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東工大の理系院生として普通の就活をしていた8年前の自分に伝えたいこと③

前回「理系の職種」に焦点を当てながら、修士と博士の就職率の違いについてお話しさせて頂きました。今回は少しマクロな視点に立ち、世界と比較した日本の技術レベルについてお話していきたいと思っています。

Vol.3 日本は技術先進国?

「技術先進国」との呼び声が高い日本ですが、近年GAFA、BATHに象徴されるアメリカ、中国のIT企業に遅れを取っている印象を受けます。
実際、日本の技術力は高いのか。その点について書いてみたいと思います。

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①世界トップクラスの研究開発投資比率

各国が「どれほど研究開発に投資をしているのか」を測る指標として、
研究開発費用をGDPで割ったものを使用するケースがあります。

GDP(国内総生産)は日本が年間で生み出す価値全体を指しており、企業に例えるなら「売上」と考えてもらえるとわかりやすいと思います。つまり、この指標は「売上(=GDP)のうち、どの程度研究開発投資にまわしているか」を表しているため、国の研究開発投資に対する姿勢を測る指標として使われています。

日本はどれほど投資しているのかというと、以下のグラフが表す通り、世界トップクラスの4%弱を投資しています。


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出所:文部科学省 科学技術・学術政策研究所、「科学技術指標2016」

この比率は過去40年を振り返っても増加傾向にあります。国の今後を占う経済財政諮問会議にて、安倍首相が「今後の発展のためには官民一体となって研究開発をしていかねばなりません」と発言していることからも、それは間違いありません。

つまり、各国と比較しても、日本は「技術への投資を重視している国」であることは間違いありません。

②世界ワーストクラスの研究開発効率

一方で、「研究開発への投資がどれほど事業に結びついているのか」を測る指標として、研究開発効率という指標があります。

研究開発効率は、直近5年間の営業利益の平均を、さらに5年前の研究開発費用の平均で割った値で表すことが一般的です。こちらは研究開発投資をすると平均5年後に利益創出に活きてくるだろうという前提に立って算出されています(「研究への投資は数10年というスパンで測ることも短すぎる」などの意見もあることは否定出来ませんが…)。この指標で主要先進国と日本を比較した際に、日本は1990年後半以降ワーストクラスになっています。

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出所:内閣府「平成27年度 年次経済財政報告」「世界経済の潮流 2012年」

①の話と合わせると、国としては一生懸命投資をしているのにも関わらず、利益を増やせていない状態がこの20年続いているのが、日本の現状です。

こうした事実を受け止め、経産省がTLO(技術移転機関)という産学の接続強化を目的にした機関を設置していますが、研究開発効率の改善は見られていないのが事実です。

結果として、研究機関は民間、大学問わず財政面で厳しくなっています。
この影響を誰が一番受けているか?

これがポスドク問題の一つの要因となっている「奨学金」です。

アメリカでは博士に進学をした場合、授業料を大学側が負担することが多く、さらにPhD(アメリカの博士)まで進むと月額で手当が出るのが一般的です。

日本の研究開発効率が低い分、給与が約束されている民間ではどうしても積極的に給与削減を行うのは困難です。結果として、若き研究者の卵たちに支払われる「奨学金」が減らされているということです。

研究活動は投資とみなされるため、それが事業に還元されない限り、永続的に研究開発だけをし続けることは難しいのが資本主義のルールです。

①でお伝えした事実に加えて、日本は「特許数」が中国、アメリカに次いで3位であり、人口比、GDP比で見ても高い技術力を保有しているということは間違いないと思います。しかし、その技術を「換金化すること」に苦戦をしている。これが日本の課題です。

これが克服されない限り、研究者への投資を維持することも、研究者育成に対する投資を下げることも、せざるを得ない状況になると思います。
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今回は少しマクロな視点でのお話となってしまいましたが、就職活動に例えるならば、日本を企業に置き換えて、研究者への投資姿勢を測る観点にして頂くと良いかと思っています。

 ・売上のうちどの程度の金額を研究開発投資に充てているのか?
 ・その投資は会社の利益貢献につながっているのか?

これらを会社を見る観点に加えて頂くと、会社の見え方が変わると思います。もし研究者として今後世界と渡り合っていくという気概を持っているならば、ぜひこの観点を身に着けていただきたいです。創りたいものを追求するだけなく、ビジネス視点で市場ニーズを捉え、必要とされる研究開発を志す人材が増えてくれると良いなと思っています。


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