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最重要指名手配犯、戦闘員A

 「やったか!?」

 思わずそう口にしながら、俺は今しがた撃った男を見た。動かない。銃を構えたままゆっくり近づいて、顔を覗き込む。眉間に穴。見開かれた目。死んでいる。間違いなく。

 「や、やった……やったぞ!」

 俺の孤独な勝ち鬨が、立体駐車場の壁に反響した。下っ端戦闘員の俺が、ヒーローを仕留めた! それもヒーロー同盟の精神的支柱の一人、医療戦隊ドクターレンジャーのリーダー、ドクターグリーンをだ!

 上官の死に混乱し、ろくに確認もせず逃げ込んだ場所がヒーロー同盟病院の駐車場とわかった時には死を覚悟したが、そこへ安堵したような顔でノコノコとこの男が現れた。反射的に射殺してみれば、この結果だ。作戦失敗をチャラにして釣りが来る!

 端末で奴の死に顔を撮影し、帝国のネットワークに流す。証拠も完璧だ。意気揚々と立ち去ろうとした俺の目は、外の街頭テレビの画面にくぎ付けになった。

 『カオス帝国、壊滅! ヒーロー同盟の電撃作戦成功!』

 よし、冷静になろう。事実確認だ。端末で本部に連絡を試みる。不通。もう一度。ノイズだけが返る。向こうのドアから若い女が入ってきた。俺と死体を見る。悲鳴。怒りの表情。確かドクターピンク。

 「お前……お前が殺したのか!」

 俺は隠していたバイクに飛び乗り、全速力で走った。後ろからは怒号と銃撃。端末で仲間に連絡を試みるが、全て遮断されていた。

 俺は理解した。俺自身の報告によって「手柄」が知れ渡り、それ故に帝国残党から見捨てられた。そりゃそうだ。帝国が潰れたなら、ヒーロー同盟の矛先はまず仲間を殺した俺に向く。そんな疫病神に誰が関わりたがる?

 ただの戦闘員の俺は、絆の強いヒーロー達の憎悪を一身に背負い込んだ最重要指名手配犯となった。

 どうすればいい。これを切り抜けられる力なんて俺にはない。だが、今すぐにその力が必要だ。そのためには、どうする。

 「帝国最悪の囚人共を……あの異常者共を解き放つしかねえ!」

【続く】

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