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子どもが主体性を身につけるための自己効力感を育むために~「学びの再構築」につながる理科授業~

 私は、現在中学校の校長として勤務しています。
 校長職の傍ら、中学理科の実践研究にも携わっています。
 実践研究の難しさは、授業のコマの中で、いかに自然事象の不思議さに気づかせ、多少の困難があっても主体的に課題解決できる生徒を育成するために、教師の指導法はどうあるべきかを模索する点です。
 公立学校教育現場は、学習指導要領をはじめとする制約があります。そのような制約がある中で、理科教師であれば、何とか「理科が好きな生徒」を育てたいのです。
 関連して、学習評価観点のひとつである「主体的に学習に取り組む態度」にあるように、生徒の主体性を促すことが大切であるのに、主体性を促す指導の在り方については明確な定義はありません。

 そのヒントを探し求めて、教育関係の著作や学会論文を随分読みました。
 ところが、そもそも「主体的とは何か」に言及した著作や論文は意外と少ないことに気づきました。

 そんな折、「私はこうして勉強にハマった」(小林さやか著)に偶然出会いました。

 著者の小林さやかさんは「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話(坪田信貴著)」の主人公です。
 本書は、単なる成績を上げるための勉強法を述べたのでは無く、小林さん本人がどのようにモチベーション(動機)を高めたのか、そしてそれを維持し、よりよい自分になるための方法について大変わかりやすく記述されています。

 余談ですが、過日紀伊國屋書店札幌本店で、小林さやかさんの「私はこうして勉強にハマった」の出版記念として、トークショーとサイン会が開催されました。
 サイン会で、私はおこがましくも、さやかさんに「中学校の学習指導要領の目的(主体的に学ぶ生徒の育成)は大変素晴らしいのだけれど、現場では、そもそも、そのために必要な動機づけや「期待・価値理論」について語られる場面が無いのです。ましてや心理学者アルバート・バンデューラの「自己効力感」についての認知も低いのです」とお話したところ、彼女もまさにこの点について同意していただいたことが嬉しかったのです。

 本題に戻ります。
 「私はこうして勉強にハマった」を読んでみると、理科実践研究に役立つ部分が多くありました。そこで、今回は、特に実践研究の経験が浅い若手の理科の先生に向けて、以下要旨を記述いたします。

 小林さんは、人が何かを行う際の動機付けは、「期待(外発的動機付け)」と「価値(内発的動機付け)」の和によって決まるとしています。そして、「期待」と「価値」の説明をしています。「期待」は、「自分にもできる」という主観的な自信等。また、「価値」は、問題に正しく答えた時に得られる達成感としています。

 これを私たちの理科授業に置き換えると、「期待」を促す必要があるのは、授業導入から課題を設定する場面だと考えます。例えば、身近な自然事象に見られる不思議さを紹介し、生徒に「なぜ?」という問いを生じさせます。そして、生徒はその不思議さの原因や理由を知りたいと思います。
 このあと、生徒は具体的な解決すべき課題を設定し、課題解決するための観察・実験を考えます。そして、考える際に「これは自分にもできる」という自信があれば「期待」は高まると考えます。

 では、この「期待」の裏付けとなる「自分にもできる」という自信を生じさせるにはどうすればよいのでしょうか。
 小林さんは、これを自分自身で育むことができる「自己効力感」として説明しています。そして、自己効力感の育む方法として、四つの方法を紹介しています。
①他者からの具体的なアドバイスを参考にすること(言語的説得)。
②日々の小さな目標を達成する経験を積むこと(過去の成功体験)。
③自分が元気になれるものを知っていること(情緒的喚起)。
④自分が憧れる人物の行動を真似してみたり、参考にしたりすること(代理経験)。
です。
 小林さん自身も、これを積み重ねることで自己効力感を高めることができたとしています。

 また、「成功体験」の重要性に触れています。それは、成功体験を得るためには、失敗が許される環境が必要である。と述べています。

 これも、理科授業に置き換えてみます。例えば、中学1年生などまだ、不慣れな生徒の場合には、課題解決に向けた観察・実験に取り組む場合、上手くいかなかったり、思い通りの結果にならなかったりする場合があります。この場合に、教師がそれは失敗ではないことをきちんと伝える必要があります。その上で、具体的な助言を行うことが大切だと思います。例えば、器具操作の留意点の確認方法やより正確な測定方法等を伝え、もう一度やってみることを促すことです。(ここで気を付けたいのは方法の伝授であり、理想的な実験結果を伝えることではありません。)

 このことは、自己効力感を育む要素である①言語的説得にもつながります。このような授業を通した成功体験を積み重ねが、失敗を恐れず、納得する結果を得るまで試行錯誤する生徒の育みにつながると考えます。
 そして、このような授業の在り方が結果として子どもが主体的に学ぶ授業になると考えるのです。
 私の所属する研究団体の研究主題「学びの再構築を通して、自然との共生に向かう理科教育」は、「生徒が主体的に学ぶ」ことを前提としています。
 「再構築」について、主題解説には「知識と知識を結び付けて、自然の事象に重ね合わせて理解し、多面的・総合的に捉えたりする」あるいは、「未知の問題に直面しても解決に向かうことができるように、自らの学び方を更新していく必要がある」とあります。
 このような学びの過程には、「自分にもできる」という期待を高めた生徒が、試行錯誤しながらも主体的に学ぶ姿があります。

 ということで、思いがけず出会った、小林さやかさんの「私はこうして勉強にハマった」に、これまで実践研究でのモヤモヤとした課題を解決する方途が見つかったことが嬉しかったのです。




 以下、告知として。

 今年は、「第62回北海道中学校理科教育研究会・函館大会」が10月18日(金)に開催されます。大会副主題「『学びの過程』に着目し、資質・能力を系統的に育む理科学習」のもと深堀中学校において三つの公開授業とブース発表、実践発表が行われます。研究主題が示す子どもの姿を具体的な姿として見いだすとともに、その姿に至る学びの過程について研究を深めていきたいと考えています。
 また、来年(令和7年)8月6日(水)~8日(金)に「第72回全国中学校理科教育研究会北海道大会」が開催されます。今年から、具体的な準備が始まりますが、北海道の中学理科教師がチームとして結集し、全国の先生方を温かく迎えることができるよう、御協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

2024.08.30 三浦 雅美

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