サントラレビュー: 鎌倉殿の13人
大河ドラマに新風を吹き込む無名の星
総合評価 (5点満点): 4.6
作曲家: エバン・コール
※ 本編未視聴でのレビューになります。
ここ数年、外国人作曲家が大河ドラマを手掛けるようになっている。本作のエバン・コールは映画音楽(と関連ジャンル)では無名に近い存在ではあるものの、非凡な才能を存分に発揮した。日本で活動する作曲家ではあるものの、海外では業界の厚さ(とそれに伴う厳しい競争)ゆえに力が発揮する機会がない無名作曲家が多くいるのかもしれない。もしくは、「大河ドラマ」が持つ作品としての特別な存在感が作曲家の能力を解き放つのかは分からない。いずれにせよ、外国人作曲家を起用する動きが一過性に留まることなく、今後も続いてほしいことは確かである(ひいては日本人作曲家にもいい競争環境をもたらすだろう)。
サントラはあくまでもVol. 1であり、全体の1/3か多くて半分に過ぎない(はずだ)。しかし、一部を聴いただけでも今年のベスト10には入るであろう優れたサントラであることは間違いない(よほど豊作で傑作尽くしの1年でなければだが)。作曲家の個性としては、アニメやゲーム音楽を同じく手掛けることが多いためかベア・マクレアリーに近いものを感じる。逆に言えば、同じく大河ドラマ的な壮大なドラマシリーズである『ゲーム・オブ・スローンズ』のような、ある種の泥臭さはあまり感じない(無いわけではないのだが、小綺麗さの方が強く感じる)。
テーマ曲に耳をまず奪われる。最初の10秒間こそいわゆる大河ドラマが持つ悠久の時間を感じさせるのかと思わせながら、音楽はいきなりトップスピードに切り替わる。1分を過ぎたところで今度はギアを落とすと思わせながら、コーラスとともに再び最後まで駆け抜けるのである。『ローン・レンジャー』のテーマ曲としてもはや有名な“ウィリアム・テル: 序曲”(ロッシーニ作曲)を彷彿させる、まさに疾風怒濤というべき躍動感の塊といったスコアである。ただし、プロデューサーから色々と注文が入ったこともあり、他のスコア(例えば2曲目の”For Kamakura!”)と比較すると思う存分にはスコアが書けなかった窮屈さも感じられなくもない。本人曰く「あとプラス50秒~1分くらいあれば、より⾊々な展開も作れると思うんです」(プロデューサーからすれば色々と注文したいがために、メジャーではない作曲家を参画させたようにも思えてしまう)。
1曲ずつコメントしていくとキリがなくなってしまうのだが、31曲もある中で個人的にハズレと思う曲が実に少ない。多くのサントラでは毎回聞くほどではないスコア(筆者4段階評価で言う★1相当)が少なからず存在するのだが、失礼を承知で言えば本作にはある種の手抜きがほとんど見受けられない。本人は曰く、「(実写では)音楽が引き算で抑えられていくことが多い。情報量がたくさんある中で音楽が動きすぎているとごちゃごちゃしてしまう」。しかし、だからといって数多くのサントラに存在する蛇足のようなスコアでは決してない。「細部に神は宿る」とも言うが、音楽による映像の立て方が見事である(結局のところ、記憶に残る傑作サントラというのは抑制しても聞き応えはしっかりと残すのである)。今後リリースされるであろうVol. 2などへの期待は高まるばかりである。
参考記事
以下、各曲評価(4点満点)
※ (エ): エモーショナル、(ス): スペクタクル
おススメその1: いざ鎌倉!
おススメその2: 鎌倉殿の13人 メインテーマ
おススメその3: 大願成就
01. 鎌倉殿の13人 メインテーマ - ★★★★ (ス)
02. いざ鎌倉! - ★★★★ (ス)
03. 後に執権と呼ばれる男 - ★★★★ (エ)
04. 大願成就 - ★★★★ (エ)
05. 木漏れ陽 - ★★★
06. 佐殿!左殿! - ★★
07. 光芒一閃 - ★★★
08. 竜闘虎争 - ★★
09. 不死鳥が如く - ★★★
10. 魂の行軍 - ★★★
11. 平家にあらずんば人にあらず - ★★
12. 栄枯盛衰の鎮魂歌 - ★★
13. 安堵の息 - ★★★
14. 坂東武者 ~兵どもが思う~ - ★★★★ (ス)
15. 武士の一分 ~誇り~ - ★★
16. ただ弔う - ★★
17. 八重 - ★★★
18. 安息の息吹 - ★★
19. 国盗り狂想曲 - ★
20. 風変わりな隣人 - ★
21. 威風堂々堂々 - ★
22. 豪族の思惑 - ★★
23. 刺す客と書く - ★
24. 絶望の丘 - ★
25. 正義を問う - ★
26. ひさかたの空に思う - ★★
27. 想いうらはらに - ★★★
28. 伊豆の郷 - ★★★
29. 去った者を忘れぬ - ★★★
30. 天命の時 - ★★
31. 震天動地 - ★★
32. 鎌倉殿の13人 大河紀行1 (feat.ポール・ギルバート) - ★
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