GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係10~主体的に学習に取り組む態度の見取り方~
《読了12分》
前回は、GIGAスクール構想でのタブレット端末活用に関して、「多様な学び方」出現の可能性をいくつか紹介しました。また、タブレット端末導入後、「教師の指示で好ましくない例」として、教師からの一方的な制限や禁止する指導について述べました。さらに、「もしかすると有効な取組になる可能性がある事柄」として、子ども達が様々な使い方や裏技を発見することを教師が参考にしたり、生徒がタブレット端末の使い方を主導したりすることで、教師と生徒が「共に学ぶ」環境を学校内に創出することが理想であると述べました。
今回は「主体的に学習に取り組む態度の見取り方」について述べたいと思います。
「主体的に学習に取り組む態度」再考
しかしながら、中学校では今年度から全面実施となる新学習指導要領での新3観点「知識・技能」「思考・判断・表現」そして、この「主体的に学習に取り組む態度」は、まだ現場での実践が進んでいると言えず、観点の捉え方、考え方は明らかになっているものの、具体的な見取り方について言及している実践研究の報告はまだ少ない状況です。
ここで、「主体的に学習に取り組む態度」について確認します。
「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立教育政策研究所)によると、「主体的に学習に取り組む態度」観点については、次の図のようなイメージ図で示されています。
① 知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面
② ①の粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しようとする側面
という2つの側面を評価することが求められており、①、②双方の側面を一体的に見取ることも想定する。
としています。
ここからは、私見です。
「①知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面」については、従来の評価方法が適用できると考えます。つまり、従来の旧「関心・意欲・態度」観点に相当するような授業のノート、ワークシートの記述内容から、論理的な記述ができているかどうか。学習したことを自分なりに要約したり、要点を抽出したりするか。できなかった問題などについて、何度も繰り返し練習しているか。(練習ノートなど)別法など、自分なりの解き方を試みていたり、ポイントをメモしたりしているか。などが考えられます。
*当然ながら、ワークやノートの「提出状況だけで」評価しません。
しかし、「②粘り強い取組を行う中で,自らの学習を調整しようとする側面のうち「自らの学習を調整しようとする側面」については、少しわかりにくい表現です。
ここで、学習指導要領改訂前のワーキンググループの資料や小学校の学習指導要領を見てみると、『新学習指導要領における見方・考え方を働かせて育む資質・能力のうち,「学びに向かう人間性等」(評価観点での「主体的に学習に取り組む態度」)では「いわゆる『メタ認知』に関するもの」が挙げられている』(文部科学省2016)。とあります。
メタ認知のこと
「メタ認知」という用語が出てきました。
本稿でも何度か登場したこの言葉の意味と関連する言葉について、改めて説明しながら整理します。
メタ認知は心理学用語です。ただし、私は心理学の専門家ではありません。以下掲載するのは、教育心理学上の文献や研究者の講座、論文から得た知識だということをお断りします。
辞書的な意味としては、「メタ認知=metacognition」という単語を分解すると、メタ…meta(高次な、一段上の)cognition(認知)であり、定義としては「自分のことを一段高い場所から見ている自分」「客観的自己の獲得」と述べられています。
さらに、メタ認知には、活動的要素である「メタ認知的活動」と知識的要素「メタ認知的知識」があります。
「メタ認知的活動」には、「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」があります。
「メタ認知的活動」
「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」の具体的な例として、人に何かを説明するという認知活動を例にすると、「私の説明する速さは適切だろうか」「聴いている人の反応はどうだろうか」と相手の反応(様子)を見るのが「メタ認知的モニタリング」です。そして、モニタリングの結果として、「説明が速すぎるようだから、少しゆっくり話そう」とか「理解して頷く人が少ないから、別のたとえ話で説明しよう」などと、モニタリングの結果から修正するのが「メタ認知的コントロール」です。
「メタ認知的知識」
「メタ認知的知識」は自分の短所や長所など「自分自身について知っている知識」のことを指すことが多いです。「話すのは苦手だが、人の話を聞くのが得意だ」とか「つまずくとすぐにマイナス思考になってしまう」といった、自分で把握して知識として理解できることをいいます。つまり、自分自身を分析して得た知識です。
しかしながら、この「メタ認知的知識」は常に正しいとは限りません。
「自分は自分のことを一番知っているはずなのに、実は(自分のことを)よく知らない」とよく言いますね。
これと同じように、子供たちが学習に対してもっているメタ認知的知識は、常に正しいとは限りません。よくある例として、ある学習を終えた後、生徒Aに「この学習を理解できましたか」という質問をすると「理解できた」と答えました。けれども、生徒Aにその学習に関するテストを行うと不正解が多い。というように、自分の「メタ認知的知識」が正確で無かったり、必要なメタ認知的知識を持っていなかったりすると、不適切なメタ認知的活動が遂行される可能性があります。
