【開催レポート】「マーケット視点とキャリア思考から見たスポーツの可能性」
2/9(土)に開催された「SCJ Conference 2019」では、スポーツという枠を超えて活躍する方々をお招きし、新たな知見を共に学び、考え、ゆさぶり合う場となった。
基調講演「マーケット視点とキャリア思考から見たスポーツの可能性」では、日本を代表するファンドマネージャーである藤野英人氏、キャリアデザインのトップランナーとして多くの方の転職に携わってきた森本千賀子氏、スポーツコーチングJapan代表理事の中竹竜二氏が登壇。
物事の方向性を決断する際に欠かせない俯瞰力。その力を磨くためには、いったいどこに注力する必要があるのか。その極意が余すことなく語られた。
【スピーカー】
・藤野英人氏
レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長・最高投資責任者
・森本千賀子氏
株式会社morich代表取締役
【モデレーター】
・中竹竜二
(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
(一社)スポーツコーチングジャパン代表理事
Great Coachの3つの特徴
中竹:本カンファレンスを開催するスポーツコーチングJapanは、「Good Coach to Great Coach」を趣旨として活動をしています。言い換えれば、ドメスティックなトップから世界のトップを目指すということです。日本から世界で勝つコーチであるGreat coachを支援する仕組みを作りたいと思っています。そんなGreat Coachの特徴を3つ紹介したいと思います。
1つ目は学ぶ力があること。ついついコーチは教えることにフォーカスしがちですが、世界で勝つコーチは学ぶ力が圧倒的に高い。学ぶ力が高いということは、学びに時間をかけているということです。2つ目は俯瞰力に基づいた決断力。物事に集中する一方、物事を包括的に見てその中で決断することができます。そして3つ目は自身のキャリアを考えていること。Great Coachの中でも勝ち続けるコーチ、いわゆるWinning Coachは専門であるコーチ以外に趣味や自分のフィールドを持っています。昔は「一つのことに集中しろ」と言われてきましたが、それでは勝てなくなっているのです。
今回登壇者としてお呼びしたのは、特に2つ目の「俯瞰力と決断力」に関わる方々。世界に誇る投資家で経営者の藤野さん、キャリアの話において様々な影響力を発信する森本さん。お二方の力をお借りして、Great Coachのエッセンスをともに学びたいと思います。
藤野:私は2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を立ち上げました。何をしているかというと、投資信託の運用です。投信とは一般の方々から1万円、1000万円といったそれぞれ出せるお金を集め、その集めたお金を日本の会社に投資をしています。
ひふみ投信というファンドを運用していて、規模は日本で最大。大きい会社から小さい会社に投資し、結果的にその会社が成長を促し、雇用を生み出し、税金を生み出す。そうした正の循環を作っていくのが私の仕事です。今日はよろしくお願いします。
中竹:スポーツの方々は壁があり、「自分の競技力を高めたい」「自分のチームを強くしよう」といった視点を持ちがち。ただそうした部分最適には限界があり、全体最適を壊してしまう。全体最適を考えるプロ、俯瞰することに関してプロは誰かというと投資の視点。「スポーツ全体はどうなのか」「競技全体はどうなのか」といった俯瞰した視点を引き出したいと思い、藤野さんをお呼びしました。
森本:私は新卒でリクルートに入り転職エージェントをしていました。そして老若男女4万人近いビジネスパーソンとお会いしてきました。そういう方々を採用したいスタートアップして3年目の企業から一部上場企業まで4500社近くを担当し、そのマッチングをしてきました。2017年にリクルートを卒業して、いまは株式会社morichで「All Rounder Agent」を確立して活動しています。
お客様は困っていることがたくさんあります。特にクライアント企業でいうと、中途だけでなく新卒やパート、アルバイトの採用。採用制度だけでなく、教育や人事制度の構築、場合によってはブランディングやマーケティングなど。ビジネスマッチングすることで、十分にソリューションを提供できると思い、「困った時のもりち」をブランドビジョンにやらせてもらっています。
スポーツつながりの話で言えば、いまJリーグのチェアマンを務める村井さんは、リクルート時代の上司でした。選手のセカンドキャリアやJリーグの組織をどうするかといったお話をしています。またリクルート時代には、Bリーグ立ち上げのサポートをしました。今日はとても楽しみにしていました。よろしくお願いします
中竹:僕自身、コーチディベロッパー(コーチを育てるコーチ)の仕事をしていて年に数回カンファレンスに参加します。これまでの話題は戦略論、スキル論、コミュニケーション論が主流でした。ただ最近のトピックで出てくるのが、コーチのキャリアや雇用。プロになった人そうでない人にかかわらず、世界中のコーチが何で食べていくか。お金と自分の幸せをどうしていくか。当たり前ですけど、世界中で迷っているのです。
今回のお話は、自身の活動にダイレクトに結びつく話ではないかもしれませんが、ぜひプロの投資家やプロのキャリア支援の考えを、自分に置き換えるとどう活かせるかを考えて聞いてもらえたらと思います。
投資家の俯瞰する視点
中竹:投資はスポーツに置き換えると、練習して勝つために今ない可能性に賭けることだと思いますが、様々な企業を見て「いまが投資どきだ」と根本的な見る視点はどこなのでしょう?
