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旧石器時代の人肉食は、儀式的な意味合いが強かったかもしれない

5年前の2017年の論文だが、旧石器時代に存在した類人猿(Hominin、ホミニン)の肉のカロリーを計算し、この時代に見られた類人猿同士のカニバリズム(食人行為)は、栄養摂取が目的ではなく、文化的・儀式的な意味合いが強かった可能性を示す論文を見つけた。旧石器時代の類人猿の肉のカロリーは、当時狩猟されていた大型動物(マンモスやバイソン、牛など)に比べて低く、少なくともエネルギー摂取の意味合いでは、同族の肉を食べるメリットは小さい。

Cole, J. Assessing the calorific significance of episodes of human cannibalism in the Palaeolithic. Sci Rep 7, 44707 (2017).

論文の表5に示されているように、ホモ・サピエンスの筋肉のカロリーは1,300 Cal/kgと他の動物に比べて低いわけではない。しかし、全体重に占める筋肉の割合(筋肉率)を計算すると、他のホモ・サピエンスの筋肉率は38%であり、他の動物の筋肉率(60 ~ 80%)に比べると、低い。この筋肉量の低さがホモ・サピエンス1個体を食べた時に得られるカロリーの相対的な低さの原因である。

本論文では、確かに類人猿は小さな動物(魚や鳥)に比べると、食べたときに得られるカロリーは多い。しかし、旧石器時代の類人猿は一定の知的能力を持ち、敵を攻撃したり、敵から逃げたりできたので、食料として狩猟するのに手間がかかる同族の類人猿をターゲットにするよりも、得られるカロリーの量が多いマンモスなどを狩猟する方が合理的であると結論付けている。この結論から、旧石器時代の類人猿のカニバリズムは、エネルギーを得るため(空腹を満たすため)の行為ではなく、文化的・儀式的な意味合いで行われていた可能性が高いと主張していている。

論文を読んだ後に知ったが、著者であるJames Coleは本研究で2018年のイグ・ノーベル賞(栄養学)を受賞している。

神話・宗教においてもカニバリズムの記述がみられる。

例えば、旧約聖書では神に逆らい続けた場合、その罰として。自分の子供の肉を食べることになると書かれている(レビ記26章)。また、新約聖書では、いわゆる「最後の晩餐」において、イエス・キリストが自らの肉と血を弟子たちに食すように指示しているが、これはあくまでも例えであり、肉に見たててパンを、血に見たててワインを食したと考えられている。

ヒトの肉を食べることで不思議な力を得るというのは、漫画やゲームでよく見かける設定だが、これはあくまでもフィクション(空想)であり、科学的な根拠はない(人の肉を食べることによって、神経性の病気、例えば、クロイツフェルト・ヤコブ病が伝播するというのはある)が、我々の祖先は、同胞の肉を食すことによって、何かを得られると信じていたのかもしれない。

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