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クリスマスを前に、アイルランドの酔いどれ詩人シェイン・マガウアンを悼む

20年とか30年前、12月頃になると毎年新たなクリスマスソングがヒットし(広瀬香美とか辛島美登里とか)、定番ソング(山下達郎、ワム!など)と合わせて街を彩っていた。最近はそんなことないんだろうか。慣習とかと関係なくみんな一斉に同じムードになり同じようなことをする、という雰囲気が弱くなっているのなら、それは好ましいことだと感じられる。

さて私は、毎年この時期になると聴きたくなる曲がある。アイルランドのバンド、ザ・ポーグス(The Pogues)の「ニューヨークの夢(Fairytale of New York))だ。

これもクリスマスソング。ただ、夢といってもここで歌われるのはどこまでもほろ苦い夢だ。そのどうしようもない状況を、やるせなさだけじゃなく「でも何とかやってこうか〜」という風に歌ってみせるのが、フロントマンのシェイン・マガウアンだ。

ポーグスは、アイルランドの伝統音楽の要素とパンクを組み合わせた「アイリッシュ・パンク」と呼ばれる独特のポジションにいた。パンクだから、激しいリズムの曲も多い。でも「ニューヨークの夢」は、彼らの曲の中でかなりおとなしめでメロディも美しい作品だ。なお、シェインとデュエットで歌っている女性シンガーはポーグスのメンバーではない。

この曲は、ただスイートなだけのクリスマスソングより一万倍ぐらい心に響いてくる。私が歳を取っただけなのかもしれないが、人生は甘くないし、でも絶望するほどでもないってことが、毎年12月にこの曲を聴くと感じられる。それは悪くない感覚だ。

今年もそろそろ「ニューヨークの夢」を聴く季節だと思っていたら、とても残念なニュースを目にした。シェイン・マガウアンが亡くなったというのだ。11月30日、65歳とのことだった。

https://www.udiscovermusic.jp/news/shane-macgowan-the-pogues-dies-at-65?amp=1

型破りなシンガーだっただけでなく、昔からひどいアル中、ヤク中だったというシェイン。そこも含めての魅力だったのかどうかは何とも言えない。ポーグスはフジロックとかを含め何度か来日公演しているが、私は生で体験することはできなかった。でもポーグスの音楽は、これからも聴き続けていく。安らかに。

〈追記〉
もしポーグスに興味を持っている方がいたら、彼らのオリジナルアルバム5枚がまとめてセットになったこちらをお勧めする。


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