「知」が無償化される先の世界
GAFAに代表されるプラットフォームビジネスとクラウドのおかげで、世界中の知は集積され、蓄積し、そして効率的に取り出すことが可能になってきました。それゆえ、これまで「知っている」といったことでお金を取ること、つまり「教える」「講義する」は、無償化の方向へ進んでいます。非公開や契約を取り交わしたって、デジタル社会は流出すればあっけなく制限の壁は超える。もはや「知を保持する」という価値はゼロに限りなく近づいているのです。
1、音楽ビジネスに差がついた訳
かつてはレコード、途中からCDが登場し、レンタルCDなんていうサービスが昔は大ヒットしていました。新作のCDを借りて、テープやMDに録音し、自分なりの音楽集なんかを作って、若者は青春を謳歌していたのです。
それが、途中からMP3などの「音源データ」が販売されるようになり、音楽ビジネスに置けるCDの売上は、減少していったのです。
下記のグラフは、過去10年間のオーディオレコード生産実績(日本レコード協会調べ)を示したものですが、2012年には2.1億枚だったものが、10年後の2021年では、1億枚と半減しています。
「CDを買って保有する」という消費者の在り方が変わったことが主たる要因でしょうが、それでも、この状況を「音楽業界の衰退」と見るのか、新しい「ビジネスの転換」と捉えるのかで、未来は変わっていくのです。
今、音楽業界で売れているとされるアーティストや会社の売り方は、無料での動画配信やSNSを通したショート動画でもプロモーションで再生数を稼ぎ(=インプレッション数の増加)、その後、CDに限定などの付加価値を付けることや、ライブの座席やサービスに差を付け、グッズ販売も含め、収入の在り方をCD中心から脱却しているのです。
実際、ライブ市場における年間売上(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会調べ)において、2010年に1,280億円だったものが、10年後の2019年には、3,665億円と、2.8倍にも増加しているのです。
これには、消費者の「リアルな場における体験価値にお金を払う価値がある」という認識が広まったことや、それに合わせて、業界におけるビジネスの転換を図ったことが、10年間の売上推移にあらわれているといっていいでしょう。
「知」は、保持するよりも、流通させ、それを「活かす」ところで課金する。音楽業界はこの転換をしたところのみが生き残っている。そんな印象です。
2,デジタル時代の物販ビジネス
では、デジタル時代において、これからの物販ビジネスはどう構築していけばよいでしょうか。
まず、広く知られることや、「選択肢」として「認知される」ことが大切なわけですから、デジタルの世界で自分を知ってもらう必要があります。
そこでは「コンテンツ」と「コミュニティ」の2つが必要です。例えば、ECサイトの大手ポータルは、Amazonや楽天、ヤフーなどですが、IDという形で多くの顧客を抱えており、そこに出店するだけでたくさん人の目にふれる訳です。つまり、デジタルの世界でいう「インプレッション数が高い」と場所と考えることができます。
もちろん、人の数は多いですが、自分の商品を買ってくれる人が多いかどうかはわかりません。ですから、効果的に購入意欲や行動を起こす人を探したり、保持するには多額のお金を要するのです。
ここでは、多くの場合「決済の煩わしさ=どこでもシングルサインオン」することで、消費者を掴んでおり、個人商店がそれだけ多くの人に認知するにいは一生かけても出来ないほどの人へリーチすることができるのです。
それを、ポータルは「広告料」や「利用料」あるいは、決済の実績に伴う「決済手数料」として、課金するわけです。
もちろん、大手に頼らず、SNSなどで同じ考えや共感を持つ人を集め、そこで購買する確率と意欲の高い集団で商売をするというやり方もあるわけで、デジタルの世界では、これを「コンバージョン率(CVR)が高い」というのです。先のポータルのようにインプレッション数(つまり、分母)が少なくとも、買ってくれる人がたくさんいるなら、少ない人数で売上を達成することができます。
例えばこれを単純な数値を設定して、比較してみましょう。知ってもらうための広告に一人あたり2円として、3,000円の商品をあなたは販売するショップの人だと仮定しましょう。
(1)大手ポータルで販売する場合の試算
大手ポータルに1,000万人の会員がいて、認知するのに2円かかるとしたら、広告費だけで2,000万円かかるのです。そのうちサイトを訪れてくれた人(セッション数)が1%で10万人。加えてコンバージョン率(買ってくれる人の率)がその中の2%だとすると、1,000万人×1%×2%=2000人が購入いただけるお客様。売上は2,000人×3,000円=600万円との見込みが立つわけです。でも、先の広告費を考えたら、赤字…になりますよね。人数が多いとき、広告費とのバランスを考えないと、利益は残らないのです。
(2)SNSでコミュニティ化する場合の試算
ところが、SNSで効果的に見込み客を集められていて、自分達の商品に関心が高く、フォロワーが2,000人、セッション数が80%、コンバージョン率が50%だとして計算すると、2,000人×80%×50%=800人がお客様の数、800人×3,000円だと240万円。こちらは売上は低いですが、広告費は多額にかかっていません。ただ、SNSをメンテする時間はかかりますから、それを費用としてどう積算するかにももちろんよります。
フォロワーが4,000人に増えたら、顧客は1,600人、売上は480万円になるのです。もし、あなたがSNSの運用をうまくできる人であるならば、こちらのほうが、フォロワーの伸びとあわせて売上も利益も増やしていけることでしょう。ただ、人付き合いや文章を書くのが苦手、伝えるのが無理、という人にとっては、逆に売上が低迷することにもなるので、誰もが適しているかと言うとそうではありません。
3、「商品=文字化」「自分=プロフィール」
こうしてみると、リアルからデジタルへ世界における人やモノのやり取りが増えていくほど、接触する場における在り方を転換していかなければ、対応できないことがわかります。
例えば、商品は「いいものを作る」のは当然のことですが、その商品が「伝わるような説明」が必要であり、ものづくりだけでは、ネットの世界では存在しないのと同じになってしまうのです。ですから、どうやって「相手に伝えるか=言語化」がとても重要なのです。
一方で、商品がいいか悪いかを判定する上で、レビューも大事な信頼性の指標や購買の後押しに役立っています。そこには、どんな人となりかが分かる必要があるため、「プロフィール」で相手に共感し、共鳴してもらうことが大切です。
そのため、「自分の全てを知ってもらう」ことよりも、「そこで求められている自分はなにか」を意識することはとても大切。趣味や趣向が、商品に関連しているならいいですが、関係性やむしろ評価をマイナスにするようなことは書くべきではありません。「役割を演じること」のほうが、期待されている「デジタルの中での自分」なのです。
こうしてみると、デジタル社会への対応、つまりDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、単に「リアル→デジタル」にコピーするのではなく、翻訳し、転換し、「新たな一面を見出すこと」が大切なのかもしれません。
商品を知ること(=Search:調べる)
あなたを知ること(=Revier:評判)
この組み合わせが、購買の後押しになるということです。さて、デジタル時代の物販ビジネス、どうやって描いていきますか?