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双日香港のOFAC違反

OFAC規制とは

米ドルを用いて取引をする時に注意しなければならない規制の1つにOFAC規制があります。OFAC規制(オーエフエーシーと読む)の詳しい説明は今後行うため今回は省きますが、アメリカの銀行を経由して米ドルで取引をする場合、アメリカの大統領が指定した国や人とは取引してはいけないというルールです。経済制裁の1種であり、取引禁止の相手としては、イランや北朝鮮、日本の反社会勢力などが含まれています。

OFAC規制の違反により、制裁金を科された団体や人物はアメリカの財務省のサイトから確認できます。

https://home.treasury.gov/policy-issues/financial-sanctions/civil-penalties-and-enforcement-information

今回は、2022年の罰金対象者の中に、日本の総合商社である「双日(そうじつと読む)」が含まれていましたので、双日のOFAC規制違反の中身を詳しく見ていこうと思います。

双日香港のOFAC規制違反

双日とは、就職人気ランキングでも常に上位に来る総合商社で、自動車から農業、ヘルスケア、不動産まで幅広い商品を世界中で扱っている日本を代表する企業です。

本件では香港にある双日の子会社「双日(香港)有限公司(以下、双日香港)」が、イラン関連の取引・制裁規制に違反したとして、5,228,298 USD(2022年1月のレートで約6億円)の罰金を支払っています。
米国財務省からの正式な報告書は2022年1月11日に公開されています。

https://home.treasury.gov/system/files/126/20220111_sojitz.pdf

違反の内容

双日香港は、2016年8月から2018年5月にかけて、イランで製造された高密度ポリエチレン樹脂をタイ王国の業者から64,000トン購入し、その高密度ポリエチレン樹脂を中国の顧客に販売しました。この取引において、双日香港はタイ王国の業者に合計で75,603,411 USD(取引期間の平均レート換算で約83億円)を支払いました。この支払に関して、実際の送金は米国の金融機関を通して行われました。

つまり、双日香港は、制裁対象国であるイランが製造した商品の代金の支払いを、米国の金融機関経由で米ドルを用いて行ったのです。

さらに、悪いことに、このイラン関連取引に関与していた双日香港の社員は、イランの業者との取引にかかる支払であることを明記せずに送金を行いました。イラン関連の取引であることが送金時に明記されていれば、その送金を行った米国金融機関は、OFAC規制に基づいて双日香港からの送金依頼を拒絶できたのですが、イラン関連取引であるという情報が省略されていたため、見逃してしまったのです。

報告書には、「双日香港の担当者は、イラン関連の取引において、米ドルは使用できないと警告されていた(筆者中:つまり、違法性の認識はあったと考えられる)。しかし、この担当者は、双日香港のコンプライアンス部門や役員がイラン関連取引だと認識できないように、高密度ポリエチレン樹脂はタイ王国で製造されたと社内では報告していた」と書かれています。

結果として、双日香港は約520万USDの罰金を科されたわけですが、財務省の報告書によると、以下の点を考慮して、罰金はある程度減額されたと書かれています。

  1. 双日香港のコンプライアンス担当者と日本の双日本社のコンプライアンス部門が、イラン関連取引に関して米国の金融機関を介した米ドルの送金はできないと、取引の担当者に社内で繰り返し伝えていたこと。

  2. 取引の担当者が意図的に高密度ポリエチレン樹脂がイラン原産であることを隠したため、会社として双日がその事実に気付けなかったこと(筆者注:つまり会社として双日がOFAC規制違反に取り組んだのではないこと)。

  3. 双日香港は過去5年間にOFAC規制違反がないこと。

  4. 双日香港は、このOFAC規制違反を自主的に開示し、調査に協力したこと。

  5. 本取引を担当した双日香港の社員は既に解雇されたこと。

  6. 制裁対象国との取引がないかどうかの確認を、より一層厳しく行うなどの改善策を実施したこと。

まとめ

少数の担当者によって、本来実行されるべきない取引が、意図的に情報が隠蔽されたことが原因で、実行されてしまいました。結果として、会社が約6億円の罰金を払いました。多くの時間と労力が本件の調査に費やされと考えられます。大きな会社になればなるほど、担当者のみ把握している事実や部署間で適切に共有されない情報も多くなってしまうのではないでしょうか。本件は取引の担当者が意図的に不正取引を行ったとはいえ、組織としてそのような不正取引を防止する仕組みの構築が求められます。

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