剥がれない絆創膏から病気の治療までーー「超音波」の最新研究紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.9/23 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、超音波を利用した様々な方法について紹介します。

◾超音波で粘着力を回復

超音波とは一般に20kHzを超える音であり、人間の可聴域を超えたものです。当ラボでは以前、超音波を利用した汚れの洗浄(「超音波洗浄」)や、超音波による容器の接着、またネズミよけのために超音波を用いた実践を紹介しました。

超音波は他にも、様々な用途で用いられています。

例えばカナダのマギル大学の研究チームは、2022年8月に発表した論文において、超音波を利用して粘着力を制御する組織接着剤を開発したと述べています。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn8699

通常、接着剤は時間の経過とともに接着力が低下しますが、超音波を当てることで小さな気泡を発生させ粘着力を強化するもので、人間の絆創膏にも利用可能だとのことです。研究者はさらに、超音波と気泡で薬剤を人間の体内に送る、新しい薬剤投与の方法も開発可能であると考えています。

◾医療現場で用いられる超音波

超音波はすでに、医療現場でも用いられています。人間の臓器をはじめ、体の中をみることができる超音波検査は広く普及しています。ただし、検査にはジェルを体に塗ったり、技師が必要になります。

一方、MITの研究者チームは切手サイズ(縦横2センチ、厚さ3ミリ)の皮膚に貼るステッカー型のデバイスを開発しました。これを体に貼り付けることで、技師不要で最長48時間に渡って、貼った箇所の内部にある臓器の様子をモニタリングすることが可能になるとのことで、2022年7月に論文として発表しています。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo2542

このデバイスであれば、被験者はジョギング等を行っていても検査が可能です。これは、通常の検査が止まった状態であるのに比べて、動いている際の身体の様子のモニタリングも可能になることから、様々な用途が期待されています。

現状ではこのデバイスを、音波の反響を人間が観察できる画像に変換する機器とワイヤーで接続する必要があります。しかし、一定の動きが可能になるほか、研究者がワイヤレス化を目指しているため、最終的にはかなり検査が楽になり、薬局で購入して自宅で検査が可能になる将来が期待できるでしょう。

◾病気治療に利用される超音波

最後に、「集束超音波治療(FUS)」という、超音波を利用した治療方法を紹介します。集束超音波治療は、MRI等を利用し、脳の特定の場所に超音波を照射する治療方法で、手のふるえ(一部のパーキンソン病)等の解消に用いられています。

治療は頭を切開する必要がなく、頭部にヘルメットのような機器を装着し、1000本以上の超音波ビームを脳の奥深くに照射します。放射線の必要もないことなど、身体へのダメージを極力抑えた治療方法だと言えるでしょう。

また、ナショナルジオグラフィック誌が伝えるところによれば、昨今はこの集束超音波技術を利用して、脳に薬剤を投与する手法の開発が進められています。脳に薬剤を届けるためには、脳を守る役目を持つ薄い保護膜「血液脳関門」を突破する必要があります。

最新の研究では、頭蓋骨に穴を開けなくとも血液脳関門を開きつつ、脳内に薬剤を投与したり、特定のタンパク質に指示を行うことができるといいます。順調に研究が進めば、これまで治療が難しかった脳の疾患に関する治療にも期待が寄せられています。上述した超音波による気泡を利用した技術も含め、超音波を用いた技術は病気治療の可能性も秘めています。

いずれにせよ、超音波は様々な領域で展開しているのです。

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