標に向かって頑張りなさい」

菜々子「ありがと……」

 

○同・菜々子の部屋(夜)

スタンドライトをつけて、机にむかい、ノートを開く菜々子。

  壮一郎の似顔絵のページ。

  菜々子、壮一郎の似顔絵を見つめる。

 

○高校・外観

 

○同・教室・内

  授業を受けている菜々子。

  黙々とノートをとっている。

 

○屋上

  知美と菜々子。

菜々子「告白した」

知美「え? あの先生に?」

菜々子「でも、全然届かなかった」

知美「菜々子……」

菜々子「先生に会いたい……」

 

○洋書店・外観

 

○同・店内

店番している菜々子、ため息をつく。

綾が訪ねてくる。

菜々子「いらっしゃいませ……」

  綾、店内の本を適当に持ってレジへ。

綾「この本、ちょうだい」

菜々子「300円になります」

  袋に入れる菜々子。

綾「吉井先生に、ここに来れば会えるって、聞いて……」

菜々子「……」

綾「ごめん。高校に、菜々子が大学生のフリしてるってバラしたの、私なんだ……」

菜々子「えっ……」

綾「先生にどんどん近くなっていく菜々子が羨ましくて……。ごめん」

菜々子「……もういいんです。私、どうかしてたんです。大学に潜り込んだりして……」

綾「待ってる!」

菜々子「……」

綾「来年。ゼミで。待ってるから!」

  綾、袋を貰って店のドアまで行く。

  振り返る綾。

綾「先生の事、本気なんでしょ?」

菜々子「……」

綾「シェイクスピアだって、嘘や間違いから始まった恋が本当になることだってあるじゃん! 嘘からでもいいじゃん! 自分が本当に想ってるなら!」

菜々子「……」

綾「またね!」

  綾、去る。

 

○同・菜々子の部屋(夜)

文庫本の『十二夜』を本棚から取り出す菜々子、惣一郎の真似をして本に挨拶をしてから本を開く。

菜々子「(読み上げる)『可愛い人よ、どこへいく? ここにとどまり聞いてくれ、一途な恋の訪れを』……(英語で繰り返して)」

  菜々子は本を閉じる。

 

○桜の並木道(日替わり)

  制服姿の菜々子、走っていく……。

 

○大学・外観

  菜々子、走って、構内へ入る。

 

○同・建物・廊下・東山研究室・前

  走ってきた菜々子、ドアの前で呼吸を整え、ノックする。

 

○同・建物・廊下・東山研究室・内

  壮一郎が本を読んでいる。

  菜々子が入る。

菜々子「失礼します」

壮一郎「西野さん……!」

菜々子「これが最後です。最後にします」

壮一郎「……」

菜々子「私、本当の恋、見つけました!」

壮一郎「……」

菜々子「先生のあとを追いかけます。だから。私の事待っていてください!」

  壮一郎、例の『十二夜』の洋書を取り出す。

菜々子「……」

  菜々子に『十二夜』の洋書を差し出す壮一郎。

壮一郎「この本。僕よりも、今のきみに必要だと思う」

本を受け取る菜々子。

菜々子「先生……」

壮一郎「僕も。楽しみに待ってるよ。君が来るの」

 見つめ合う、菜々子と壮一郎。

 深くお辞儀する菜々子。

 

○大学・外観

  出てくる菜々子、振り返り、大学を見る。

  『十二夜』の洋書を抱きしめる菜々子に春の風が吹く。        

(終)

 


 

《主要参考文献》

『十二夜』(翻訳・各種)

『TWELFTH NIGHT』(大修館書店)

『快読シェイクスピア』

『あらすじで読むシェイクスピア全作品』

『シェイクスピア 愛の言葉』

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おわりに

作品は、楽しんでいただけましたでしょうか!?

また違う作品でお会いしましょう~!

では!

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。