7オクターブの音域を持つコウモリ、騒音に苦しむイルカーー「音と動物」の様々な研究紹介

2023.2/24 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音と動物の最新研究について紹介します。

◾コウモリはデスボイスも可能

コウモリは、非常に多くの音域を利用する動物です。コウモリは周波数の高い超音波をエコロケーション信号として利用しています。エコロケーションは「反響定位」と呼ばれ、音の反響から空間を認識する方法で、視覚を利用しない方法として知られています。

一方、これに加えてコウモリは非常に低い周波数を利用することもわかってきました。南デンマーク大学の研究チームが2022年11月に発表した論文によれば、コウモリは1~5 kHzの低い周波数で、いわゆる「デスボイス」を出すことも可能であることがわかりました。

低音で唸るような響きが特徴のデスボイスは、デスメタル等の分野で多用される発生技法です。人間がこの音を発生させるには、通常の発音には利用されない「仮声帯」を震わせる必要があります。

仮声帯は通常、呼吸や発音の際に食べ物や飲み物が気道に入るのを防ぐ役割をもつものです。この仮声帯を震わせることでデスボイスが発音される他、モンゴル等で伝統的に歌われる「ホーミー」も仮声帯を震わせて発音されています。

今回の研究では、コウモリの声帯膜を1秒間に25万フレームという超高速撮影を行いました。その結果、コウモリは低音から高音まで、つまりデスボイスから超音波までの音域を有していることがわかりました。研究者によれば、それは7オクターブの音域に及ぶとのことです。

人間を含め、ほとんどの哺乳類は通常3~4オクターブであり、歌手の中には、マライア・キャリーなど、4~5オクターブの音域を持つ人がいます。7オクターブは、これらと比較しても驚くべき喉の構造を有しているということです。

残念ながら、デスボイスのような低い音域でコウモリが何を表現しているかはまだわかっていません。しかしながら、コウモリを知る上で、このような喉、音研究は欠かせない重要な研究でしょう。まだまだ音からわかることは多くあるのです。

◾騒音に苦しむイルカ

他方、外からの音に悩まされている動物についても知る必要があります。イギリスのブリストル大学やアメリカのドルフィンリサーチセンター等からなる研究チームが2023年1月に発表した論文で、騒音状況におけるイルカのコミュニケーションについて研究しています。

https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)02000-0#

イルカもエコロケーション等の音声を利用して仲間とコミュニケーションを取っています。研究では、訓練された2頭のバンドウイルカを大きなプールに放ち、大きな騒音を鳴らしました。その結果、2頭のイルカは自らが発生する音のボリュームを大きくしたり長さを変えたりと、コミュニケーションのために試行錯誤を行いました。さらに、ボディランゲージ等も行いましたが、騒音が大きくなるほど、コミュニケーションを必要とする課題に対する達成率は低くなりました。(騒音なしの場合の課題達成率は85%なのに対して、最も大きな騒音下では達成率が62.5%にまで下がりました)

すでに様々に指摘されているように、軍事演習や掘削機、大型船等の人間が発生させる音は、イルカに大きな影響を与えることが、この研究からもわかります。

実際、2006年のオーストラリアの研究では、イルカウォッチングのために観光船が増えるに比例して、イルカの遭遇率が下がるという結果が得られています。こうした原因がすべて騒音であるとは断定できませんが、動物と人間をつなぐ音について、さらに考慮する必要があるでしょう。

https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1523-1739.2006.00540.x


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