「メタ認知的知識」は、日常の授業での教師による声かけやアドバイスなどの形成的評価で少しずつ習得されることが多いと言われます。また、先生との教育相談などでの助言(アドバイス)から得られることも多いと言われます。ただし、教師の「~しなさい」というような強制する指導では無く、子どもの気づきを与える言葉が重要と言われています。
教育学関連エビデンスとしては、知能を越えてメタ認知の方が学力に与える影響力をおよぼす可能性があることや指導や訓練で高めることができるとの報告もあります。(ohtani、2018)
ここまでを、生徒の姿に置き換えてみます。
生徒の発言や行動に見られるメタ認知
メタ認知できている生徒の例
・「わかった!という自分に気づく自分(認知の認知)」
・「自分は、二次方程式が苦手だけれど、図形は好きだ」
・学習に関するアンケートの設問で「学習内容をしっかり理解できていますか?」という質問に対して→できているのに謙虚に『あまりできていない』と答える
メタ認知ができていない生徒の例→メタ認知的知識が不足している
・特に意識もせず、間違えても何も考えない。
・何も意識せず、作業のように勉強する。
・学習に関するアンケートの設問で「学習内容をしっかり理解できていますか?」という質問に対して→教師から見てできていないのに『できている』というように答える。(自尊心の方が作用してる)
「自らの学習を調整しようとする側面」とメタ認知
さらに「メタ認知的知識」には、例えば、「課題探究的な学習の方法についての指導」や「課題に取り組む方法を教えること」「理解しやすいノートの取り方」など「学ぶ方法」も含まれます。
「メタ認知」は、メタ認知的知識を元に「自分のことをもう一人の自分が解決の過程を振り返ること」で「新たな課題にも、解決の過程を適用しようとすると上手くいくかもしれない」ことに気づくことに意義があります。これが定着すると学習の動機付けが高まり「自らの学習を調整しようとする」メタ認知的活動ができるようになります。
「自らの学習を調整しようとする」をどのように見取るかは、例えば、ある学習事項に関する自己評価の記述文章に、自分の学習を意識した記述が見られるかどうかを読み取る。「これまでは◯◯と考えていたけれども、今回の授業で△△ということに気づいた」「●●が苦手だったが、△△の方法でできるようになった。」「次の学習でも、今回の△△の方法で取り組みたい」などの記述が自然な形で見取ることができると一定以上の「自らの学習を調整しようとする」ことができると捉えてよいと考えられます。
これで、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係10~主体的に学習に取り組む態度の見取り方~を終わります。
お読みいただきありがとうございます。
今回は、「主体的に学習に取り組む態度」をメタ認知の視点で捉えてみました。
特に、「自らの学習を調整しようとする」という生徒自身の「正しいメタ認知的知識に基づいたメタ認知モニタリングとメタ認知活動を行う」ことが要点だと思います。さらに、生徒が正しいメタ認知的知識を習得するための教師の形成的評価や教育相談支援などの重要性について述べました。
次回は、タブレット端末の活用のなかで、どのように「主体的に学習に取り組む態度」を育み、見取るかについて述べようと思います。
というわけで、次回は、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係11~1人1台端末で育む主体的に学習に取り組む態度~について述べます。
【参考HP】
「メタ認知」と学び(ベネッセ教育委研究所HP特集)岩手大学教育学部 准教授 久坂 哲也https://berd.benesse.jp/special/manabucolumn/classmake19.php
【引用文献】*上記久坂先生のHP引用をそのまま掲載しております
国立教育政策研究所(2020)「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 Retrieved from https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shidousiryou.html
文部科学省(2017)小学校学習指導要領解説総則編 東洋館出版社
Ohtani, K., & Hisasaka, T.(2018)Beyond intelligence: a meta-analytic review of the relationship among metacognition, intelligence, and academic performance. Metacognition and Learning, 13:179-212.
Veenman, M. V. J.(2008)Giftedness: Predicting the speed of expertise acquisition by intellectual ability and metacognitive skillfulness of novices. In M. F. Shaughnessy, M. V. J. Veenman, & C. Kleyn-Kennedy(Eds.), Meta-cognition: A recent review of research, theory and perspectives(pp.207-220). Hauppage: Nova Science Publishers.
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