皮膚に貼った超音波パッチから効率的に薬を体内に届けるーー「超音波技術」の最新情報

2023.6/09 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、超音波を利用した最新の研究について、お伝えします。

◾超音波の力

超音波の利用した技術は、様々な場面で活用されています。そもそも、超音波とはどのようなものでしょうか。まず、人間が聞くことのできる音は20Hz~20kHzの周波数であり、可聴音と呼ばれています。一般的に超音波の定義はこの20kHzを超える音であり、人間には聞こえない音、あるいは聞くことを目的としない音です。

以前も紹介した通り、超音波はすでに様々な領域で利用されています。2022年には、冷凍マグロの鮮度を、冷凍状態のまま検査する技術が発表されましたが、この技術にも超音波が利用されています。

さらに超音波技術は超音波洗浄機など、音の波を利用して汚れを剥がす技術や、お腹の中の胎児の状態を診断するエコー検査や、食品を型崩れなく切断する食品切断機、さらにカップ麺のふた(超音波によってふたと容器の間に熱を生み出し、容器を溶かして接着)にも利用されています。(詳しくは、2019年11月に紹介した以下の記事を参考にしてください)

医療の領域では、特に超音波技術が注目されています。2022年に発表された研究では、超音波を利用することで、より剥がれにくく、粘着力を維持する絆創膏の開発実験もあります。また、頭部にヘルメットのような機器を装着し、超音波ビームを流すことで、手の震えといった症状を緩和させるための「集束超音波治療(FUS)」といった技術の開発も進んでいます。

このように、超音波は日常生活のみならず、治療の分野でも活躍が期待されているのです。

◾超音波による投薬技術

そんな中、MITの研究者とニューヨーク州立大学バッファロー校の研究チームは、2023年3月、超音波を利用し、皮膚から直接薬物を投与するデバイスを提案する研究報告を行っています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202300066

多くの薬は通常、飲み薬(経口投薬)か、あるいは静脈注射です。最も多い飲み薬は、しかし胃腸で薬が消化され、その効果を十分に発揮することが難しい、という問題があります。

今回提案されたデバイスは、透明のシリコンベースの素材(PDMS:ポリジメチルシロキサン)でできたパッチで、皮膚にそのまま貼ることが可能です(透明のジェルのようなものです)。論文の内容は専門的で複雑なものですが、ごく簡単に言えば、この透明のパッチに痛みのない電流を流すことで超音波を投射。これにより、超音波の力で薬が体内に届く、というものです。

当然、胃腸で消化されることも、また注射のように痛みも感じることはありません。研究では豚の皮膚を利用して、ナイアシンアミド(ビタミンB3)をこのパッチを通して10分間投薬したところ、通常皮膚を通過できる量の26.2倍が体に入っていきました。また、痛みのない小型の針を皮膚に刺して投薬する、マイクロニードルと呼ばれる技術と比較しても、マイクロニードルが6時間かかるところを、超音波パッチは30分で完了しました。

研究者は、今後もさらなる改良を加えて、血流にまで到達する必要のある薬剤の投与も可能にしたいと述べています。日常的に注射をしなければならない患者にとっては、このようなパッチの研究開発は、非常に重要であると思われます。このように、超音波を利用した医療技術は発展を続けているのです。

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