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GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係1 ~これからの学びが変わる~

《読了9分》 

  まず、次の文章をご一読ください。

 「今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく、また急速に変化しており、予測が困難な時代となっている。」(中略)
 「このような時代にあって、学校教育には、子供たちが様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。」
(出典:平成29年告示の学習指導要領の第1章総説1改訂の経緯及び基本方針(1))

 私が、最初にこれを読んだのは、平成27年12月の文部科学省中教審ワーキンググループの検討段階でした。そもそも新学習指導要領は2030年の日本の未来を想定して策定しています。

 平成27年(2015年)段階で上記文章を読んでも、実感も無くどこか空想の世界だと感じていました。

 告示当時はCOVID-19発生以前の状況でしたので、「技術革新」の姿はSociety5.0の目指す高度ICT社会(5G、VR、自動運転)でした。「社会構造や雇用環境」の姿は、多様性(ダイバーシティ、LGBT、マイノリティーとの共存共栄)でしょうか。

 しかし、告示から僅かに3年後のCOVID-19発生以来、「技術革新」と「社会構造や雇用環境」がより急激にしかもリアリティをもって迫りつつある気がするのです。
 余談ながら、私は学習指導要領という無味乾燥な政府刊行物が、これほどまでに「文学的要素(メタファー)を包含する預言書」に見えたことはありません。

 もはやAfter COVID-19ではなく「With COVID-19」でのニュー・ノーマル時代を迎えていると言われています。さらには、VUCA社会への対応力がより強く求められています。

*VUCA:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

 教育現場においても、「新しい生活様式に準じた学校生活の中のニュー・ノーマル」としての活動前後の手洗い指導、距離を保つ指導、マスクを取らないスピーチや交流活動指導、身体接触を最小限にする体育指導、発声に留意した音楽指導が求められています。
 さらには、GIGAスクール構想による一人一台端末所有も前倒しで令和3年度に随時開始されます。前述した「技術革新」のうち、一人一台端末が学校授業にどのような変革をもたらすかは未知数です。しかし、間違いなく情報機器が文房具のように実装される時代がすぐそばに来ています。今後、端末を活用することで場所を選ばない多様な学習方法が可能になります。

 AIが教師の授業支援ができるようになり(例:Googleスプレッドシートによる小テスト実施と自動採点自動返却など)、ちがう場所をネットワークでつなぐインタラクティブな授業が考案されて学校現場に導入されてくると「学校という物理的空間の意義」も問われるかもしれません。

COVID-19は期せずして、「急速な変化」と「予測が困難な時代」を乗り越える子どもを育む最大の機会を教育の現場にも明示しているのかもしれません。 

 次に、新学習指導要領のエッセンスについて述べます。
 最大の目玉は、これまでの「知識定着型の学習(コンテンツベース)」から「学習方略、知識活用型の学習(コンピテンシーベース)」への大転換です。

 今回の学習指導要領改訂の目指す方向は以下の通りです。
「学習指導要領等が、学校、家庭、地域の関係者が幅広く共有し活用できる「学びの地図」としての役割を果たすことができるようにする」として、以下の6点を重視しています。
①「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
②「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)
「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
⑤「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)

*強調文字部は、GIGAスクール構想による「一人一台端末」の活用によって、より容易に実現できる可能性がある部分として筆者が示しています。

 特に、育成を目指す新しい時代の資質・能力として、「何を知っていて何ができるか(知識・技能)」「知っていること・できることをどのように使うか(思考力・判断力・表現力)」そして「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう人間性)」という3つの柱を掲げています。

 これまで、私どもの学校教育の現場では、どれだけの知識を理解しているか(あるいは暗記しているか)という「知識の量(内容(コンテンツベース))」の学習指導が行われてきた面が合ったと思います。
 しかし、これからは、学んだ知識を「どのように活用するか」というコンピテンシー(活用能力)が重視されることになります。これは、大きな変更点です。

 少しだけ、くだけたものの言い方をしてみます。
 「何を知っていて何ができるか(知識・技能)」のうち、「『何を知っていて』で文章を止めて欲しい。そうすれば、身についた知識だけならテストで測定しやすいのになぁ」という先生、いませんか。
 あるいは、「知っていること・できることをどのように使うか(思考力・判断力・表現力)」のうち、「『知っていること・できること』で文章を止めて欲しい。そうすれば、思考力を測定する記述式のテストを作れるのになぁ」という先生、いませんか。
 さらには、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう人間性)」を読んで、「私の授業で生徒が『よりよい人生を送る』ことができるなら、とっくに私の人生はバラ色なのになぁ」という先生は(まさか)いませんね。

「見方・考え方」を働かせて「資質・能力」を育む

 学習指導要領の各教科解説の「第1節 教科の目標」の文言に全教科に共通する文脈があります。「○○科の(的な)見方・考え方を働かせ、~(各教科の特性に関する文言)、資質・能力を育成する」という共通の文脈の後に教科全体の資質・能力の記述が続いています。
 ここでは、理科の例を掲載しますが、各教科においては今一度「学習指導要領各教科の解説」をご確認ください。


理科の場合は「自然の事物・現象に関わり,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察,実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す」とあり、
(1) 自然の事物・現象についての理解を深め,科学的に探究するために必要な観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2) 観察,実験などを行い,科学的に探究する力を養う。
(3) 自然の事物・現象に進んで関わり,科学的に探究しようとする態度を養う。
以上の3点を理科全体としての目標としての資質・能力としています。

 なぜ、全教科共通の文脈なのか。既述した「新しい時代の資質・能力」の3つの柱(「何を知っていて何ができるか(知識・技能)」「知っていること・できることをどのように使うか(思考力・判断力・表現力)」そして「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう人間性)」)に関連しています。
 「各教科特有の見方・考え方」を働かせて「育まれた資質・能力」は3つの柱に準じて教科特有の文言を使用しつつも次の「3つの評価観点」に整理されています。

・知識・技能
・思考・判断・表現
・主体的に学習に取り組む態度(感性・思いやりなどは個人内評価)

 これだけを見ると、「観点だけ見ると同じ」「どの教科なのかわからない」といった声が聞こえてきそうです。評価は学習活動の結果だと考えると、教科の独自性や特性が表出するのは何でしょうか。

 それは「授業」です。

 授業で「教科特有の見方・考え方を働かせる」ような授業展開をして、「共通観点の資質・能力」を育むことに大きな意義があると思います。
というのも、これまで学校現場(特に中学校現場)では、教科ごとのカテゴリ意識が強くありました。(筆者はこれを「個人商店型授業」と呼んでいます)
 曰く「理科は○○だからね」「音楽科は△△でしょう」この一言で、知らず知らずのうちに教科の壁を作ってしまう傾向が多かれ少なかれあると思うのです。
 同じ子どもを教えているのに、教科授業を通した子どもの姿について議論が深まることは無かった気がします。
 それが、「理科の見方には○○という方法で思考力を育むのね。音楽科は、理科とは違う見方だけれど、特に「音の性質」では知識・技能観点は似ているのね」とか「そういえば△組の◇さんは、この部分理科と同じだって言ってたわ」という「見方・考え方」あるいは「共通観点の資質・能力」をテーマにした教科横断的な議論が成立する可能性が出てきます。

 さて、前置きが長くなりましたが、法的拘束力がある学習指導要領に基づく教育を行う公立学校としては、どうしても理解しておかねばならない内容でした。

 以上、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関連1~これからの学びが変わる~を終わります。お読みいただきありがとうございます。


 GIGAスクール構想と新学習指導要領の関連2では、「ある中学教師の悩み」という記事です。


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