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「逆噴射小説大賞2020」応募作品 ライナーノーツ

 パルプ小説の冒頭800字で面白さを競い合うMEXICOの荒野の如く熱い戦い、「逆噴射小説大賞」。

 集うは、毎日プラクティスし続け、レンガを積み上げて己のモーテルを築き上げ、インターネットで呆けている奴らをぶん殴ってMEXICOに連行して回っている本物のパルプ・スリンガーたち。

 一方私は、ダニートレホにナイフで串刺しにされてその辺に転がったまま数年経過した白骨死体であり、何かの拍子に僅かに残された指の筋肉に電気だけ走って、引き金引いている現象のようなものである。

 その差は歴然、確かにそうだ。しかし、それが引き金を引かない理由になるのか? まだ弾倉に弾は残っているのに? 否である。とにかく、今回は五発撃つことを己に課し、どうにかアウト・オブ・アモーだ。ならば後は、放った弾丸の痕跡くらいは白骨化した指で示しておかねばなるまい。

1.最重要指名手配犯、戦闘員A

 まず一発目、白骨死体は考える。何せ脳は腐り落ちて久しく、ネタがなかなか浮かばない。ならば、偉大なる先達の弾痕を読み取ってみよう。というわけで、前回の「逆噴射小説大賞2019」の最終選考に残った作品を読み漁り、同時に応募要項のTIPSも読んだ。

 基本にかえってまずは冒頭に射殺。一人称。そして何かしら事態を動かせ。その要素から始めてふと頭に浮かんだのは、特撮ヒーロー番組でお馴染みの雑魚戦闘員。それがヒーローを射殺したという絵だった。

 未だ放送が続き、子供から大人まで根強い人気を誇る「スーパー戦隊シリーズ」において、戦闘員が変身前の生身のヒーローを銃撃し殺害した例が過去に二つあるという。弱者が強者を殺す。好きなシチュエーションではある。だが、これだけでは物足りない。

 よし、ならば大手柄を立てた途端に、所属組織が壊滅するというのはどうだろう。そこを思いついて、後は肉付けした形だ。

 追い詰められた小悪党が、ひたすら生にしがみ付くべく逃走と思いつきの行動を繰り返して事態を悪化させていく。ざっくりとでも道筋が見えると、どうにか銃弾の形には出来るものである。

2.花冠はミートボールを装備した

 二発目は、「命の値段が低いという理屈で死んでも再生する悪党」という妄想から着手した。私は、とりあえず思いついたことを肉付けするやり方が性に合っているようだ。最終的に、無価値ならば何もしない奴のがいい、と悪党要素は相棒に付与することとなったが。

 白骨死体が思いつくことなど、たいてい先に誰かが思いついているものだが、逆噴射先生も真新しさを重視しつつ、被りを気にしすぎるなとも仰られている。ならば、過去に摂取した作品からパクる、もとい影響を受けるのも必要なことだ。

 10代の中二病真っ盛りのころに愛読していた、オンライン残虐小説家こと狂気太郎先生の「殺人鬼探偵シリーズ」。これが「殺人鬼探偵結月ゆかり」のタイトルでやる夫スレ化され、懐かしさから追っていたのだが、主人公が人間を鈍器として振り回す場面に当時を思い出して改めて心惹かれ、オマージュさせていただくと共に、先の思いつきと組み合わせた。

 また、女性キャラを創作で扱うことに苦手意識があったので、あえてそこに挑戦すべく男女バディにした。しかし、800字で男女であることを活かしきることは出来ず、未熟を思い知るばかりである。二人の名前は完全に適当で、タイトルにした時の語感だけで決めた。

3.パートタイム・オブ・ザ・デッド

 人間、ネタがなくなると自分の生活の中からネタを探そうとすることは、割とあるのではないだろうか?

