AIが答える源氏物語に、サンゴ礁を再生する音――「音声ニュース」の最前線

2024.4/26 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、最近の音に関する注目の話題をご紹介します。

◾AIが答える『源氏物語』

まずは、大阪工業大学情報科学部、ネットワークデザイン学科の矢野浩二朗教授が2024年4月5日に発表した、『源氏物語』について質問すると、AIが答えてくれる「おしゃべり源氏物語 -生成AIで学ぶ『源氏物語』-」です。

複数の生成AIを活用してつくられた「おしゃべり源氏物語」はその名の通り、音声や文章でAI光源氏に質問すると、AI光源氏が答えてくれるというものです。音声を文章に変換するAIや文章生成にOpenAIの技術を活用していますが、注目は和歌の「読み上げ」です。

和歌の読み上げは独特のリズムがあるため、通常のAIの読み上げ技術には適していません。そこで和歌の発音に関するデータを追加することで、独特のリズムでの発音を可能にしています。他にも、和歌の現代語訳のデータや、『源氏物語』に関する精度の高いデータベースを構築し、それをAIに学習させるといった工夫もされています。

現在は実証実験の段階で、音声入力に関する改善点など、体験したユーザーからのフィードバックを受けてシステムの改良を進めるとしています。現在のところ一般公開はされていませんが、今後もパブリックなデータを用いた「Open 光源氏 AI」を、他の施設(展覧会や美術展等と考えられます)での公開を予定しています。

和歌のような独特な読み上げは、他にも海外の古語など、様々なところでも需要がありそうです。それぞれの言葉に合わせたAIの調整が必要となりますが、こうした取り組みは古語を知る上でも重要な研究でしょう。

◾車の中の音響環境

自動車の音響環境については、以前も当ラボでお伝えしてたように、特にEVのように音が静かな自動車の場合、周囲のために敢えて大きな音を出す必要があります。

一方、自動車内の音響環境はどうでしょうか。ヤマハが2024年4月5日に発表した「Music:AI」という技術は、自動車内の音響をAIを用いて最適化するものです。

自動車内の音響環境は、年々技術力が向上していますが、動く車内で最適な音響環境を構築するには、細かな調整が必要になるほか、音質やパーソナライズ機能も、より高い精度が求められます。

今回の「Music:AI」はホール音響で培った音響に関する技術をアルゴリズム化し、すべての座席でリアルな音環境を構築することが可能とのことです。他にも、楽器開発で用いられた、ユーザーごとの音の感性評価、つまりどんな音(音楽)が好きかについて、AIとの対話で理解し、音質等も含めたユーザーの好みの音を理解し、自動車内の音環境の最適化を可能にする、とのことです。

この「Music:AI」は、2025年の量産化に向けて開発中のハイエンドアンプに搭載するとのことで、その後国内外の自動車メーカーに販売されます。このヤマハのAIをはじめ、今後はより快適な音環境が車内で構築されるようになるでしょう。

◾音でサンゴ礁を再生する

最後は、音がサンゴ礁を再生させるという研究です。

地球温暖化や水質悪化の影響で深刻なダメージを受けているサンゴ礁。そんな中、米マサチューセッツ州はウッズホール海洋研究所のチームは、損傷したサンゴ礁に、健康なサンゴ礁の音を聞かせることで、サンゴの発育状況が改善した、という論文を、2024年3月14日に発表しています。

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.231514

すでに先行研究で、サンゴの幼生は他のサンゴが発する音に向かって泳ぎ、そこで定着して成長することがわかっています。そこで今回、研究チームがアメリカ領ヴァージン諸島で行った実験は、まず3つのサンゴ礁の付近に水中スピーカーを設置します。そのうちひとつからは健康なサンゴ礁から録音した音が再生され、残りは損傷したサンゴ礁から録音した音や、別種のサンゴ礁の音を流しました。

その後、スピーカーから最大30メートル離れた場所で、容器に入っているサンゴの幼生の数を数えます。すると、健康な同種のサンゴ礁の音を再生した場所では、他と平均して1.7倍の幼生が定着することがわかったのです。

さらに、スピーカーから遠くなればなるほど幼生の数は少なくなるので、音に反応してサンゴの幼生が寄ってくると言えるでしょう。

研究者によれば、サンゴ礁が増えれば魚も増えるということで、こうした技術はサンゴ礁の保護にとって非常に重要なものと言えるでしょう。ただし、どのように利用すれば効果的か等、実践するにはまだまだ検討すべき点も多いとのことです。

いずれにせよ、音を用いた研究には、様々な可能性が秘められているのです。

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