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【声劇台本】069「左側の雨、右側の恋」

「左側の雨、右側の恋」

《人物》
立花保乃(17)高校2年生。
山田昇(17)高校2年生。

《本編》
保乃のMO「真冬の大雨はイヤだ。冷たくて、凍える。昇降口で私は雨空を見上げた。今日って雪の予報だったのに! なんで!?」

山田「(寒そうに)立花……」

保乃のMO「その声に驚いて私は隣を見た。山田君が屈んで震えていた」

保乃「や、山田君。なにしてるの?」
山田「傘忘れたんだよ、さみぃー!」
保乃「今日雪って予報だったじゃん」
山田「雪ならさ、別にぬれないからいいかなって」
保乃「そんなわけないでしょ……」
山田「油断したわー。完全に油断した。しかも大雨だし」
保乃「確かにすごい雨だよね」
山田「地球温暖化が進んでるなあ。ああ、雪になれー!」
保乃「(少し呆れて)ずっとそこでそうしてたの?」
山田「みんな傘に入れてくれないんだよ。この雨と同じで冷たいよなー」
保乃「山田君。……駅までだったら、傘、一緒に入っていく?」
山田「え!? いいの!」
保乃「駅まで、だよ?」
山田「マジ、サンキュー!」

保乃のMO「こうして、私たちは一つの傘で駅までの道を一緒に歩いた。私が左側で。彼が右側。駅までの道は近くて遠くて、長くて短かった」

山田「立花、マジで助かった! 救世主だな」

保乃のMO「そう言う山田君の制服は右側だけ雨でずぶぬれになっていた。山田君ってそういうとこあるんだよな」

保乃「右側だけずぶぬれじゃん。言ってくれればよかったのに」
山田「なんか悪いかなと思って。でも、立花も左側ずぶぬれだな」
保乃「あ。ほんとだ」
山田「気づかなかったのかよ」
保乃「私たちバカみたいだね」
山田「気、つかわせたみたいで悪かった」
保乃「全くだ」

保乃のMO「雨粒に濡れた制服を拭きながら、もう一度、山田君の左側に並んで、右側の彼を見る。ここが私の定位置になったらなあ。なんて妄想、彼にはヒミツ」

(おわり)

今後の執筆と制作の糧にしてまいりたいと思います。