土壌の活性化に音が効く?――「農業と音」の最新研究紹介

2024.5/17 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、土壌の活性化に音を利用した研究について紹介します。

◾リジェネラティブ農業と土壌

「リジェネラティブ農業」という言葉をご存知でしょうか?「環境再生型農業」とも呼ばれるリジェネラティブ農業は、持続可能性が叫ばれる中で注目されている考え方の一つです。具体的には、土壌を修復・改善しながら行う農業で、土壌を大切にすることで、気候変動対策としても機能すると言われています。

そんな中、音が土壌の健康に大きく貢献する可能性があることがわかりました。
(今回は、webマガジン「IDEAS FOR GOOD」に掲載された記事「「音」が微生物を元気にする?土壌再生の最新研究」で参照された、最新研究を紹介します。)

まず、農業を行うにあたって重要な要素のひとつに、「土壌」が挙げられます。様々な先行研究から、土にはティースプーン一杯におよそ1万種、計10億の微生物が存在し、作物を育てるだけでなく、汚染物質の浄化や炭素貯蔵量の調整を行っています。

また「国連食糧農業機関」の2020年の報告によれば、地球上の土壌の33%が劣化しており、そのうちの40%はアフリカで、その他は貧困が深刻な地域に土壌の劣化がみられるとのことです。土壌の劣化は不適切な使用、管理が原因で、有機物が減少したり、汚染物質が混入したりと、様々な要因が考えられています。こうしてみれば、世界の食料危機問題を考える上でも重要な土壌の再生は、喫緊の課題と言えるでしょう。

◾音響刺激で土壌の微生物を活性化させる。

そこでオーストラリアの「フリンダース大学」の研究チームは2024年1月、土壌の微生物を「音の刺激」によって活性化させる研究論文を、査読前論文としてプレプリントサーバーに発表しています。

まず研究によれば、地球上の全生物の59%は土壌に生息しているといいます。また、土壌(あるいは生物)と音に関わる研究は、「生態音響学」と呼ばれ、また土壌の活性化に音を使う「音響修復」という研究は、新しい分野であるとのことです。こうした研究は当ラボも以前(2022年12月)、海中に音を流すことで、牡蠣の幼生が引き寄せられ、牡蠣礁の回復に効果をもたらした研究を紹介しました。また同様に、2024年4月にも、サンゴ礁の回復にも音を利用した研究も紹介しています。これらも生態音響学のひとつといえるでしょう。

https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2304663120

今回の研究では、土壌の菌類の量や有機物の分解、植物の成長促進と音の影響を調査します。研究では、ティーバックに堆肥を入れたものを防音ボックスに入れます。音は8khzの単調なものを、70dbと90dbの音量でそれぞれ1日8時間、14日間流します。比較として、音量を30db程度に抑えたものも同じように実験しました。

ちなみに、ある種の菌は70~90dbの音に影響されるという先行研究があるとのこと。また70dbとは一般に騒々しい街頭の音、90dbとなると犬の鳴き声、騒々しい工場の中と、かなり大きな音です。通常の会話は50db程度と言われています。

結果は、30dbのものにはほとんど変化がなかった一方、70dbと90dbの音を与えたものは、目に見えて微生物の量が増えたことがわかりました。したがって、音は土壌の再生にも影響を与えるのです。

もちろん、70~90dbは大きな音であり、音の伝え方には工夫が必要でしょう。とはいえ、土の中に音響装置を設置すれば、地上に漏れ出る音は最小限で済む可能性もあります。一般的に土壌の再生には長い時間がかかるということですが、「音響修復」による土壌の再生も、まだまだ様々な研究が必要になるものの、興味深い研究です。

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