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All the Things You Are

「オール・ザ・シングス・ユー・アー All the Things You Are」は、1939年にオスカー・ハマースタイン(Oscar Hammerstein)とジェローム・カーン(Jerome Kern)によって書かれたポピュラーソング。大スタンダード。

不作のミュージカルから生まれた名曲

「オール・ザ・シングス・ユー・アー」は、ブロードウェイ『ヴェリー・ウィーム・フォー・メイ Very Warm for May』のために書かれたんだけど、このミュージカルはまったく流行らず、59回で打ち切られてしまった。なんと2日目の夜に入ったお客さんは22人 (Furia & Lasser 2006, p. 157)。そんな失敗作だったけど、この曲の方は大ヒットした。作詞をしたハマースタインは「ジェリー([ジェローム・カーン])と私がこれまでに出したヒット曲の中で最も驚いた曲だ」と回想している (Gioia 2021, p. 58)。

駄作と言われた『ヴェリー・ウィーム・フォー・メイ』

作曲者のカーンは「自分の曲を自由に演奏するジャズ・ミュージシャンを敵視していた」(Gioia 2021, p. 58)。つまりカーンは作曲家の意図を超えたアドリブにいい顔はしなかった。それでもこの曲はほんとうに多くのミュージシャンが素晴らしい演奏をたくさん残している。他方でどういった演奏をカーンは意図していたのか、あるいはどういった演奏ならばカーンの意図に近いのか、そのことの探求は個別になされてもよいかもしれない。そういったものを調べたり考えたりすることは、リスニング・ライフを楽しくさせてくれる。

歌詞は、恋に落ちてドキドキしている「わたし」の独白のようなヴァースからはじまる。ついで、「あなた」がさまざまなものに情緒豊かに例えられる。最後に「あなたはわたしのものになる」という言葉で締められる。

録音

Hot Club de Norvege (Oslo November 6 2001)
Angelo Debarre (Guitar); Ola Kvernberg (Violin)
デュバーレとクヴェルンベルグのデュオ。演奏がすげえ楽しんだろうなあってなる録音。クヴェルンベルグの息遣いもスイング。デュバーレは単音のソロを展開していて超絶なんだけど全然いやらしくなくてかっこいい。全体としてデュオだからギターとバイオリンの両方がリードとリズムの両方を担っている。バイオリンのチョップがかっこいい。

Billy Kyle (NY April 11 1946)
Billy Kyle (Piano); John Kirby (Bass); Jimmy Shirley (Guitar)
ルイ・アームストロングのバンドでも活躍したビリー・カイルの録音。テンポが速くなってからのカイルのピアノがとにかくかっこいいですね。いろんな引用の引き出しを開てもう最高。ジャズからバロック風とカイルの懐の広さを印象づけている。

Martial Solal & Didier Lockwood (Paris 1993)
Martial Solal (Piano); Didier Lockwood (Violin)
2人の巨匠のフランス人デュオ。この録音も好き。ロックウッドのヴァースからはじまって、2人が織り成す世界がたち現れる。オーラ・クヴェルンベルグとアンジェロ・デュバーレのデュオとは違った、ベテランらしいどっしりとした演奏とウィットに富んだ演奏を聴くことができる。

参考文献

  • Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.

  • Gioia, Ted. (2021). The Jazz Standards: A Guide to the Repertoire, 2nd Ed. Oxford: Oxford University Press.


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