海中のソナーや杭打ち音がもたらす深刻な影響ーー「海洋生物と人為的な音」の紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.8/12 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、ソナーや杭打ち音など、人為的な音が海洋生物にもたらす影響について紹介します。

◾海中の騒音がクジラにもたらす影響

海洋プラスチックごみ等、海に関する問題は多く存在していますが、海の中ではさら「騒音」が大きな問題となっています。

例えばクジラは、海中を長時間潜水し、エサを探すことが可能です。中でもアカボウクジラ(体長7メートル程度、重さ2~3トンの中型のクジラ)は、ある調査では平均一時間程度潜水していますが、最高で3時間42分という潜水記録が確認されています。

しかし、潜水艦を探知するために1950年代に開発された軍事目的の「中周波ソナー」の影響を受けたアカボウクジラは、多くのストレスがかかり、潜水パターンが乱れます。実際、1960年~2004年の間にクジラの異常な大量打ち上げが確認されていますが、そのうち少なくとも40件は、軍の活動場所と時間が、クジラの大量打ち上げと密接な関係があることがわかっています。打ち上げられたクジラを調べると、脳内出血のような症状がみられました

別の研究でも、集団で打ち上げられるクジラのうち9%が、海軍が利用する中周波ソナーの影響であることを示唆するものもあります。

https://www.researchgate.net/publication/228346496_Beaked_Whale_Strandings_and_Naval_Exercises

◾風力発電建設のための杭打ちがイルカ、アザラシに与える影響

別の「音」も、海洋生物に悪影響を与えます。海上に風力発電装置を建設するために杭打ち機から発生する音が、イルカやアザラシといった海洋生物の聴覚に大きなダメージを与え、難聴や方向感覚を失わせる可能性が懸念されています。実際、様々な国でソナーや杭打ち、また地震調査で発生させる騒音に上限を設定していますが、こうした基準は、アメリカ海洋漁業局等による、2015年までのデータを利用しています。

ただ、近年も様々な調査が続けられています。そこでデンマーク・エネルギー庁の財政支援を受けたデンマークの研究者達は、そうした様々な調査をレビューした研究を行いました(2022年6月に論文が公開されています)。

それによれば、特に風力発電装置の建設に使われる杭打ち音の影響を与えるのは、ネズミイルカ(harbor porpoise)とゼニガタアザラシ(harbor seal)で、彼らの生息する西ヨーロッパでは風力発電の建設が進んでいるため、問題となっています。また動物ごとに影響を受ける音の差異なども注意深く示されており、こうした研究が、騒音規制のアップデートに貢献します。

再生可能エネルギーは今後のエネルギーを考える上で非常に重要ですが、海洋生物を守ることは、海の生態系を守ることでもあり、注意が必要です。海の中でも、様々な音が存在しており、特に海洋生物にとっては生きるために重要なファクターです。海の「音」にも、私達は注意する必要があるのです。

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