 二発目で早くも息が上がりつつあった私は、現在の自分を振り返ってみる。世間的にはいわゆる底辺に近く、年齢も重ね、未来にまともな生活を望めるのか大いに不安が残る。社会においては問題でも、創作においてはこの状況自体がエネルギーともなろう。

 しかし、エンターテインメントである以上はルサンチマンにとらわれ過ぎず、露悪趣味になってはならないとTIPSにもある。何かしら、人を楽しませる要素が必要だ。

 その二つを考えた結果、「世界中の労働者が立場を問わずに一斉に資本主義を投げだし、何かお金持ちの人たちがアタフタしないかな」という過去の妄想と、「ゾンビもの」が案外噛み合うんじゃないか、との結論に達した。出来たのがこれだ。

 自分の立場に当たる存在は、ルサンチマンに傾かないように意志をあまり示さないゾンビにしてしまい、自分とかけ離れている「社会構造の上層に立つ人」というイメージ像を主人公側に持ってきた。幸い、読んでくださった方々の反応を窺うに、陰湿になりすぎない程度にすることには成功したようだ。

4.チーム・ミス隠しブラザーズ

 さて、困った。四発目ともなると、白骨死体では限界が見えてくる。しかし、何とかして五発撃ちたい。記憶を探ってみると、かつて知人にいた若い頃は結構なワルだったという老人から聞いた話が浮かんだ。

 その昔、友人と共に無線機をもって外に繰り出し、誰かが操縦しているラジコン飛行機に妨害電波を発信して墜落させたことがあるのだという。いや、普通に犯罪ではないのかと呆れて聞いていたものだが、しかしこれはネタになる。

 そこからは、割と芋づる式に書いた。ラジコン飛行機墜落すれば、パルプ的に考えれば当然、ラジコンの持ち主が殺しに来るだろう。墜落させた奴が、何かお偉いさんの子供だったりしたらヤバそうだ。その上、銃なんか使ってしまったら、場合によってはもっとマズいことになる。

 とにかく800字の中でいかに状況を悪化させるかを念頭に置き、事態を引き起こした奴らがどう動くか考え、よりダメな方向に行動し始める。一発目でもそうだったが、こういう道筋だと私の筆は乗り始めるようだ。

 最初は、集まるのが三人ではなく二人だったり、やらかした奴らがお互い初対面だったりと、一番書き直した回数が多かったものでもある。800字の中で、自分でツッコミどころを見つけていくのは、大変なことだが必要だ。

5.クルッタウンは本日も平常運転で快晴なり

 とうとう迎えた最終日、情けないことに銃弾がない。これが白骨死体の限界なのか。しかし、何とかして五発は撃ちたい。キーボードという銃を握るも、銃弾がまるで出てこない。

 ネタ帳を覗き込めば、無節操に思いついた単語が踊るばかり。「腐敗政府ガバ・ガバメント」「強盗殺人 GO  TO 殺人キャンペーン」「子供部屋要塞化おじさん」「ギャング団・ごみ溜めのダストシューターズ」「4桁いる百合ハーレムを三分の二くらい爆殺」「倫理なき医師団、国境を越えて無慈悲な治療の限りを尽くす」「狂える重病者 パンデミック・マン」。

 ダメだ。どれ一つとっても、一つの作品に至るまでの道筋が見えない。刻一刻と迫る締め切り。白骨死体、頭蓋骨を抱える。やがて、もうこの使ってない単語を全部並べ立てたらいいんじゃないかと結論を出した。

 結果がこれだ。何も考えず、とにかく指を動かしてキーボードを打った結果である。自分としては苦し紛れに近い一発だったが、反応をくださった方々もいて、涙が零れた。白骨死体も泣くのだ。

まとめ

 こんな具合で、死体になっても撃鉄を起こし、引き金を引くことは出来た。MEXICOの荒野は大変厳しく、上を見ればキリがないほどに力作が揃い、スキの数だけ見ても圧倒的な差が横たわっている。

 されど、創作という荒野は厳格であると同時に、白骨だろうが腐乱だろうが銃弾を放つに誰の許可もいらないという懐の深い雄大さも持つものだ。

 全弾を撃ち尽くした私に、後ろ向きな悔いはない。ありがとう、逆噴射小説大賞。

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