歯磨撫子(マウスウォッシュ)の科学(2)口ではなくて息が臭い

前回は歯磨撫子というマウスウォッシュの重曹(炭酸水素ナトリウム)の効果を調べました。

今回は2つ目の主要成分である「チャ葉エキス」の効果を見てみます。

歯磨撫子では、「重曹パワーがこびりついたお口の汚れ(タンパク質)やニオイ菌を分解&お茶エキスで固めて、お口すっきり!固まりがたくさん出るほどニオってるかも?!」と宣伝されていますが、そもそもなぜタンパク質がお口の汚れ、口臭の原因なのでしょうか。

厳密には、タンパク質そのものが臭いのではなくて、口の中のバクテリアがタンパク質を食べる(分解する)時に臭い(揮発性の硫黄化合物)が発生します。また、口臭の原因のほとんどは、バクテリアや食事をした時のタンパク質が一緒に固まって舌の表面できる舌苔(したこけ)です。ベロの表面が白や茶色になっていると、舌苔がある証拠です。

従って、バクテリアのエサとなるタンパク質を口の中から除去するのは、確かに口臭抑制に効果がありそうです。

では、チャ葉エキスの効果を見ていきましょう。

チャ葉エキスはその名の通り、お茶の抽出成分で、具体的にはツバキ科植物チャノキの葉の抽出成分になります。チャ葉エキスの主要成分はEGCG(エピガロカテキンガレート、別名は没食子酸エピガロカテキン)です[参考1参考2]。

EGCGは下のような構造をしています(画像は参考2のwikipediaから引用)。

EGCG(エピガロカテキンガレート)

六角形のベンゼン環とOHで示されているヒドロキシ基が多くあるので、タンパク質中の様々なアミノ酸残基と結合できるような印象を受けました。論文を検索してみたところ、確かにEGCGは様々なタンパク質と結合できるとされており[参考3参考4]、特に唾液中に多く含まれるPRP(プロリンリッチプロテイン)というタンパク質と結合して、凝集させる(タンパク質を固める作用がある)ことが分かりました[参考5参考6]。

従って、確かに歯磨撫子のマウスウォッシュに含まれているチャ葉エキスには、口の中のタンパク質を固める効果があるようです。ただし、食事をした時に口の中に残るタンパク質だけでなく、唾液由来のタンパク質(PRP)も凝縮させるため、たとえ歯磨撫子を使ったときに茶色の塊がたくさん出てきたとしても、それは唾液の量が多かったために、PRPが凝縮したものかもしれません(口臭を抑えるという意味では、食べかすなどに由来するタンパク質を固めて除去しないと意味がないと考えられます)。

ちなみに宗教面でも、口臭は悪とされていたようです。

例えば、仏教では、お釈迦様が、僧侶たちの口が臭かったので、歯磨きをするように説いたと仏典に書かれています。キリスト教やイスラム教でも口臭について何か記述がないかと探したのですが、特にありませんでした。もしかしたら、お釈迦様は他の宗教の人々よりもニオイに敏感だったのかもしれません。

おまけ

口臭は英語でhalitosisまたはmalodour、bad breathです。筆者は初めはmouth smellかと思ったのですが、bad breath(口が臭いのではなくて、息が臭い)だそうです。

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