藤野:今はだいたい220社に投資をしています。投資をしている会社は「この会社がなくてはならない」「経営者の考え方に共感できる」ことを大事にしています。根本的には、その考えが変わらないなら原則投資し続けて、投資のウェイトで調整しています。
では、どういう会社が「良い会社」なのか。一般的にファンドマネージャーやアナリストは、「良い会社」の定義が割と明確です。ただ私は、不明確な方。なぜかというと「良い会社」の良いは、たくさんあると思っているからです。「良い」という切り口をたくさん持とうというのが私の考えです。
中竹:きっちり分析しているというよりは、ざっくりしているのですね。
藤野:ふんわりしていて、会社のタイプはバラバラ。ライバルのファンドマネージャーに「君の考えはわからない」とよく言われます。僕らは劇的に勝つことはありませんが、劇的に負けることもない。
それはなぜかというと、社会構造の中でベターのものを入れようとしているから。ITの中ではこういう会社が好きだ、といった明確な物差しがあるのです。
中竹:今のお話の中で印象深かったのが、社会構造の中でベターかどうか。まさに俯瞰した視点で、これはなかなかスポーツ界にはないですね。
藤野:結局、僕らは主観の奴隷なんです。僕ら人間は、自分の心を介してでないと物事を考えることができないので、主観の壁をなかなか抜けることができません。
投資の世界は、あらゆる市場参加者がほとんど賢くありません。神みたいにわかっている人は、いないのです。市場参加者は、すべからく全員が不完全。ところが面白いことに不完全な人が集まると、長期で見ると比較的まともな答えを出していく。ということは、自分が不完全であることをすごく意識して、あらゆる世代、男女、外国、キャリアの価値観を議論して、自分の主観の壁を壊すことができるかが大事なテーマなんです。
アインシュタインが「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことを言う」と言いましたが、これはすごい大切。いかに僕らは偏見の塊だと自覚しながら、バラバラな偏見を持つ方々とどう向き合うかが大きなテーマとしてあります。
中竹:人は不完全だと話されていた。だからこそ、学ぶことが大事なんですね。
CanではなくWillと向き合う
中竹:森本さんはこれまでに何千人と会ってキャリアを支援していく中で、マッチングというポイントはどこにありますか?
森本:何ができる(Can)ではなく何がしたい(Will)を大切にしています。この中にもエージェントの人がいると思いますが、ついつい過去の経験や持っているスキルをどう活かすかというマッチングが多い。ただ私は、人の成長は同じところの連続では踊り場がやってきて、急カーブで成長するシーンは全く違った非連続の環境に行くことだと思っています。その非連続キャリアを、どういう場所ならその人のWillを実現できるかを伺いながらマッチングしています。
中竹:森本さんが得意なのがそれを引き出すことだと思います。「私、これをやりたい」と言いながらも「本当にそれをやりたいの?」と質問したくなることもあります。また選択肢がたくさんありすぎて、わからないことも多いと思います。そういうときはどうしているのでしょう?
森本:転職エージェントとなると「これから見定められる」と思い、「こんなこともできるし、あんなこともできる」のオンパレードで、いかに評価してもらえるかを表現しようとする方が多い。ただ私が最初に言うのは、「すべて丸裸になって、良いも悪いもすべて共有させてください」と。そうでないと、次に伸びる会社のイメージができないと伝えています。
そうは言っても最初から丸裸はできないので、私の自己開示からするようにしています。事前に私のホームページを見てくださいと伝えますが、そこでは生まれたときから現在に至るまで、すべてフルオープンにしている。それを読んでお越しになるので、「ここまでオープンにしていいんだ」というマインドマップになっていらっしゃると思います。
サードプレイスで新たな選択肢を増やす
森本:キャリアって仕事だけでなく、人生丸ごとだと思っています。これから人生100年時代がくると言われ、また49%がAIやロボットに置き換わると言われているように、選択肢を持てているかが大事だと思う。言い換えれば、本業以外のサードプレイスを持てているかがすごく大事だと思うのです。藤野さんはそういうところをたくさん持っていますよね。
藤野:ふらふらできる場所ってすごく大切なんです。例えば私は、日本で最大規模のピアノのサークルの主催をしています。お金をとっていませんが北海道から沖縄まで支部があって、そこで仲間を持ってます。
人生の中で一番誇れることは何かというと、ツイピの会(ツイッターピアノの会)を作って、その会で30組が結婚したことです。3カップル世の中に作ったら天国にいけるそうなので、30カップル作った私は天国へのフリーパスをもらえたなと(笑)。
例えば「このバッハの曲は、この指の角度で弾くといい」といった話は一般的にはおかしいと思われますが、ここの会では目を輝かして聞いてくれる人がたくさんいる。それって心が繋がり、その人たちにとってのサードプレイスなんです。そこに心理的安全性があって、男女の延長線として結婚に繋がったと思います。
森本:キャリアも少し前までは、一つの分野をずっと極める方が価値あると言われましたが、今は転職していない人の方がリスクがあると言われています。いろんなところに、自分の価値観を刺激する場所を持っていたらと思います。
特におすすめなのはNPOの活動です。いまNPOの理事をいくつかさせてもらっていますが、事業会社と違う経営ロジックを学ぶことができます。例えば報酬や自分の評価軸は全く違います。
中竹: 2つの視点でマルチにやるとパフォーマンスが上がると言われています。
1つはアカデミックな学者もそうで、ノーベル賞を取るような人は分野が4つくらいに広がっています。物理をやって、哲学をやって、言語をやって、と。なぜなら圧倒的な情報力によって、俯瞰して物事を見ることができるのです。
また『GRIT』という本の中でウエストポイント米陸軍の傾向を見ると、サードプレイスを目的化するとよくないことがわかっています。「最終的に自分は幸せになるんだ」といった、最終目的に応じた選択肢をどれだけ持っているかが大切なんです。
いまの森本さんのお話を聞いてサードプレイスを持つことをどっぷり目的化すると、うまくいかなかった時に大打撃となります。大事なのは俯瞰して、そもそもの目的は何かを考え、自分のやることを選択していくこと。なんとなく場を増やそうとしても、同じサイクルの繰り返しになってしまうのです。
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