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タヌキストーカー、水族館へ行く

0. 要約

・ 動物園は行動展示が強く水族館は環境展示が強い印象
・ スケールの小ささ・混合展示のしやすさはメリット
・ 魚への共感性の薄さは展示にとって強力なメリット
・ 経時変化が負えないことは大きな弱み(動物園が強い)

1. イントロ

 昨今はTwitterのスペースというサービスが開始され毎晩のように動物園・水族館好きが議論しています。ただその中で「水族館のことが話題にあがりがちで意外と動物園や飼育個体の話題が少ない」ことに違和感を覚えたのがきっかけです。

 ただ動物好きやカメラから入った人からすると敷居をあげてるようにしか見えないな……とも思うのです。あまりに

 筆者はタヌキを中心に撮影しているほか行動分析学や認知科学という観点から動物沼にハマったため展示場に関しては専らの素人です。動物園には毎週のように通っていますが、水族館には何を撮ればいいかわからずあまり通っていなかったので、まずは自分の目で見てから考えようかなと。

2. 水族館と動物園の構造的違い?

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 水族館は動物園と違ってより省スペースで展示場が設計できる。これは動物園と水族館を決定的に分ける要素だな……と見てて思いました。写真は碧南海浜水族館なのですが、知多半島の海を「そのまま」再現しています。このスペース内で表現できれば来園者も「知多半島の海を再現してるんだな」ということがわかると思います。

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 もちろん動物園でも同じことをやっている園はあるのですが……サバンナを再現しようとするとよほど広大な土地と財力がなければ難しい気がします。一目見てサバンナと感じるには流石に限界があるかと。(写真はよこはま動物園ズーラシア)

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 エンタメ寄りに降ってもこれだけの種をこれだけのスペースに収められることはメリットな気がします。チンアナゴという看板を掲げつつ来園者は他のお魚たちをほぼ目にするでしょうし。

3. 魚への共感性と水族館展示?

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 おさかなの「食べ方」についても展示されているのですが、これを家畜系のふれあい動物園(例えばヒツジやヤギ)でやったら批判が殺到しそうな未来しか見えないです。冷静に考えたらマダイってタヌキより寿命長いのでそれだけ彼らの生き様があるでしょうに……

 それだけ人間から遠く離れた種族とも言えるのですが……おさかな=食べ物な印象が強いですし所詮動物倫理といえど人間が決めていることだよなと改めて思わされるのでした。

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 これも動物園でやったら完全に叩かれそうなのですが魚類だからこそできる展示だなと。これだけなら映像でもいいのかもしれないですが、真下にも成体のトラザメが展示されておりリアルタイムで比較観察できるメリットはありますね。

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 これも動物園でやったらスルーされそうなのですが、水族館ならではなのか展示場自体が展示されてるのも印象的だったなと。

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 おまけですが基本屋内展示なのでモニターやタブレットなどの電子機器が使いやすいのもメリットなのかな……と思います。

4. 個体史と動物園展示?

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 一方で我々人間は動物に共感性を持ってしまう生き物であり、動物の個体識別もできるため個体史を追えます。例えば個体が生まれてから成長するまでどのような生き方をしてきたかを水族館で追うのは一部の海獣を除いて難しいのかと思います。

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 また共感性を持てて個体識別ができることは個体レベルで見たときの死や尊厳についても展示できるメリットはあると思います。写真は京都市動物園で当時日本最高齢であったライオンのナイルです。文字通り骨と皮だけになってもオスライオンであることを辞めなかったナイル。その展示からは「死とは何か」「尊厳とは何か」「何が幸せなのか」を考えさせられました。

5. 意外と水族館・動物園でカバーできてること

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 そういえば水族館にもふれあいコーナーってあるんですね。ふれあいにどこまで意味があるかはともかく、水族館展示の場合は触覚に訴える展示が多かった気がします。

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 水族館でもイルカやシャチ・カワウソ・アシカなどは個体展示しています。教育面オンリーだと集客が辛そうなのでエンタメ要素も取り入れてますね。不思議とこういう動物たちが環境面にフォーカスを置かれて展示されてる例は少ない気がします。

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逆に動物園でもサル山展示なんかは個体を追わない方向で展示している気がします。ただこの場合も環境展示というよりは動物の社会性や行動の展示に趣を置いている印象が強いです。

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 動物園の場合は動物自体は個体を展示しているものの、そのラインナップは環境展示しているという例も多い印象です。例えば農業が栄えている飯田市立動物園では展示種に合わせて解説を出しています。

6. おまけ:水族館と心理学?

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 「環世界」という概念においてイシガレイはわかりやすい展示だなと。「環世界」とはその種の生き物が感じている世界観と思って頂ければいいが、彼らは砂地に這って生きているので、世界は常に頭上に広がってます。

 昔ヒラメやカレイを釣るときは彼らが海面にいるからとわざとエサを海面スレスレに這わせていたが、彼らが上向きにものを見る生き物だとわかれば表層を漂わせた方が喰い付きがいいだろうと予想はできますね。

 案外人間に近い動物だとどうしても人間と同じような感覚な世界観だと思いがちですが、ここまで種が離れるとそういう誤解を取り払えるのではと。

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 意外と魚類でも見せる種は表情を見せてくれるんだなと。争いは近しい実力の者同士でしか起こらないし、狭い世界でないと起こらないものなんだなとも思わせてくれました。

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 おさかなたちにも共感性自体はあるはず……。特にお掃除役のお魚としてはクライアントのかゆいところを共感せねば下手すると追いかけ回されかねない。

6.  結論

 個人的に違和感があった「水族館勢が展示物を気にする」「教育的観点を重視する」理由はよくわかった気がします。確かに我々人間は魚類に対して共感を抱きにくい故に展示場に工夫がしやすいというのは盲点だった気がします。

 ただ逆を返せば(主に鳥類や哺乳類の)動物に共感を抱ける以上。行き過ぎた擬人化は害になるのでしょうが、動物個体を追い続けさせようとする展示は動物を展示する都合上有効な手段なんだろうと。そもそも展示物への興味という意味では発信手法やアウトプットが異なるだけで、展示されている個体のファンとなる行為も、水族館の展示手法を評価するのと同等程度には園館の評価につながっているとタヌキストーカーなりに思うのでした

 そう考えるとタヌキがいる水族館があれば全部解決するのでは?とタヌキストーカーなりに考えてしまうのですがそんな水族館などあるわけ……アクアマリンふくしまはいいぞ。いのこづ・よしのはいいぞ。


8. 取材した円館

・ 碧南海浜水族館           https://www.city.hekinan.lg.jp/aquarium/index.html
・ 竹島水族館                https://www.city.gamagori.lg.jp/site/takesui/
・ 赤塚山ぎょぎょランド http://www.akatsukayama.jp/
・ 東山動植物園             http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/
・ 京都市動物園             https://www5.city.kyoto.jp/zoo/
・ 飯田市立動物園            https://iidazoo.jp/
・ 岡崎市東公園動物園    https://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1107/1149/p006023.html

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